転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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だ、ただ大丈夫なの⁉︎

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「おじさま! おじさまっ⁉︎」
私はガルバノおじさまの元に駆け寄った。
頭のあたりに酒瓶が転がり、赤黒い染みが床に広がっている。
ええと、もし転んで頭を打ったりしていたらいけないので揺らしたりするのは厳禁よね。
まずは意識、それから呼吸の確認……そ、それから……なんだっけ、心臓マッサージ⁉︎ AEDなんてこの世界に無いよ⁉︎
「おじさま! 大丈夫ですか⁉︎」
……グオォ……
「え?」
地の底から響くような唸り声が聞こえた。
「グオオオオー」
……と、思ったらおじさまのいびきだった。
も、もしかして寝てるだけ⁉︎
この部屋に充満しているアルコール臭といい、泥酔して転んで頭を強打でもしたのかと思ったのに。
いやいや、脳卒中の時いびきをかいていることがあるって聞いたことあるし……
あ、マリエルちゃんがいたんだ!
前世が看護師のマリエルちゃんを呼べば、どうすればいいかわかるかも!
私はマリエルちゃんを連れて来ようと立ち上がった。

「んんぅ……なぁによぉ? 朝っぱらから騒がしいわねぇ」
聞き覚えのある声にハッとしてその方向を見ると、ソファに置いてあった毛布の塊がごそりと動き、その中からティリエさんがもそりと顔を出して起き上がった。
「ティ、ティリエさん⁉︎」
「んー……? って、あらぁ! クリステアちゃんじゃない。おはよう。今日はどうしたの? 学園はお休みなのかしらぁ?」
目を擦りつつ、私の姿を発見したティリエさんがのんきに挨拶してきた。
「ティリエさん! そんな悠長に構えてる場合じゃないです! おじさまが!」
「ええ? ガルバノがどうしたっていうのよ……て、なんだ。まだ寝てるじゃないの」
「……寝てるだけ、ですか?」
これだけ騒いでいるのにも関わらず、おじさまは大きないびきをかいていて、起きる気配すらないのだけど。
「明け方まで呑んでたからねぇ。床で寝ちゃったもんだから放置してそのまま私も寝てたのよね」
「え、そのままですか?」
「だって、ガルバノをベッドに運ぶのなんてイヤよ。筋肉の塊だから重いんだもの」
ティリエさんは、今の季節だと温かいから平気でしょ、なんて言いながらテーブルに移動してテーブルに残っていたワインをグラスに注ぎ、これまた残り物のチーズを摘もうとしたところでブチっと切れた。

「ティリエさん! 迎え酒はやめてちゃんとご飯食べてください! お兄様、窓を開けてください! 真白ましろ、ガルバノおじさまを起こして!」
「りょうかい。おっきろー!」
真白ましろが両手をガルバノおじさまの頭あたりにかざすと、バジャーっと氷混じりの水が降り注いだ。
「なっ! 何じゃ⁉︎ 何が起こった⁉︎」
氷水を頭から被ったおじさまは慌てて飛び起きると、私たちの姿を見つけて目をぱちくりとさせた。
「嬢ちゃん⁉︎ 何じゃ? 学園はどうした?」
おじさまは頭をブルブルッと振るわせて言った。
いや気にするところそこじゃないでしょ?
「おじさま……温かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷え込むこともあるのですから、床で寝たりなんてしちゃだめです! 風邪をひいてしまいますよ」
真白ましろに氷水かけさせておいて何だけど。
「いや、わしは風邪なんぞ引かんし……」
「そうよ、ガルバノは頑丈なんだからこのくらい平気よ」
「問答無用! おじさまたちは裏の井戸で顔を洗ってきてください! 朝食の準備をしますから! 早く!」
心配した分怒り倍増の私は二人を裏庭に追い立て、真白ましろと一緒に酒瓶を一旦インベントリへ収納し片付けてから部屋全体にクリア魔法をかけ、備蓄していたみそ汁やおにぎりを出した。
お兄様には申し訳ないけれど、待っているセイたちに伝言を頼み、一緒にお店で待機していただくことにした。
一応、こっちはプライベートゾーンだから、緊急でも無い限り勝手に入れるわけにはいかないものね。

「ごめんなさいね、クリステアちゃん」
「すまんのう、嬢ちゃん」
洗顔を済ませた二人がおずおずと言った様子で戻ってきたので座らせて朝食を摂らせる。
「お二人とも、お酒がお好きなのは存じておりますが、あのような呑み方は感心しませんわ」
「いやはや、面目ない」
「あはは、気をつけるわ。んー! 久々のクリステアちゃんのご飯、美味しいわぁ!」
「うむ、嬢ちゃんのメシは相変わらず美味い。それで、今日はどうしたんじゃ?」
ガルバノおじさまはズズズ……とみそ汁を啜ると私に疑問を投げかけた。
「あのですね、おじさまにお願いがあって参りましたの。今、お店のほうに学園の友人を待たせていまして……その友人と契約している聖獣の装備の製作をお願いしたくて」
そこまで言ったところで二人がみそ汁を吹き出した。きたないなぁ。
「な、なな……なんですって? 聖獣⁉︎ 真白ましろ様と黒銀くろがね様以外の?」
「はい。同級生なんです」
二人に水魔法で濡らした手ぬぐいを渡す。
「……そういえば、今年は聖獣契約者の当たり年だって冒険者ギルド間でも速報転移便が届いたんだったわ。クリステアちゃんのお友達だったのね……」
「嬢ちゃんといい、聖獣契約者とはすごいのう」
二人が口元を拭いつつ、呆然としていた。
「それで、その契約獣が持つ装備を作っていただきたいのですけど、他にお願いできるあてがなくて……」
「嬢ちゃんよ、ワシ以外を頼ろうなんて水臭いじゃないか。嬢ちゃんのおねだりならワシャ何でもきいてやるぞい」
「ありがとう、おじさま! 大好き!」
「ほっほほ……? いつものように抱きついてはくれんのかね?」
両手を広げて待ち構えるおじさまに、私は苦笑いで答える。
「もう学園に入学するレディですし、それに……お酒臭くて、ちょっと」
「……禁酒、いや減酒するかの……」
「ガルバノには無理でしょ」
ハグを拒否されて落ち込むおじさまにティリエさんがツッコミで追い討ちをかけた。
うん、私も無理だと思う……
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