転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
296 / 423
連載

計画を立てよう!

しおりを挟む
「それで、女子会って何をするの?」
ルビィがクッキーのようにニンジンをぽりぽりと齧りながら聞いてきた。
最近は野菜スティックの他にニンジンをねじり梅の飾り切りにしたものをおやつにするのがお気に入りみたい。
初めてねじり梅のニンジンを見たとき「かっわいーい!」と盛り上がっていたからね。

「ええと……女子会と言っても、別にこれといって正式な作法とかがあるわけじゃないので……」
「そうね。女子だけで集まってお茶会をしたり、お泊まり会をしたりしておしゃべりするだけだし……」
「ふうん。女子だけってことは当然恋バナとかもするのよね?」
「恋バナ、って……」
マリエルちゃんたら前世の知識を教えるにしても偏りすぎてない?

マリエルちゃんをチラッと見ると「ルビィってば、勝手に私の記憶を読んでるんですよね……」と肩を落とした。
「あら、人聞きが悪いわね。マリエルとは契約で繋がってるから、私の能力で筒抜けなだけよぉ?」
ルビィはそういうとニンジンを上へ放り投げてパクッとキャッチした。
「ま、召喚された時に魔力の相性もいいし、面白そうな記憶を持ってる子だなって思ったから契約を決めたんだけどね~」
なんと、マリエルちゃんと聖獣契約をする決め手がマリエルちゃんの記憶とは……

「それより女子会よ! サロン棟でやるんならお茶会よね? 私も食べられるお茶菓子も出してちょうだいよ!」
「ええ⁉︎ ……野菜スティックですか?」
お茶会に野菜スティックはなぁ……
「あらやだ、まさかワタシにだけ野菜スティックを出すつもり? そんなのやーよ」
「ええ……?」

どうしようかな。
アフタヌーンティースタイルならケーキスタンドの下段に野菜多めのBLTサンドやたまごサンドを食べやすいサイズにして、中段はスコーンなどの焼き菓子、上段はケーキだけど……
「ルビィったら、わがまま言わないでよ」
マリエルちゃんがルビィの無茶振りを諌めようと嗜める。

「だってぇ……女子は皆と同じものを分け合ったりして仲良くなるんでしょ? 仲間はずれにしないでよ」
ルビィが拗ねた様子を見せると、マリエルちゃんは「うっ」と言葉に詰まる。
ルビィの普段の食事は肉食の聖獣たちに合わせるわけにもいかないので基本的に単独メニュー(サラダ)だ。
こればかりはしかたないこととはいえ、いつも疎外感を味わっているのかもしれないと思うとこういう時くらいは皆と同じものを食べて楽しみたいのだろう。

「……わかりました。何か考えてみます。作る時は手伝ってくださいね」
「もちろんよ! うふふ、楽しみにしてるわぁ」
「え、クリステアさん? だ、大丈夫なんですか⁉︎」
マリエルちゃんが心配そうに私を見る。
「ええ……多分、何とかなるんじゃないかしら。マリエルさんも手伝ってね?」
「えっ……⁉︎」
いやだからマリエルちゃん、どうしてそこで絶望したような顔で私を見るのよ?

「だ、だって私が料理したら、素材を腐海の底に沈めてしまうやも……」
……マリエルちゃんの心はいつも腐海に漂っているのでは? とツッコミを入れそうになるのをグッと堪えていると、ルビィが「あらやだクリステアったら、なかなか上手いこと言うわね?」なんて私を見ていうもんだから、マリエルちゃんが「え? えっ?」と戸惑っていた。
……ルビィさん、私の思考を読むのをやめてもらえます⁇

「マリエルさん、ルビィのサラダは作れてるんだから大丈夫よ」
「いえでもあれは造形と思って作ってますから……」
確かに、飾り切りの腕はメキメキと上がりつつあるのよね。
きゅうりやニンジンでリボンや薔薇の花を作ってるのを見て、いずれカービングまで始めるのではないかと思うくらいよ。
それなのに、料理となると途端に「何がどうしてこうなった⁉︎」みたいな仕上がりになってしまうから、不思議なのよね……
前世からの苦手意識がそうさせるのかしら。

その日はもう遅かったので解散することにして、翌日また話し合うことになった。

翌朝、午前の授業を受けるために教室に向かう途中でアリシア様やその取り巻きと鉢合わせした。
「あ……アリシア様、おはようございます」
「……おはようございますわ」
アリシア様が私に挨拶を返したので、取り巻きたちが信じられないような顔をして私とアリシア様を見た。

今まではアリシア様が私に対して敵対心ばっちばちだったこともあり、私から話しかけにいくことはなかったので、今朝も挨拶してくるとは思わなかっただろうし、アリシア様がそれを受けて挨拶を返すとか思いもよらなかったんだろうなぁ。
だってこれって、アリシア様が私を受け入れたってことになるもんね。

それでも、アリシア様が私たちから顔を背けることはなかったので、取り巻きたちも渋々と言った様子で「おはようございます……」と挨拶してきた。
「ええ、皆様おはようございます」
取り巻きたちには無視されちゃうかな? と思っていたのでちょっと意外に思いながら挨拶を返すと、アリシア様がスッと私たちの前に進み出た。

「アリシア様⁉︎」
取り巻きたちが慌てたように手を伸ばしかけたところで、アリシア様が振り向いた。
「貴女たちは別教室だからお急ぎなさい。私はクリステア様にお話がありますから」
アリシア様の毅然とした様子に、取り巻きたちはハッとしたように顔を見合わせてから「それではお先に……」と言って先を急いだ。
アリシア様の側を通る時に「頑張ってくださいませ!」と小声で応援していたから、きっとアリシア様が私に何かガツンと言ってやるのだとでも思っているのだろう。

パタパタと足早に去っていく取り巻きたちを見送った後、アリシア様が少しもじもじした様子で私たちを見る。
「あの……教室まで、わ、私もご一緒してもよろしくて?」
「ええ、もちろんですわ!」
「はい!」
やだー! アリシア様が可愛いんですけど!

「あの……お話って、何でしょう?」
皆で教室に向かいながらアリシア様に尋ねる。
さっき「話がある」と言っていたのは単なる口実だったのかもしれないけれど、ずっと沈黙が続いていたので、つい……
「あ……それは、別に、あの……」
私の問いに目線を落として歩くアリシア様の言葉を待っていると、アリシア様がぴたりと歩くのをやめた。
「アリシア様?」
「あ、あの……お茶会にご招待したかったのですけど……」
おお? アリシア様も女子会での親睦希望⁉︎
「……でも、よくよく考えたら、私ではクリステア様に満足いただけるもてなしなどできそうにありませんわ……」
そう言ってアリシア様は俯いてしまった。

「えっ?」
「昨日、夕食の際にエイディーから聞きましたの。クリステア様はショートブレッドや、柔らかいパンの素、果ては学園内のカフェのメニュー開発までなさったのでしょう? それに、王妃様もクリステア様の作ったお菓子の虜だという噂までありましたし……そんな方に満足いただけるようなお茶菓子なんて、私には……」
出せっこありませんわ……と呟き、抱えていた教材にギュッと力がこもった。

ああ、私が天然酵母パンを作るまで固いパンが主流だったし、王妃様も我が家の敵対する家の奥様たちを呼んで私の作ったお菓子を振る舞ったりしたことがあったよね……
ラース……ごはんの件で悪食だと揶揄してたら、実は美味しいものをたくさん開発してたから、お茶会に招待したくても何を出しても見劣りしてしまうのでは? と意気消沈してるってことね……

「でしたら、私がアリシア様をお茶会にご招待しますわ! 昨日、マリエルさんともお話していたんです! ね、マリエルさん」
「は、はいっ! ル、ルビィの発案です!」
「ルビィ様が……?」
「はい! 女子だけで仲良くお茶会しましょうって!」
「まあ……!」
さっきまで死んだ目をしていたのに、もふもふ好きなアリシア様の目は今やキラキラと輝いていた。よかった……
「ぜひとも、参加させていただきますわ!」
楽しみにしていますわ! と弾む声で答えるアリシア様を見てほっこりしつつ、お茶会の日はまた改めて招待状を送ると約束して教室へ急いだ。

よし! アリシア様との仲直りお茶会という名のお茶会、頑張るぞー!

---------------------------
5/18(木)にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」28話が更新されております!よろしくお願いします~!

感想&エールポチッとありがとうございます!励みになっております( ´ ▽ ` )
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。