転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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早すぎない⁉︎

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翌朝、私たちは身支度を終えて特別寮を出た。
「クリステアさん、ごめんなさい。私がヘタレなばっかりに……」
マリエルちゃんがアリシア様に忠告するのを私に押し付けたことを申し訳なさそうに謝罪した。

「いいえ、気にしないで。内容的に私から話したほうがよさそうだもの」
いくらお友達になったとはいえ、派閥争いや婚約者候補内のいざこざに新興貴族の令嬢であるマリエルちゃんが高位貴族のアリシアさんに忠告するなんてやりにくいことこの上ないに決まってる。
ルビィからの情報とはいえ、この場合は私が伝えるほうが聞き入れてもらえるだろう。

セイに昨夜のルビィと話した内容をざっくりと説明しながら教室に向かっていると、少し先にアリシア様が歩いているのが見えた。
「あら、あそこにいるのはアリシア様だわ。……んん? ちょっと様子が変ね」
「ええ、そうですね……あっ」
私の言葉に同意したマリエルちゃんが何か気づいたようだった。
「何? アリシア様に何かあった?」
「いえ、いつもならアリシア様の周りには取り巻きのご令嬢の皆様がいらっしゃるのに、今朝はアリシア様お一人だなって……」
「え? ……本当だわ」

アリシア様の取り巻きのほとんどはAクラスだったから、特別クラスの私たちとは教室が違うものの、分かれ道まではアリシア様と一緒に登校していたはず。
それなのに、アリシア様は一人で教室に向かっていた。

「え、これって、もしかしてわざと? 取り巻きのご令嬢たちはアリシア様のお友達じゃなかったの?」
私がアリシア様の背中を見つめながら思わず口にしてしまうと、マリエルちゃんも気の毒そうにアリシア様を見た。
「お友達だとは思いますよ。でも、上級生の命令だったり、嫌がらせを恐れて距離を置いている可能性もありますから……」
ああ、そうか。そういうこともあるのかぁ。
お母様も学園時代に今の国王陛下の婚約者候補だったときに嫌がらせをうけたりしてたって言ってたっけ。
ああ、貴族って面倒くさい。

そんなことでこんなふうにひとりぼっちになるなんて。
それなのに、アリシア様は俯くことなくしっかりと背筋を伸ばして前を向き、迷いのない足取りで教室に向かっていた。

私だったら「学校行きたくないよぉ……」ってへこたれてたに違いないこんな状況下でも凛としたその姿に、アリシア様は強いなぁ……と思った。

「アリシア様と合流して一緒に教室に向かいましょう」
「ええ、そうですね!」
マリエルちゃんと頷きあって手荷物を抱え直し、早歩きで向かおうとしたその矢先、アリシア様が何者かに行く手を阻まれ立ち止まった。

「あ、あれは……!」
私たちより明らかに年上とわかる女生徒が数名、アリシア様の前に立ち塞がっていた。
昨日の今日で早速⁉︎ 行動早すぎない⁉︎
私とマリエルちゃんは急いでその場へ向かった。

「……おはようございます、先輩方。そこを通していただけますかしら」
「あら、私たち貴女に用があってここにいるのよ、アリシア様?」
「何の御用でしょうか?」
にやりと笑う上級生に対してアリシア様は狼狽えることなく毅然とした態度で臨んでいた。
アリシア様の様子を見て、ここで私たちがしゃしゃり出るのはどうかと思い、少し手前で立ち止まって上級生たちから微妙に死角となる場所で様子を伺うことにした。

「私の親友の従妹が貴女に裏切られたと泣いていたものだから、私居ても立っても居られなくて。ああ、あの子たちがかわいそう」
「私が貴女様のご友人の従妹……?を裏切った? 何の話です?」

え? 親友の従妹とか知り合いでも何でもない、ほぼ無関係な間柄じゃない?
アリシア様もそこを疑問に感じたようだけれど、とりあえず不審そうに反応する彼女を無視して、上級生は沈痛な面持ちを崩すことなく続けた。

「その子は貴女のことを大切な友人と思っていたのに、貴女はあっさりと敵側に寝返ったそうね。なんて酷いことをなさるのかしら」
「……何をおっしゃっているのかわかりませんわ」
アリシア様が上級生から目を逸らすことなく毅然とした態度を貫いていると、その上級生はわざとらしくため息を吐いた。
「はあ……王太子の婚約者候補に選ばれながら、ライバルのご令嬢におもねるなんて、私だったら恥ずかしくてできませんわぁ」
「な……っ?」

なんだとぉ⁉︎
アリシア様がいつ私にこびへつらったって⁉︎
アリシア様は、ただ自分の勘違いとそのことによる態度を反省して謝罪しただけだし、誤解が解けた結果、お友達になっただけだっての!
憤慨した私が出ようとしたら、マリエルちゃんに止められた。

「クリステアさん、もう少し様子を見ましょう」
「どうして? 私のせいでアリシア様が侮辱されてるのに黙っていろって言うの?」
「だって、クリステアさんノープランで特攻しようとしてますよね?」
「う……!」
図星を指されて勢いが削がれた私はその場に留まった。

「マリエル嬢の言う通り、少し様子を見よう」
私たちの背後で静かになりゆきを見守っていたセイがマリエルちゃんの意見に同意した。
「セイ、貴方は先に行っても……」
遠回りになるけれど、別ルートを行けば授業には余裕で間に合うはず。
私たち貴族の子女の醜い争いに男子生徒かつ留学生のセイを関わらせるのは申し訳ない。
「こんな状態を放置して行けるわけないだろ。いざとなったら僕が知らぬ顔で出ればいい」
「セイ……」
た、頼りになるぅ!

感動している私のことなど気づくはずもなく、上級生は話を続けた。
「ですからね? 私、そんな方とのお付き合いはおやめなさい! と彼女たちに忠告して差し上げましたの」
「……」
ここまできたらもうその「彼女たち」というのがアリシア様の取り巻きたちだと鈍い私でもわかった。

やることがえげつない。
取り巻きとはいえ、幼い頃からの友人をアリシア様から引き剥がし、それをわざと教えるとか。
アリシア様を傷つけようという悪意しか感じられない。
心配になってアリシア様を見ると、彼女は怯むことなく上級生に対峙していた。

「……私は大切な友人たちを裏切ったりはしておりませんわ」
「は、何を馬鹿なことを……」
「私は、私の信念に従って己の間違いを正し謝罪しただけです。その結果、新たな友人は増えましたが、それは裏切りではありませんもの」
上級生から目を逸らすことなく、毅然と答えるアリシア様はかっこよかった。
そんなアリシア様の態度にカッとした上級生が叫んだ。
「なっ……と懇意になるなど、裏切り以外の何ものでもないでしょう!」

うわー、まだ払拭されてないの? 「悪食令嬢」。
マリエルちゃんの実家であるメイヤー商会を通じて色々草の根活動頑張っててもライバル令嬢には明確に突ける弱点? だからかなあ。
でもここまで言われちゃ私だって黙ってるわけにはいかなくない?

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