転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
312 / 423
連載

そんなつもりは全くなかったと本人は供述しており

しおりを挟む
「はあああぁ……」
教室に入り席についた私は盛大なため息を吐いた。
「クリステアさん……」
「うう、そんなつもりは全くなかったのに」
殿下もお気に入りのごはんをバカにすると不敬になるぞって言いたかっただけなのだ。
本当にただそれだけだったのに。

「いや今回に関しては自爆と言うか……」
「まあ、自業自得ですわね」
「うぐぅ……返す言葉もございません」
いつもは後ろの方の席に座るアリシア様だけど、私の動揺っぷりが心配だったようで、今日は私の隣の席に座っている。
セイは遠慮してか、エイディー様に捕まってか、私たちの後ろの席に着いた。
はあ……私の逆隣に座るマリエルちゃんの遠慮がちなツッコミにとどめを刺すアリシア様、二人してしょうがないなこいつ、みたいな目で見ないでほしい。つらい。

「今この時も先ほどの内容がかなり曲解されて広まっているかもしれませんね……」
「昼休みには早くも婚約が決まった、くらいには拡大解釈されていそうですわね」
「あああああ……」
そんなバカな。
アリシア様を助けに行っただけなのに、自分が窮地に陥るとか意味不明なのですが⁉︎
これだから貴族のやりとりって嫌なんだよ!
ちょっとした失言が大事になる貴族こわい!

「本来であれば大変名誉なことですのに。クリステア様にとっては忌避したいことだなんて、おかしな方ね」
アリシア様が心底不思議、と言わんばかりの表情で私を見る。
「私はこのとおり領地で引きこもって暮らしておりましたのでああいったやりとりは不得手なのです。あれでも、私としては上出来だと思っていたんですよ?」
「これは会心の一撃!」と思ってたのが変化球で自分に跳ね返ってきた気分だよ……

「クリステアさんは、良くも悪くも素直で裏表がないんですよね。だから、良かれと思ってやったことが裏目に出たというか」
「腹芸ができないのは致命的ですわよ。私も得意なほうではありませんけれど、クリステア様も相当ですわね」
「うう、面目次第もございません……」
腹芸なんてできっこないよ、だから王族に嫁ぐとか無理だよー!

うぐぐ……と項垂れる私に、アリシア様が表情を曇らせる。
「でも、今回は私を庇っていただいたためにこんなことになったんですものね……ご迷惑をおかけしてしまってもうし……」
「アリシア様、お友達を助けるのは当然のことですわ。結果については私のやり方が不味かっただけで、アリシア様のせいではありませんから謝罪は受け付けませんよ?」
「クリステア様……」
私の言葉にアリシア様は謝罪の言葉を飲み込んだ。そうそう、それでいいのよ。

「アリシア様がレイモンド王太子殿下をお慕いしているのでしたら、応援しますからね」
なんなら全面的にバックアップしちゃいますよ?
積極的に会える機会を設けたり、お兄様にお願いしてアリシア様を推しまくってもらったりとか、うん、今度お兄様に相談してみようかな。

「お、お慕いとか、そんな……貴族は家同士の結びつきが重要であって、私の気持ちなんて……」
アリシア様はパッと顔を赤くしたかと思うと話しているうちに弱々しい口調になり、黙り込んでしまった。あれ?
「アリシア様?」
どうしたのだろうと声をかけようとしたその時にニール先生が教室に入ってきたので有耶無耶になったまま授業が始まってしまったのだった。

午前中はニール先生の内容濃いめの魔物学の講義で終わった。
「……ニール先生の魔物学の講義は面白いといえば面白いのですけれど、脱線が多いのが難点ですわね」
アリシア様が書き込みがびっしりのノートを閉じながら言った。
え、すごい。雑談じみたあの講義の内容をしっかり書き留めているのではないかしら。
アリシア様って本当に真面目なのね。

「ですねぇ。雷属性のネズミの魔物を捕まえようとしたら髪の毛が逆立ってしばらく戻らなかった話とか楽しかったですけど」
……結局ゲットできなかったオチも含めて面白かったけれど、試験にはでません。残念。

「さあ、お昼ですから寮に戻りましょう。クリステア様たちも特別寮で昼食を摂られるのでしょう? 途中までご一緒してもよろしくて?」
アリシア様が手荷物をまとめ終え、席を立ったところで後ろの席でセイと授業を受けていたエイディー様がタタッと駆け寄ってきた。

「なあ、今日の昼は皆でカフェテリアに行かないか?」
「カフェテリア?」
ああ、レシピ提供をしたあそこのことだろうな。

学園内には男子寮と女子寮の間に建つサロン棟にある食堂の他に、そこまで戻るのが時間的に難しかったり、面倒な人のためにカフェテリアなどが点在している。
その中の一つのカフェテリアに以前牛丼とローストビーフのレシピを提供して、今では騎士科の生徒をはじめお腹を空かせた学生たちに人気の店となっていた。

私やマリエルちゃんたちはレシピ提供した謝礼としていつ行ってもタダなのだけど、それは心苦しいのであまり食べに行ってはいなかったりする。

「今、期間限定でチャレンジメニューがあるんだ。騎士科は皆行くって言うから俺もチャレンジしようと思って」
「俺は、そう言って聞かないエイディーの付き添いだな」
セイがエイディー様にガッチリ肩を組まれてうんざりした顔をしていた。
チャレンジメニュー? なんだろう?
もしかして新作に挑戦したのかしら。
興味を持った私は、マリエルちゃんと目配せして、アリシア様を誘うことにした。

「せっかくですから、アリシア様もご一緒しませんか? ラースを使ったメニューで人気の店なんですよ」
「ラ、ラース。あの、噂のカフェテリアですの⁉︎」
あ、誤解が解けたとはいえ、やはりまだ忌避感は薄れないかな。
今、寮の食堂に戻っても楽しい食事にはならないだろうし、せっかくだから一緒にランチするのもいいかなって思ったんだけど。

「あ、あの、ラース以外の料理もありますから……」
「い、行きますわ! ラース料理ですわね!」
「えっ? ア、アリシア様、別に無理をしなくても……」
「お、お友達が美味しいとおすすめするラースを食べてみたいですわ!」
「アリシア様……!」
覚悟を決めましたわ! みたいな表情で言われると嬉しい反面、そこまで忌避されるなんて、自分がいかに貴族の娘として非常識なことをやらかしていたのかと思い知らされるのだった。

「お? アリーもついに意地はるのをやめて食う気になったか! じゃあ行こうぜ!」
……こんな時、空気を読まないエイディー様が羨ましくなってしまう。
ええい! この際だからアリシア様にはごはんがいかに美味しいものか知っていただこう!
いざカフェテリアへ!

---------------------------
いつもコメントやエールありがとうございます!
いつもうへへ……とニヤついております!
執筆の励みになっております、頑張ります!
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。