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おいひぃれふぅ!
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マリエルちゃんが漂ってくる匂いを頼りにふらふらと歩きながら、引き寄せられるかのようにたどり着いた先は、鶏肉らしきものを串焼きにした屋台だった。
「へいらっしゃい! うちの串焼きは他の店とはソースが違うよ! 一本どうだい?」
店主らしきおじさんが串に刺した肉にハーブらしきものが混ぜ合わせられた白っぽいソースを手際よく塗り、ジュウジュウと音をさせるそれを持ち上げて見せた。
「い、一本ください!」
「あ、わ、私も! ええと、こっちは五本ください!」
マリエルちゃんが涎を垂らさんばかりに勢いよく注文したので、私も釣られて他の皆の分も頼んだ。
「あいよ! ちょうどいい感じに焼けたばかりだ」
そう言われて手渡された串焼きは、他の素朴な串焼きとは違って、焼けたソースがなんとも言えない香ばしい香りを振り撒いていた。
ミリアが支払いをしようとしたのをレオン様が止めて、まとめて支払いしてくださったので、礼を言ってすぐ近くに設置されていたベンチに移動して腰掛けた。
咄嗟に串焼きを受け取ったので、せめて食べる前に……と手元だけクリア魔法で綺麗にしてから肉にかぶりつく。
ジュワッ……!
大抵の串焼きは焼きすぎるとお肉が固くなるのに、このお肉……鶏肉かな、いや、コカトリス? は、しっとりしてジューシーだ。
それに塗られたソースが混ぜ合わせたハーブの香りと一緒にふわりと鼻腔をくすぐる。
やっぱり、これは……
「はふぅ……マヨ焼きおいひぃ……!」
マリエルちゃんがハフハフと頬張りながらうっとりとして言った。
だよね! このソースは間違いなくマヨネーズだわ。
「おっ? お嬢ちゃん詳しいね! そうさ、このソースはお貴族のお嬢様が考案したまよねーずってやつを使ったんだ。美味いだろ?」
「ふぁい! おいひいれふ!」
マリエルちゃん、お肉を頬張ったまま話すのはお行儀悪いわよ⁉︎
でも、マヨラーだけあってさすがね、マリエルちゃん。
匂いでこの屋台を引き当てるとは……
「俺が案内するつもりだったんだが、その前に文字通り嗅ぎつけられちまったな」
レオン様が苦笑しながら食べ終えた串を屋台の側に設置された箱に放った。
マリエルちゃんのマヨネーズに対する執着はどこからくるのか……レオン様が面白そうにマリエルちゃんを見ているけれど、当の本人は先程までの緊張はどこへやら、ご機嫌で二本目を注文していた。
「さすが、アデリア学園の生徒は美味いもん食ってるんだなぁ。これは野菜が美味くなるって金持ちに人気のソースなんだが、こういう使い方もできると思ってやってみたら大当たりさ」
店主がマリエルちゃんに二本目を手渡しながらウインクした。
「マヨネーズの可能性は無限ですよ! ぜひ他のメニューを作るときもマヨネーズを使ってくださいね!」
「お……おう? 考えとくわ」
マリエルちゃんの熱弁にタジタジになる店主を見て思わず笑ってしまった。
串焼きは美味しかったので、セイたちにもお土産として買って帰ろうと多めに注文して袋に入れてもらった。
その後はレオン様のおすすめのスープ屋さんや、焼き菓子の店などを教えてもらった。
そして最後に案内してもらったのは、香辛料のお店だった。
遠目からでもわかる豊富な品揃えに思わず胸が高鳴った。
「レオン様、あのお店って……」
「レイから聞いたぜ。面倒なこと頼んじまって悪かったな。でもまあ、お嬢の作るレシピなら間違いねぇだろ。ここの代金は詫びとして俺もちだから好きなだけ買うといい。試作に必要だろ?」
レオン様はそう言ってニッと笑った。
え、好きなだけって言われましても。
……その代金の出所はもしかしなくても国庫からなのでは……⁉︎
思わずジト目でレオン様を見ると、その視線の意味がわかったようでニヤリと笑いながら「安心しろ。これは俺が冒険者として稼いだ金で買うから」と言った。
えっ? 冒険者として⁉︎
レオン様なにやってんの⁉︎
いや、私のためとは言え黒銀も冒険者登録してるけれども!
私が何も言えないでいると、レオン様はなんの問題も無いとばかりに肩をすくめた。
「間引いた魔物を王宮に持ち帰るのにも限度があるし、ある程度は市井に流通しないと経済が回らんからな。それで俺は小遣いを得てこうして買い食いもできるわけだし、言うことなし、だろ?」
ええ……?
ドリスタン王国を代表する聖獣様がお小遣い稼ぎに冒険者してるとか国民が知ったら泣くのでは⁉︎
「陛下に怒られたりしないのですか?」
小声で尋ねるとレオン様は苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、あいつはなぁ……自分は国王になるためやむを得ず冒険者を引退したのにお前だけずるい! と文句を言われたよ」
陛下……聖獣様相手にずるいって……⁉︎
そういえば、お父様が若い頃に陛下に付き合って冒険者登録をして魔物退治してたのよね。
確かそれが縁で当時冒険者だった現冒険者ギルドマスターのティリエさんやガルバノおじさまと知り合ったんだった。
お父様が嫌がるから陛下とはあまり関わってこなかったのだけど、陛下って、ちょっと変わった人かも……?
「まあそんなこたぁどうでもいいだろ。さ、好きなだけ買いな」
いつのまにか店の前にたどり着いていたようで、トン、とレオン様に背中を押された私は商品のすぐ側まで近づくことになった。
「やあ、可愛らしいお客さんだ。こんな店に何か用かな?」
少し声の低い、褐色の肌をした若い青年がいかにもな営業スマイルでこちらを見た。
……あれ?
この人もしかしてサモナールの人?
---------------------------
いつもコメントandエールポチッとありがとうございます!
執筆の励みになっておりますー!
「へいらっしゃい! うちの串焼きは他の店とはソースが違うよ! 一本どうだい?」
店主らしきおじさんが串に刺した肉にハーブらしきものが混ぜ合わせられた白っぽいソースを手際よく塗り、ジュウジュウと音をさせるそれを持ち上げて見せた。
「い、一本ください!」
「あ、わ、私も! ええと、こっちは五本ください!」
マリエルちゃんが涎を垂らさんばかりに勢いよく注文したので、私も釣られて他の皆の分も頼んだ。
「あいよ! ちょうどいい感じに焼けたばかりだ」
そう言われて手渡された串焼きは、他の素朴な串焼きとは違って、焼けたソースがなんとも言えない香ばしい香りを振り撒いていた。
ミリアが支払いをしようとしたのをレオン様が止めて、まとめて支払いしてくださったので、礼を言ってすぐ近くに設置されていたベンチに移動して腰掛けた。
咄嗟に串焼きを受け取ったので、せめて食べる前に……と手元だけクリア魔法で綺麗にしてから肉にかぶりつく。
ジュワッ……!
大抵の串焼きは焼きすぎるとお肉が固くなるのに、このお肉……鶏肉かな、いや、コカトリス? は、しっとりしてジューシーだ。
それに塗られたソースが混ぜ合わせたハーブの香りと一緒にふわりと鼻腔をくすぐる。
やっぱり、これは……
「はふぅ……マヨ焼きおいひぃ……!」
マリエルちゃんがハフハフと頬張りながらうっとりとして言った。
だよね! このソースは間違いなくマヨネーズだわ。
「おっ? お嬢ちゃん詳しいね! そうさ、このソースはお貴族のお嬢様が考案したまよねーずってやつを使ったんだ。美味いだろ?」
「ふぁい! おいひいれふ!」
マリエルちゃん、お肉を頬張ったまま話すのはお行儀悪いわよ⁉︎
でも、マヨラーだけあってさすがね、マリエルちゃん。
匂いでこの屋台を引き当てるとは……
「俺が案内するつもりだったんだが、その前に文字通り嗅ぎつけられちまったな」
レオン様が苦笑しながら食べ終えた串を屋台の側に設置された箱に放った。
マリエルちゃんのマヨネーズに対する執着はどこからくるのか……レオン様が面白そうにマリエルちゃんを見ているけれど、当の本人は先程までの緊張はどこへやら、ご機嫌で二本目を注文していた。
「さすが、アデリア学園の生徒は美味いもん食ってるんだなぁ。これは野菜が美味くなるって金持ちに人気のソースなんだが、こういう使い方もできると思ってやってみたら大当たりさ」
店主がマリエルちゃんに二本目を手渡しながらウインクした。
「マヨネーズの可能性は無限ですよ! ぜひ他のメニューを作るときもマヨネーズを使ってくださいね!」
「お……おう? 考えとくわ」
マリエルちゃんの熱弁にタジタジになる店主を見て思わず笑ってしまった。
串焼きは美味しかったので、セイたちにもお土産として買って帰ろうと多めに注文して袋に入れてもらった。
その後はレオン様のおすすめのスープ屋さんや、焼き菓子の店などを教えてもらった。
そして最後に案内してもらったのは、香辛料のお店だった。
遠目からでもわかる豊富な品揃えに思わず胸が高鳴った。
「レオン様、あのお店って……」
「レイから聞いたぜ。面倒なこと頼んじまって悪かったな。でもまあ、お嬢の作るレシピなら間違いねぇだろ。ここの代金は詫びとして俺もちだから好きなだけ買うといい。試作に必要だろ?」
レオン様はそう言ってニッと笑った。
え、好きなだけって言われましても。
……その代金の出所はもしかしなくても国庫からなのでは……⁉︎
思わずジト目でレオン様を見ると、その視線の意味がわかったようでニヤリと笑いながら「安心しろ。これは俺が冒険者として稼いだ金で買うから」と言った。
えっ? 冒険者として⁉︎
レオン様なにやってんの⁉︎
いや、私のためとは言え黒銀も冒険者登録してるけれども!
私が何も言えないでいると、レオン様はなんの問題も無いとばかりに肩をすくめた。
「間引いた魔物を王宮に持ち帰るのにも限度があるし、ある程度は市井に流通しないと経済が回らんからな。それで俺は小遣いを得てこうして買い食いもできるわけだし、言うことなし、だろ?」
ええ……?
ドリスタン王国を代表する聖獣様がお小遣い稼ぎに冒険者してるとか国民が知ったら泣くのでは⁉︎
「陛下に怒られたりしないのですか?」
小声で尋ねるとレオン様は苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、あいつはなぁ……自分は国王になるためやむを得ず冒険者を引退したのにお前だけずるい! と文句を言われたよ」
陛下……聖獣様相手にずるいって……⁉︎
そういえば、お父様が若い頃に陛下に付き合って冒険者登録をして魔物退治してたのよね。
確かそれが縁で当時冒険者だった現冒険者ギルドマスターのティリエさんやガルバノおじさまと知り合ったんだった。
お父様が嫌がるから陛下とはあまり関わってこなかったのだけど、陛下って、ちょっと変わった人かも……?
「まあそんなこたぁどうでもいいだろ。さ、好きなだけ買いな」
いつのまにか店の前にたどり着いていたようで、トン、とレオン様に背中を押された私は商品のすぐ側まで近づくことになった。
「やあ、可愛らしいお客さんだ。こんな店に何か用かな?」
少し声の低い、褐色の肌をした若い青年がいかにもな営業スマイルでこちらを見た。
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