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なんだかんだ言っても……
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執務室から追い出された私はそのまま調理場に向かった。
朝食の後片付けが終わり、見習いたちがまかないをかっこんでいる最中だった。
出入り口から中の様子を伺う私を見つけた見習いの一人が慌てて駆け寄り、他の見習いは料理長を呼びに向かった。
別に料理長に用があったわけではないのだけど……
まあ、チョコレートの増産についてお父様から依頼される前に一応前情報として伝えておけばいいか。
「クリステア様、どうなさいましたか? 昼食の準備にはいささか早いような気がいたしますが……はっ! まさか新作のアイデアでも⁉︎」
なんでやねん。
後ろで見習いたちが「うげっ」って顔でこっちを見てるじゃないの。
今から昼食の下ごしらえまでのわずかな時間が彼らの休憩時間だろうから、その貴重な時間を潰されるかもしれないと思えば無理もない。
でも、雇用主の家族の前でそういう態度は良くないぞ。気持ちはわかるから私はとやかく言うつもりはないけど。
「違うわよ。昨日、料理長がお父様に報告してくれた件で執務室に呼ばれたの」
「おや、そうでしたか。過不足なくご報告申し上げたつもりでしたが、何か不備がございましたかな?」
料理長は私の言葉にはて? といった様子で首を捻る。
「そんなことはないのだけど、あれは晩餐会には出さないことになったの」
「まあ、そうでしょうね。例え少量でも魔力量が少ない者が体内の魔力が安定している状況で摂取すればたちまちにのぼせてしまうでしょうから」
確かに。晩餐会で料理を食べ終えて魔力量が回復状態のところにあれを出したら、大変なことになりそうな気がするもの。
「それでね、晩餐会には出さないけれど、陛下には報告しなければならないとのことで、検証のためにもっと作れないかと聞かれたから、料理長がレシピを知っていると答えたのだけどよかったかしら」
「ああ、そういうことでしたら問題ございませんよ。レシピは昨日のうちに書き記してございますし、材料さえ揃えばすぐにでも」
料理長がそう答えた瞬間、背後で聞き耳を立てていた見習いたちの目から光が消えたのは気のせいじゃない……な。
見習いの皆、ごめん。
お父様にあれを作るのがいかに大変かを伝えて、皆に臨時ボーナスを出すよう進言するから許してほしい。
これは早いところガルバノおじさまにチョコレート製造用魔導具の製作をお願いしなくては!
そう思った私は、料理長を巻き込んでチョコレート製造用魔導具の仕様などを書き出すために打ち合わせを始めたのだった。
絵心がない……というか、そっち方面は壊滅的な私に代わって料理長がサラサラと書き上げた仕様書はとてもわかりやすく、料理人の視点で使いやすい便利な機能が書き加えられた。
まあ、あれこれ機能が増えると機構や書き込む魔法陣が複雑になるから大変だと思うのだけど……我が領地には変態的な魔導具オタクのオーウェンさんがいるので、ガルバノおじさまと一緒にいい感じに仕上げてくれると信じよう。
あとの問題は素材とか予算とか報酬とかそういうアレコレだけど、レシピとかの権利関係で予算は潤沢にあるし、素材はお父様経由で冒険者ギルドのギルドマスターであるティリエさんに依頼すればどうにかかき集めてくれるにはず。
持つべきは権力者とそのコネよね。ふふふ。
動力や媒体に使う魔石は黒銀や真白が運動がてら狩ってきたものがごろごろあるらしいので、それを分けてもらえば大丈夫。
うん、いけるよいける。
私は書き上げた仕様書を手に、軽い足取りで自室に向かったのだった。
昼食はリクエストしておいた鍋だ。
まずはトマトベースの鍋を楽しんで、途中から味変でハリッサを投入。
スパイシーな味わいを堪能した後はごはんを投入して最後にチーズを追加してリゾットでシメ。
うーん、お昼にしてはボリューミーだったけど皆満足してるみたいだし、よかったよかった。
昼食の席でガルバノおじさまにチョコレート製造用魔導具の製作を依頼する許可を得るため、お父様にその旨をお話すると、とりあえず陛下に報告してから量産体制が必要か判断するので、仕様書を渡すよう言われてしまった。
許可をいただいたら、すぐにでも領地に転移してお願いしに行こうと思ったのに。残念。
しかたないので、仕様書と黒銀たちからもらった良質な魔石がごろごろ入った袋をお父様に渡したら、材料と報酬を合わせたとしてもこれは渡しすぎだと叱られてしまった。
いやだって相場がわからないんだもの。
魔石の出処を聞かれたので黒銀たちからもらったことを正直に話すと、お父様は納得してくれたものの、こんな希少な魔石をほいほい与えて甘やかさないように、と黒銀たちを注意していた。
でも二人は「主が望むことをするのが我らの喜びゆえ、いくら主の親であろうと従わぬ」と突っぱねていた。ぶれない二人だなぁ……と呑気に眺めていたら、今度は矛先がこちらに向いた。
「このとおり、聖獣の皆様は其方に甘い。それゆえ其方は自ら厳しく律しなければならぬ。聖獣契約者として正しい行いをしなさい。わからないことがあれば有耶無耶にせず、自分に都合よく解釈するのではなく、私たちに聞きなさい」
「はい……」
私がやりそうなことを先回りして釘を刺されてしまった。さすがお父様、私がやりそうなことをよくご存知で……
魔石の余剰分は私が回収……ではなく、そのまま王宮で買い取られることになった。
代金は適正価格で査定された後、私のお小遣いになるそうだ。
なんだかんだ言いながら、結局お父様も私に甘いと思う。
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朝食の後片付けが終わり、見習いたちがまかないをかっこんでいる最中だった。
出入り口から中の様子を伺う私を見つけた見習いの一人が慌てて駆け寄り、他の見習いは料理長を呼びに向かった。
別に料理長に用があったわけではないのだけど……
まあ、チョコレートの増産についてお父様から依頼される前に一応前情報として伝えておけばいいか。
「クリステア様、どうなさいましたか? 昼食の準備にはいささか早いような気がいたしますが……はっ! まさか新作のアイデアでも⁉︎」
なんでやねん。
後ろで見習いたちが「うげっ」って顔でこっちを見てるじゃないの。
今から昼食の下ごしらえまでのわずかな時間が彼らの休憩時間だろうから、その貴重な時間を潰されるかもしれないと思えば無理もない。
でも、雇用主の家族の前でそういう態度は良くないぞ。気持ちはわかるから私はとやかく言うつもりはないけど。
「違うわよ。昨日、料理長がお父様に報告してくれた件で執務室に呼ばれたの」
「おや、そうでしたか。過不足なくご報告申し上げたつもりでしたが、何か不備がございましたかな?」
料理長は私の言葉にはて? といった様子で首を捻る。
「そんなことはないのだけど、あれは晩餐会には出さないことになったの」
「まあ、そうでしょうね。例え少量でも魔力量が少ない者が体内の魔力が安定している状況で摂取すればたちまちにのぼせてしまうでしょうから」
確かに。晩餐会で料理を食べ終えて魔力量が回復状態のところにあれを出したら、大変なことになりそうな気がするもの。
「それでね、晩餐会には出さないけれど、陛下には報告しなければならないとのことで、検証のためにもっと作れないかと聞かれたから、料理長がレシピを知っていると答えたのだけどよかったかしら」
「ああ、そういうことでしたら問題ございませんよ。レシピは昨日のうちに書き記してございますし、材料さえ揃えばすぐにでも」
料理長がそう答えた瞬間、背後で聞き耳を立てていた見習いたちの目から光が消えたのは気のせいじゃない……な。
見習いの皆、ごめん。
お父様にあれを作るのがいかに大変かを伝えて、皆に臨時ボーナスを出すよう進言するから許してほしい。
これは早いところガルバノおじさまにチョコレート製造用魔導具の製作をお願いしなくては!
そう思った私は、料理長を巻き込んでチョコレート製造用魔導具の仕様などを書き出すために打ち合わせを始めたのだった。
絵心がない……というか、そっち方面は壊滅的な私に代わって料理長がサラサラと書き上げた仕様書はとてもわかりやすく、料理人の視点で使いやすい便利な機能が書き加えられた。
まあ、あれこれ機能が増えると機構や書き込む魔法陣が複雑になるから大変だと思うのだけど……我が領地には変態的な魔導具オタクのオーウェンさんがいるので、ガルバノおじさまと一緒にいい感じに仕上げてくれると信じよう。
あとの問題は素材とか予算とか報酬とかそういうアレコレだけど、レシピとかの権利関係で予算は潤沢にあるし、素材はお父様経由で冒険者ギルドのギルドマスターであるティリエさんに依頼すればどうにかかき集めてくれるにはず。
持つべきは権力者とそのコネよね。ふふふ。
動力や媒体に使う魔石は黒銀や真白が運動がてら狩ってきたものがごろごろあるらしいので、それを分けてもらえば大丈夫。
うん、いけるよいける。
私は書き上げた仕様書を手に、軽い足取りで自室に向かったのだった。
昼食はリクエストしておいた鍋だ。
まずはトマトベースの鍋を楽しんで、途中から味変でハリッサを投入。
スパイシーな味わいを堪能した後はごはんを投入して最後にチーズを追加してリゾットでシメ。
うーん、お昼にしてはボリューミーだったけど皆満足してるみたいだし、よかったよかった。
昼食の席でガルバノおじさまにチョコレート製造用魔導具の製作を依頼する許可を得るため、お父様にその旨をお話すると、とりあえず陛下に報告してから量産体制が必要か判断するので、仕様書を渡すよう言われてしまった。
許可をいただいたら、すぐにでも領地に転移してお願いしに行こうと思ったのに。残念。
しかたないので、仕様書と黒銀たちからもらった良質な魔石がごろごろ入った袋をお父様に渡したら、材料と報酬を合わせたとしてもこれは渡しすぎだと叱られてしまった。
いやだって相場がわからないんだもの。
魔石の出処を聞かれたので黒銀たちからもらったことを正直に話すと、お父様は納得してくれたものの、こんな希少な魔石をほいほい与えて甘やかさないように、と黒銀たちを注意していた。
でも二人は「主が望むことをするのが我らの喜びゆえ、いくら主の親であろうと従わぬ」と突っぱねていた。ぶれない二人だなぁ……と呑気に眺めていたら、今度は矛先がこちらに向いた。
「このとおり、聖獣の皆様は其方に甘い。それゆえ其方は自ら厳しく律しなければならぬ。聖獣契約者として正しい行いをしなさい。わからないことがあれば有耶無耶にせず、自分に都合よく解釈するのではなく、私たちに聞きなさい」
「はい……」
私がやりそうなことを先回りして釘を刺されてしまった。さすがお父様、私がやりそうなことをよくご存知で……
魔石の余剰分は私が回収……ではなく、そのまま王宮で買い取られることになった。
代金は適正価格で査定された後、私のお小遣いになるそうだ。
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