転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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またやらかしちゃった⁉︎(いつものこととも言う)

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「おっこれまた美味いな」
「そっすねぇ! 上にかけた肉と卵の黄身、イディカを自分の好みのバランスで食べられるのが楽しいっす!」
ガパオの試食が始まると、またもや好評のようでよかった。

「あ、おいティカ。肉の割合をそんなに多くしたら、後でイディカだけが残って足りなくなるぞ?」
「肉だけおかわりするからいいっす!」
「……そういえばお前、カレーの時も追加していたな。しかし、今は試食なんだぞ?」

ティカさんの回答にカルド殿下が呆れたとばかりにツッコミを入れると、ティカさんが「はっ、そうだった!」と気づいたようで、すがるような目で私を見た。

「……あのこれ、おかわりできるっすよね?」
「もうしわけございません。さっき作った分しかないので、作らないと……あああ、あの、昼にまた作りますから!」

私の答えにしおしおとしょぼくれていくティカさんを見ていられなくて思わずフォローすると、イディカが多めに残ったお皿を悲しそうに見つめ「あの、さっきの卵を焼いたのだけでも追加できます?」とおねだりしてきた。
ち、ちゃっかりしてるなぁ……

私が料理長に目配せすると、見習い料理人の一人が「自分にやらせてください!」と言って素早く動き、きれいな半熟の目玉焼きを焼いてくれた。

お、今やエリスフィード家料理人の最初の課題となった卵専用のフライパンはいい感じに育てられてるみたいね。えらいえらい!

料理長も満足そうに頷いたので、彼はそろそろ見習い卒業かもしれない。

ティカさんは自分の皿に追加された目玉焼きの黄身を崩しつつ、残りを大事そうに食べていた。
ああ……昼食の時はガパオを多めに作ってもらっておかないとだわ。目玉焼きも。

黒銀くろがね真白ましろも視界の隅でちゃっかり試食してたのを目撃した限りではかなり気に入ったようだし、お父様やレオン様までおかわり合戦に参戦したら絶対足りなくなるに違いないもの。

さて、今のところ二品のレシピは満足いただけたみたいだし、次のメニューにいってみよー!

「ええと……次のメニューは、本来なら場合によっては工程に日を跨いだりと少し時間がかかるのですが、今回は魔法で短縮します」

私は浸水させておいたイディカを持ってきてもらい、洗米と浸水までは同じ工程であることを説明した。

「次に、浸水させたイディカをザルにあげ、天日で半日からひと晩程度干して乾かします……が、今回は魔法を使ってある程度水分を抜きますね」

あらかじめ浸水させておいたイディカをザルにあげ、風魔法で水分を飛ばしていく。

「それから、さらに水分を飛ばすため火魔法と風魔法を組み合わせて乾かします」
カルド殿下とティカさんがぽかんとした顔でこちらを見ている。

……もしかして、も披露したらまずいやつだった?
料理長も苦笑いというか、困ったような笑みを浮かべてるし……
……でも今さら止めたところで誤魔化しきれないし、続行するよ!

「ある程度乾燥させたら、フライパンで乾煎りして、指で潰したらポロポロと崩れるくらいまで加熱します。乾煎りしなくても低温のオーブンで加熱するか天日でさらに半日から一日程度干して同じ状態になるまで乾燥させるのでもよいと思います」

加熱を止めて冷ましたイディカを摘んで指先に力を入れると、ボロボロと崩れたので次の工程に。

「すり鉢に入れたイディカをひたすら粉状になるまですり潰します」
そう言ってすりこぎを手に取ろうとしたところで「私が」と料理長がサッとすりこぎを取り上げゴリゴリとすり潰してくれた。

うん、力仕事はしんどいから代わってもらえるのは助かります。
ありがとう料理長。

「サラサラになってきたら、一度ふるいにかけて、残った粗い粒をさらにすり潰していきます」

ゴリゴリゴリ……
ひたすらゴリゴリとすり潰していく。
その間に浸水させておいたイディカも同様に乾燥させて料理人たちにもすり潰してもらうことに。

ああ、フードプロセッサーが欲しい。
これこそガルバノおじさまとオーウェンさんに依頼しなきゃな案件かも。

小麦の製粉に関しては、安易に魔導具を作ると場合によっては職を失う者が出てくることもあると言われて、今まで作ろうとは思わなかったのだけど、こういうちょっとした試作のときに困るのよねえ。

こっそり作って秘密にしておけばいいじゃないと思うでしょ?
でもね、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、どこからか漏れちゃうのよね。

エリスフィード家にはこんなに便利な魔導具があるんだよって。
前世ほどコンプライアンスなんてない世界なものだからね……

「クリステア様、できました」
料理長の言葉にぼんやり考えごとに浸ってる場合ではないと気を引き締めなおし、イディカ粉……要するに米粉の出来映えを確認する。

「うん、サラサラね。完璧だわ」
「ありがとうございます。あの、クリステア様。これはもしや……」
料理長はなんとなく勘付いたようで、答え合わせをするかのごとく私を見た。

「ええ。これは小麦粉の代わりになる米粉、いいえ、イディカ粉よ」
「やはり、そうですか……」
料理長が得心がいったとばかりに頷いた。

「……は? 小麦粉の代わり?」
「ええ⁉︎ 本当っすか⁉︎ イディカが小麦粉の代わりに⁉︎」
「ええ。このとおり、この粉ならおそらく小麦粉に近い状態で使えます」

「……サラサラだ……イディカを小麦粉のように使うこともこれまで考えてこなかったわけじゃない。だが、小麦と比べて粒が固くてこんなに簡単に粉状になんてならなかった」
「でも殿下、これ、ちゃんとサラサラの粉になってるっすよ……すげえ、これなら……」

カルド殿下とティカさんが目を潤ませて米粉、いやイディカ粉の入ったすり鉢を見つめている……ええっと……?

「クリステア様、とんでもないものを作られましたね……」
料理長が困ったように私を見て言った。
「え?」

「この粉……イディカで作れるのであれば、もしかしたらラースでも粉にすることは可能なのでは?」
「え、ええと、ラースを粉にできないかしらと思って研究を重ねた成果を応用したものなので……可能です」

……ということにしておこう。
イディカをいきなり初見で小麦粉の代用品にしちゃいました!ってやっぱり不自然だったよね。
いや反省、反省。

「このイディカ粉もこれから使ってみないことにはわかりませんが、小麦粉と同じように使える粉が安価で手に入る……となれば、市場は大混乱に陥りかねません」
「ええっ⁉︎」
不自然どころか非常にまずい展開⁉︎
いや味の話ではなく。

ええと、そ、そう言われればそうかも……?
現状では小麦よりラースやイディカは安価で手に入るし、多少手間はかかるけど小麦粉と互換性のある粉が手に入るわけで……
も、もしかしてやらかしちゃった⁉︎

「クリステア嬢! 頼む! この製法を売ってくれ!」
「え⁉︎ えええええっと、そのあの、えっと、父に! 父に相談しないと! 私一人の判断で安易にお答えできませんし、それに……」
「それに?」
ひええ、カルド殿下がグイグイくるよぉ……!

「殿下……めっちゃ高額な取引になるんじゃないっすかね……ちょっと一旦落ち着きません?」
「う……確かに」
ティカさんが私とカルド殿下の間に入って止めてくれた。

よ、よかった。
視界の端で目立たないよう控えてたはずの黒銀くろがね真白ましろがゆらりと立ち上がったのが見えたからね……!

ティカさんもそれを見て、慌ててカルド殿下を止めたっぽい。
ティカさん、えらい!
慧眼! 冴えてるぅ!

「ひ、ひとまずこの件については後ほど父を交えて協議させてくださいませ。それであの、この粉が使えるかどうかの検証も兼ねて、料理しようと思うのですが……」

「あ、ああ、そうだな……そうしてくれ」
私の提案に、カルド殿下が気を落ち着かせようとするかのように、スッと後ろに下がった。

それを見た黒銀くろがね真白ましろも「フン、命拾いしたな」とばかりに鼻を鳴らして椅子に座った。ホッ。

しっかし、やっっっばい!
久々に盛大にやらかしてしまったかも⁉︎
いやカルド殿下との遭遇もやらかしといえばやらかしだけど!
またお父様にしかられ案件じゃないのおぉー!

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