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犬嫌いな彼女の話1

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 私、鳴上なるかみかえでは犬が苦手だ。っていうか大っ嫌いだ。
 だって逃げても逃げても追いかけてくるじゃない‼︎ こっちは、こんなにも嫌いオーラを出しているのにもかかわらず、よ? 本当、なんなの⁉︎

 生まれて初めてのてきとのエンカウントは乳児の頃。生後半年にもならない私のいる我が家へ、愛犬のチワワとともにご近所のおばさんが遊びにやってきて「はーい、はじめまちて~! ウチの子と仲良くちてくだちゃいね~?」と差し出してきたのを、警戒心を持たない赤ん坊の私が「あうー」と手を伸ばしたところで、もみじのお手手をガブリとされたのだそう。
 幸い、不用意に手を伸ばした私への教育的指導といった程度の甘噛みだったそうで大事には至らなかったものの、びっくりした私は火がついたかの如く大泣きし、しばらく泣き止まなかったんだって。
 それがケチのつき始めだったのか、そのチワワとは出会うたびにキャンキャンと吠えられるようになり、その都度私は大泣きしていたそう。
 その他にも、散歩中の犬と出会うたびに突撃され、体当たりされては盛大にこけてしまい、尻もちをつくわ頭をぶつけるわで散々な目にあったことは数知れず。
 よちよちと足元の覚束ない幼児の頃に数々の襲撃を受け、すっかりトラウマになってしまった。自身の足腰がしっかり丈夫になる頃には、犬を見かけると条件反射で踵を返し、走って逃げるようになったわよ。だけどね?敵は走ることにかけてはエキスパートと言っても過言ではない生き物でしょ?すぐに追いつかれてはのしかかられ、ヨダレでベトベトにされていたというオチが必ずつくと言う……。
 小さな頃のお出かけの写真はそんな状態で大泣きしているものが大半を占めていたので、今でもアルバムを見るのはあまり好きじゃなかったりする。
 そうやって逃げ回っているうちに足が速くなり、持久力もつき、いつしか運動会の徒競走やマラソン大会ではいつも一番になっていた……のは皮肉な話よね。

 そんな私でも子犬は可愛いと思ってたんだ。どんな生き物でも赤ん坊の頃は可愛いでしょ?テレビで動物の赤ちゃんを観ては可愛いなぁ、抱っこしてみたいなぁ、と思っていた。現実は、見た途端反射的に逃げ出してしまうのだけど。
 もうじき小学生なろうかという頃、近所に住むおじさんの家で飼っている柴犬が子犬を産んだんだ。
 ご近所さんから子犬の譲り先を探していると小耳に挟んだ両親は「子犬の頃から犬と接していれば、この子の犬嫌いも治るかも?」と考えたみたい。そうして元来動物好きで、犬を飼ってみたかったという両親に上手く説得され、半ばだまし討ちのように子犬を見に行くことになったのよね。
 だけど、すでにほとんどの子が早くから貰い手が決まってて、最後の1匹もタッチの差で貰い手が決まってた。黒い毛並みの、マロ眉が可愛いオスおとこのこ
 コロコロとして、活発に動き回るその姿は愛らしく、この子なら飼っても良かったのにな……と、残念に思いながら手を伸ばしたところでガブリとやられた。……前言撤回。やっぱり大嫌いだ。
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