51 / 60
#3生徒会編
メロンパン
そういや、昼食を食べていない。
虚無と空腹を感じながら、教室を目指す。歩く振動で、微かに痛む背中。やけに静かな廊下。
今は何時だろうか。今日は普段と違って五限までだから、わんちゃんもう終わってみんな帰ってしまっている可能性がある。金星先輩、普通に出歩いてたしね。
静かな廊下に、一人分の足音。
余計なことを考えないように努めながら歩いていたら「あ」と、階段一歩上がったところで上から声が降ってきた。
視線をあげれば、そこには委員会の後輩が。
「先輩」
「泡瀬じゃん」
うる艶のビューティフルホワイトヘアが可愛い我らのお姫様、泡瀬 椎である。階段から天使が降りてきたのかと思ったわ。彼は鞄を肩にかけ、十数冊の本を抱えている。
俺らの所属している委員会が図書委員会だし、図書室にでも行くのだろう。
「先輩、どうかしたんですか?」
「え?」
「元気なさげに見えるので」
「そう?」
笑っていかにも重大じゃなさそうに「階段から落ちて、そのせいでお昼を食べ損ねた」と伝えれば泡瀬は可愛いお顔をあからさまに歪めた。
「笑うようなことじゃないですよ」
「でも実際そんな深刻じゃないから」
「深刻です」
後輩に説教されちゃ立場がない。再度大丈夫だと言う前に、泡瀬は階段の踊り場に本を置いて、鞄の中から何かを見つけ出す。
「先輩、メロンパンは好きですか?」
「え?」
「嫌いですか?」
「嫌い、じゃないけど」
そう言えば、泡瀬の鞄の中から謎のメロンパンが現れる。
「今日購買で買ったんですが、忙しくて食べなかったんです。先輩、何も食べてないんですよね? すみません、こんなのしかなくて」
本当に申し訳なさそうにメロンパンを差し出してくる後輩に、上手く言葉が出てこなくて固まる。
「いやいいよ、泡瀬が買ったんだろ? 泡瀬が食べるべきだろ」
「先輩、日頃の感謝の気持ちと一緒に受け取ってください」
無理やりとまではいかなくとも、結構強引に泡瀬は俺にそれを手渡した。すげえ。鞄に入っていたというのに、潰れてないメロンパン。泡瀬の鞄は四次元ポケットか。
「本当にいいの?」
「本当にいいんです」
「……ありがとう」
感謝を示せば「どういたしまして」と泡瀬は笑う。彼の髪が太陽の光を透かしてキラキラと輝く。まるで宝石のようだ。
「先輩、本当に気を付けてくださいね。骨折とかしなくて良かったです」
本を再度抱え直し、別れを述べ、泡瀬はまた階段を降りていく。その姿を漠然と、ただ漠然と見つめていた。
そして、彼の姿が見えなくなったところで俺も階段を登り始める。
しかし、ちょうど二階に着いたところで立ち尽くす。
まだ自分の教室ではないのに、目的地に着いたわけじゃないのに、どうも足が動かない。
色々と感情が内側で爆ぜる。
生まれなきゃよかったとか、逃げてしまいたいとか、そういったネガティブな感情と、泡瀬から貰ったぬくもりが一気に混ざって何かが込み上げてくる。感情の収拾がつかない。次から次へと感情が映ろう。
気がつけば大粒の涙が、ひとつふたつと、地面に落ちていた。鼻の奥がツンとした。
生まれなきゃよかった。その思いと共にある、生まれてよかったのかという疑問。父が離れたのは俺のせいじゃないのか、母が壊れたのは俺のせいじゃないのか。俺がいたから、あの家庭は壊れてしまったのではないか。
俺が生まれてしまったからではないのか。
母は今幸せなのだろうか。父は今幸せなのだろうか。不幸せになっていたら、俺のせいで不幸せだったら、俺はどうすればいい。
俺という存在は、誰に求められているというのだ。
「桃野……?」
込み上げる嗚咽を噛み殺し、ただひたすらに目を擦る。
あーあ、情けねえの。
聞き覚えのある声は、いつも通りの優しさと大袈裟な不安を滲ませて、俺の出方を伺う。
取り繕わなければ。わかっている。ちゃんと、わかっている。
だけど動けないのは、俺が弱いからなのか。
「おいで」
声の主はそう言って、俺の腕を握る。握られれば、たちまち体が軽くなる。どこへでも、どこまでも身を委ねたくなる。この人なら大丈夫だと、全てを信じ任せたくなるのだ。
俺は、二階の廊下の方へと、大人しく連れていかれた。
虚無と空腹を感じながら、教室を目指す。歩く振動で、微かに痛む背中。やけに静かな廊下。
今は何時だろうか。今日は普段と違って五限までだから、わんちゃんもう終わってみんな帰ってしまっている可能性がある。金星先輩、普通に出歩いてたしね。
静かな廊下に、一人分の足音。
余計なことを考えないように努めながら歩いていたら「あ」と、階段一歩上がったところで上から声が降ってきた。
視線をあげれば、そこには委員会の後輩が。
「先輩」
「泡瀬じゃん」
うる艶のビューティフルホワイトヘアが可愛い我らのお姫様、泡瀬 椎である。階段から天使が降りてきたのかと思ったわ。彼は鞄を肩にかけ、十数冊の本を抱えている。
俺らの所属している委員会が図書委員会だし、図書室にでも行くのだろう。
「先輩、どうかしたんですか?」
「え?」
「元気なさげに見えるので」
「そう?」
笑っていかにも重大じゃなさそうに「階段から落ちて、そのせいでお昼を食べ損ねた」と伝えれば泡瀬は可愛いお顔をあからさまに歪めた。
「笑うようなことじゃないですよ」
「でも実際そんな深刻じゃないから」
「深刻です」
後輩に説教されちゃ立場がない。再度大丈夫だと言う前に、泡瀬は階段の踊り場に本を置いて、鞄の中から何かを見つけ出す。
「先輩、メロンパンは好きですか?」
「え?」
「嫌いですか?」
「嫌い、じゃないけど」
そう言えば、泡瀬の鞄の中から謎のメロンパンが現れる。
「今日購買で買ったんですが、忙しくて食べなかったんです。先輩、何も食べてないんですよね? すみません、こんなのしかなくて」
本当に申し訳なさそうにメロンパンを差し出してくる後輩に、上手く言葉が出てこなくて固まる。
「いやいいよ、泡瀬が買ったんだろ? 泡瀬が食べるべきだろ」
「先輩、日頃の感謝の気持ちと一緒に受け取ってください」
無理やりとまではいかなくとも、結構強引に泡瀬は俺にそれを手渡した。すげえ。鞄に入っていたというのに、潰れてないメロンパン。泡瀬の鞄は四次元ポケットか。
「本当にいいの?」
「本当にいいんです」
「……ありがとう」
感謝を示せば「どういたしまして」と泡瀬は笑う。彼の髪が太陽の光を透かしてキラキラと輝く。まるで宝石のようだ。
「先輩、本当に気を付けてくださいね。骨折とかしなくて良かったです」
本を再度抱え直し、別れを述べ、泡瀬はまた階段を降りていく。その姿を漠然と、ただ漠然と見つめていた。
そして、彼の姿が見えなくなったところで俺も階段を登り始める。
しかし、ちょうど二階に着いたところで立ち尽くす。
まだ自分の教室ではないのに、目的地に着いたわけじゃないのに、どうも足が動かない。
色々と感情が内側で爆ぜる。
生まれなきゃよかったとか、逃げてしまいたいとか、そういったネガティブな感情と、泡瀬から貰ったぬくもりが一気に混ざって何かが込み上げてくる。感情の収拾がつかない。次から次へと感情が映ろう。
気がつけば大粒の涙が、ひとつふたつと、地面に落ちていた。鼻の奥がツンとした。
生まれなきゃよかった。その思いと共にある、生まれてよかったのかという疑問。父が離れたのは俺のせいじゃないのか、母が壊れたのは俺のせいじゃないのか。俺がいたから、あの家庭は壊れてしまったのではないか。
俺が生まれてしまったからではないのか。
母は今幸せなのだろうか。父は今幸せなのだろうか。不幸せになっていたら、俺のせいで不幸せだったら、俺はどうすればいい。
俺という存在は、誰に求められているというのだ。
「桃野……?」
込み上げる嗚咽を噛み殺し、ただひたすらに目を擦る。
あーあ、情けねえの。
聞き覚えのある声は、いつも通りの優しさと大袈裟な不安を滲ませて、俺の出方を伺う。
取り繕わなければ。わかっている。ちゃんと、わかっている。
だけど動けないのは、俺が弱いからなのか。
「おいで」
声の主はそう言って、俺の腕を握る。握られれば、たちまち体が軽くなる。どこへでも、どこまでも身を委ねたくなる。この人なら大丈夫だと、全てを信じ任せたくなるのだ。
俺は、二階の廊下の方へと、大人しく連れていかれた。
あなたにおすすめの小説
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
ひみつのモデルくん
おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。
高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎
主人公総受け、総愛され予定です。
思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。
後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
転生したが陰から推し同士の絡みを「バレず」に見たい
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪