桃野くんは色恋なんて興味ない!

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#3生徒会編

鈴芽と会長

 当たり前のように主導権を握った美玲に連れてこられたのは、いつも食べてる食堂の二階だった。
 こ、ここ知ってるぞ!
 誰かが適当に流した都市伝説だと思ってたけど! ここは、役職持ちのみが入るのを許されるハイクラス食堂だ!
 学校七不思議並みに存在が疑われるものだったが、まさか本当にあったとは。桃野くんけっこう感動してる。

「こんにちはぁ、この子達は俺の連れだよぉ」

 ガタイのいい謎のドアマンの了承を得て、ハイクラス食堂の中に進んでいく。なんだあのドアマン。学生か外部から雇ってきてるのかすら分からない。ドレスコードがあったら、俺はたぶんここであの人に弾かれてた。制服でよかった。

「太郎くん、ここ初めてー?」
「うん」
「太郎くんのハジメテ、もらっちゃったってことかぁ」
「美玲一回その口閉じた方がいいかも」

 俺の隣にいる鈴芽、さっきからずっと引いてるし。これ以上鈴芽に嫌われたくなかったら、もう喋んない方がいいのかもね。口開いたらどうしても下ネタも出てきちゃうみたいだから。

 席について一旦辺りをぐるりと見渡してみたが……一階と全然違う!

 比べるのもなんだか忍びない。上を見れば煌々と輝くシャンデリア、食堂内を闊歩するウェイトレス、なんかよく分からない横文字で固められたメニュー表。芝生並みに生茂る朱色の絨毯。食堂内で食事を取ってるのはたった数人ほどだった。全員知らない人である。

「すご」
「ウブだねぇ。ふたりとも何食べるー?」
「……メニューが分かんないや」

 そう言ったのは俺の方で、鈴芽は美玲なぞフル無視でメニュー表を眺めている。俺が即座に読解を諦めたメニュー表である。

「どんなの食べたいとかは?」
「美玲はどれが好き?」
「うーん、太郎くんが好きかなぁ」
「そういうのは足りてるから大丈夫」
「厳しいねぇ」

 俺が好きなのはこれかなぁ。そう言って指されたのは、謎の横文字の羅列。
 え、怖い。これはいったい、どんな料理を指しているのだろうか。フレンチ? わんちゃんイタリアン? ただのカタカナの無差別配列ってことない?
 無理解で怖いが美玲を信じるしかない。だって、ここには俺の知ってる料理がないのだから! 無知の知である。

「じゃあ俺は美玲のおすすめにする」
「おっけー、志多見くんはどうする?」
「……俺はこれをお願いしようかな」
「良いセンスしてるねぇ」

 あ、何も分からないのは俺だけか!
 鈴芽も同じようにこの富貴な雰囲気に慣れてないかと思ったけど、そりゃそうだよな。この学園に転入してきてる時点で、多少なりともこういう場所とは縁があるわけで。メニューを選ぶ食指の動きが迷いなかったぜ。

「これとこれとこれお願いしまぁす」

 ウェイターにへらりと頼んでのけた美玲。もちろん生徒会会計となれば、こんな場所何度も訪れたことがあるのだろう。

「太郎くんはさぁ、姫花ともうデートした?」

 運ばれてきたお水を口にしてから、美玲は本題に入るかのようにこの話を持ち出した。心做しか、探るような視線。そんな見られても何もないが。慣れない場に困惑する姿しか見れないと思う。

「まだしてないけど」
「ふぅん、もうそろそろ体育祭の運営で忙しくなるのにゆっくりしてるんだねぇ」
「もう体育祭か。早いな」
「毎年これからの時期は大忙しだよぉ」

 この学園の体育祭、まあもちろん普通に行われるわけがなく。この学校の数多くの人たちが楽しめるようなルール盛りだくさんで行われる。この学校の数多くの人たちというのが、いったいどんな人たちを指すのか。皆まで言うまい。

「太郎くんが忙しいんだ?」
「俺はいつでもフリーって言ってる」
「潔いいねぇ」
「むしろ嫌なことは早めに消化したいよ」

 はは、と笑ったあと美玲は「姫花に早くしろって言っとくよぉ」と言った。そのあと、俺の隣に座っている鈴芽に視線を移す。

「志多見くんはどうするのぉ?」
「どうもしません」
「そういえば鈴芽って誰に捕まったの?」
「…………」
「かいちょーだよ」

 そう答えてくれたのは美玲の方で。驚きのあまり失言して、鈴芽の方を見る。彼は死んだ顔をしていた。会長に捕まるなんて考えうる限りで最も最悪なことだろう。そんな顔になるのも納得である。

「会長ってやっぱ鈴芽のこと……」
「桃野くんそれはないから」
「でもそう見えちゃうよねぇ」
「あなたも加勢しないでください」

 チワワの威嚇みたいに眉をひそめて、バチバチの視線を送る鈴芽。すげ、赤い目が凄みを百くらい倍増している。言っちゃ悪いが、虎の威を借るチワワのようだ。つまり可愛いってこと。

「でも実際どうなのぉ? もーデートした?」
「しました。一応」
「え、何した?」
「ただ買い物に行っただけだよ」
「会長ちょーお金持ちだったでしょぉ?」
「腹が立つくらいには」
「へぇ」
「全額奢ってもらったんだー?」
「断ったんですが譲らないので」
「あの人意固地なとこあるもんねぇ」

 へ? ぜ、全額奢り?! そんなことあるの? 驚きのあまり鈴芽に視線を向けるが、そこには可愛い顔でケロッとしている彼しかいなかった。
 前提、会長の言うような買い物なんて万札が軽く羽ばたいていくような額のものだろう。それを、自分の分と合わせて他人の分まで奢る?! それは金が余りに有り余ってる大富豪がする所業だろ。いや実際そうなのか!

「や、やっぱり会長って鈴芽のこと……」
「違うよ」
「好きな人だから尽くしちゃうんじゃねえの」
「桃野くん、全ての人間が愛を原動として動いているわけじゃないんだ」
「そうだねぇ」

 じゃあいったいなにを原動として、何のために動くんだよ。そう訊くまえに、シャレオツな料理を手にウェイターが向かってくるのが見えてしまう。
 遠目から見てわかる、料理から漂う高級感。空白の美を乱用したかのような盛りつけだ。あれが食の芸術か。
 横目で高級なオーラを見流しながら、美玲のほうを見れば「損得勘定ってやつだよぉ」とのほほんとした口調とは真逆な言葉を呟かれてしまった。
 損得勘定とか言われても、全額奢りの驚きは全然晴れないのだが。むしろ損得勘定より恋慕っていったほうが、全額奢りに納得いくけど。やっぱ金持ちの考えることって庶民には理解できないわな……。
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