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花瓶 攻撃力+10 特殊能力 殴ると勇者は死ぬ

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教室に行ったら私の机に花瓶が置いていました。
周りを見たら、私の方を見てくすくす笑うクラスメイトたち。
いじめなんて我慢すればいずれ飽きるとか言われてるけど、1年経った今も飽きられてないじゃない。

物は隠され、暴力を振るわれ、無人の教室やトイレに連れ込まれそうになり文房具で抵抗したら生徒指導室に呼ばれたのは私だけ。その場には多くの目撃者が居たのに私だけだよ。
そして教室に戻ればこれか。
あーあ、我慢するの飽きちゃったな…。
なんでこんな思いしてまで学校に通ってるんだろう、馬鹿みたいだ。

私は机の上にある花瓶を掴み近くで笑っていた女の頭を殴り付けた。
このクラスになった最初の頃は話していたが今は名前も思い出せない。

「あれ、ドラマのように割れたりしないんだね? この花瓶、何人まで耐えられるのかな? 置いた人を殴るまでもつのかな?」

「……」

誰も反応しないのね?
驚いて言葉も出ないってやつかしら?
まぁ、どうでもいいわ。

「次に殴る相手が花瓶を置いた人ならそこで他の人が殴られることはなくなるって言ってるんだけど、言ってる意味わかる? わからない? なら殴られるしかないね?」

近くに居る男を見ながら言う。

「館林! 館林が置いたのを見た! だから、だから殴らないで!」
「と、島津くんが言ってるけど、他に知ってる人は?」

この男も私に対して物を投げたりしたはずだが、自分がやられるのは嫌らしい。
まぁ、椅子から落ちてピクピクしてるそこの女みたいになりたくないと言う気持ちもわからなくもないか。

「ふむ、居ないと。花瓶で殴られたくないなら、館林くんを取り押さえてくれないかな村瀬くんと山村さん」
「なんで俺が…」
「何人くらい殴ったら花瓶が壊れるのか試してみたいなぁ」
「わかったよ」

何時も我関せずな村瀬くんも、指名されたら従うのね。
山村さんが無言で館林くんを掴んだのは罪悪感かしら? 
さっき連れて行かれるのを黙って見てたことを悪いと感じてるのかな? 
どう言う目的で連れて行かれようとしてるかなんてこの歳でわからないわけないものね。

「顔が青いね館林くん」
「冗談だったんだ」
「クスッ、許さない」

私は思いっ切り館林くんの頭を花瓶で殴った。

「あらら、2人で割れちゃったね」

館林くんはさっきの女とは違い動くことなく床に倒れている。

「…こんなことをして良いと思ってるの?」
「私を虐めるのは良くて館林くんを花瓶で殴るのはダメなの? どんな正義なの山村さん?」
「…」
「先生に頼られる優等生さん、なんか言ってくれない?」
「…わよ」
「聞こえないなぁ」
「悪かったわよ助けなくて!」
「やられるかも知れないって立場になってから謝るなんて小物過ぎだよアハハ!って、なに?」

床が眩しく光ったと思ったら、私たちは知らない部屋に居た。

「ようこそ勇者様、この国をお救い下さい!」

その女はそんなことを私たちに言った。

「勇者なんてここに居ないよ、あなたミスったんじゃない?」

このクラスに勇者が居たなら、私はこんなことにはなってなかったよ。



勇者とは異なる世界で死んだ直後にこの世界へ召喚される者のことらしい。
それは世界を渡るときに神様から色々な力を得られるのだとか。
本人は第2の人生を送れてWin、こいつらは面倒ごとを勇者に押し付けて自国の戦力を温存出来てWinな関係らしい。

なんで愛着も無い土地の知らない連中を助ける為に力を使うのか私には理解出来ないが、今まで召喚された勇者はみんなこの国の為に戦ったそうだ。

その話が本当なら館林くんが勇者とやらで、私たちはそれに巻き込まれたことになる。館林くんはこいつらに煽てられて勇者とやらをするようなお調子者なのは確かだ。

性格も込みで召喚者を選んでいるのだとしたら、タチが悪い儀式だ。
もう1人殴った女はここには居なかった。理由?どうでも良いわ。

直前までの事もあり、私の周りにクラスメイトは居ない。
が、教師が1人いる。
この男は私が花瓶で女を殴り付けたとき、ニヤリと笑って教室のドアの前に立った。

「先生、なんであのときドアの前に立ったんですか?」
「そりゃ、花瓶を置いた犯人が逃げ出さないようにだな」
「教師としてそれは正しい行動なのでしょうか?」
「復讐を途中で止めるよりはマシだろ?」
「私が虐められてるのを知っていたのですか?」
「教師は全員知ってる、その上で放置しろとのお達しまでされてる」

知っていた?
それでいて放置されていた?
じゃあ、わかっていたのに呼び出されて注意されたのは私だけだったの?

「…クズですね」
「ああ、そう思うね」
「先生のこともですよ?」
「当然だろ?」
「…理由」
「ん?」
「放置された理由を」
「私立だから、進学校に必要な数字を出す生徒達を辞めさせられないそうだ」
「私だって、こうなる前は!」
「俺もそう言ったんだけどな、数の問題だとよ。あと、お前でストレス発散が出来て調子が良くなるんじゃないかとお前の担任は笑ってたな」

だからか、だからなのか! 
証拠が有ったとしても、私は、私は被害者として扱われなかったのか! 
呼び出されたのが私だけだったのはそれが理由なのか!
もし、もしも襲われていたとしても同じことになっていた可能性もあったと!
私の人生なんてどうでも、どうでも良いと言うのか!

「お前は警察に行けば良かったんだ」
「…え?」
「お前が警察に行けば傷害事件として扱うことが出来たかも知れない。お前は見た目も良い、学校以外での扱いはそう悪く無いはずだ。運良く新聞記者に話が行った可能性もある」
「警察に、ですか?」
「警察にだ。教師も生徒も何故か学校内で起きたことは学校内で片付けたがるが、日本で暴行されたならまずは警察へ行け」

警察に行く、考えもしなかった。

「何故」
「ん?」
「何故、私は警察に話そうと思わなかったのでしょう」
「さあ? 小学生の頃から何かあったら教師や学校へ言えと教わったからとかか?」
「…そうかも知れません」



他のクラスメイトが全員何かを終わらせ、残った私と先生の番になった。
この世界の人が、前にあるこの石板に手を置くことで何かが分かると言う。
まずは先生から手を置く。
石板に文字のような物が彫られ始めそして中盤付近で消えた。まだ途中のようだったのに何故?

「表記が失敗した?」
「このようなことは初めてですが…」

何かおかしなことが起きたようで石板を見ていた人達が慌てている。

「オレを見られても困る、初めて触るのだから」

それはそうだ。
この世界の人がわからないのに私たちに分かるわけがない。

「このまま続けてこの板が壊れても困りますし、ここは一旦止めて後日行うと言うのはどうでしょう? 先程の話を聞いた感じですと、これだけの人数が召喚されたのも、生きてこの場所に来た者に石板を触れさせたのも初めてのはず。何か異常が起きているとしてもおかしくないのでは有りませんか?」
「…そうかも知れません」
「姫さま」
「その方の言う通りかも知れませんね」

私は能力がわかる石版に触れることなくその部屋から出ることになった。
他のクラスメイトたちは先に出て行っておそらくこれから入る部屋で待っているのだろう。
私に対する話し合いが持たれているのかも知れない。

「なあ、小泉」
「なんでしょう」
「逃げるぞ」
「…何故?」

私はともかく先生は居心地悪いと言う事も無いのでは?

「俺たちはここに居ると不味い」
「理由を聞いても?」
「俺たちは人間じゃない」
「は?」
「俺たちは魔人だ」



先生に突然抱き付かれたと思ったら、知らない部屋に居た。
周りを見ると光り輝く王冠や金貨、煌びやかな武器に宝石をちりばめた鎧など、実用性に疑問を持つような物まで置いてある。

「理由を聞いても?」
「お前、驚かないんだな」
「世界を越えた後なのでこれくらいではそれ程」
「それもそうか」

先生には石版と同じようなことが出来る能力が有ったらしく、それで自分や私を見たところ勇者殺しと言う称号とそれによって人間から魔人と言う種族に進化したのを見たそうだ。
先生が言うには、直接館林くんを殴った私は主犯で教室から生徒を出さないようにした先生は共犯、もしかしたら協力した村瀬くんと山村さんもなっているかも知れないそうだ。

「2人に話さなくても良いんですか?」
「人間のままならそのままで良いし、人間じゃなかったとしてそれが理由で捕まっても助ける義理は無いんじゃないか?」
「それもそうですね」

彼らは私を助けなかったのだから。

「あのまま日本に居ても良い未来は無かったんだし、これはこれで良かったと俺は思うぞ」
「そうかも知れません」

先生は見た場所に転移する能力が有るらしい。
そして壁や扉の1枚くらいなら見透す力もあるのだとか。儀式の部屋から別な部屋への移動中に隠れ易そうな場所を探し、見つかりにくそうな場所として宝物庫を選択したそうだ。

「とりあえず、この部屋にある物を全てしまってくれ」
「しまう?」
「お前は魔法収納と言う、異次元ポケットのような能力が有る。やり方は触れてからその魔法収納に入れるのを想像するとかか?」

言われた通りやってみたら本当に出来た。
私は魔法のある世界へ来たのだと実感した。



「他の連中負け越してるらしいな、生き残りも10人切ったそうだぞ」
「これまで召喚された勇者は連戦連勝のはずなのに変ですね?」
「館林が雑魚だからだろ」
「それもそうですね」

勇者や勇者と戦ってる相手よりも強いらしい私たちは結構好き勝手してる。
あのまま日本に居たら殺人犯として警察に捕まってたかも知れないと思うと、こちらに来て良かったかな。
まぁ、召喚した国に感謝する気はないけど。

「ところで、そろそろ俺の気持ちに応えてみないか?」
「復讐してる時の顔が素敵だから結婚しようとか言うセンスないプロポーズをする人は嫌です」
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