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第一章

中学二年 秋

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 陽斗との出会いは、七年前のことだ。丁度 庭の紅葉が色づき始める頃だったろうか、突然うちで一緒に暮らすことになったのだ。
 そう、それは本当に突然だった。
 母が言うには、陽斗は遠い親戚にあたるのだそうだ。家族を事故で亡くし他に身寄りがない為、独り立ちできるまで うちで面倒をみることになった――というのは、彼がやって来たその日に父から聞かされた。私と同じ中学二年生だということも。
 まったく、年頃の娘がいるというのに同い年の男の子を一つ屋根の下に住まわせるなんて、父も母も心配じゃないんだろうか。

「はじめまして、よろしくな」
 澄んだ瞳に私を映し出し、屈託なく笑う彼。どう接したらいいのか分からなくて、私は唯無言で頷いた。

 背丈は私と同じくらいだろうか、男子にしては小柄なほうだと思う。クラスメイトの他の男の子たちを思い浮かべ、無意識のうちに比べていた。
 けれど、華奢な印象ながらも引き締まった身体。加えて整った顔立ちから、いわゆるイケメンの類に入るのではないかと思う。
 その上、人懐っこく爽やかな彼は、たちまち母のお気に入りとなったようだ。
「美織はずっと一人っ子だったからね。兄弟が出来て良かったじゃないの。誕生日は陽斗くんのほうが早いのかしら、だったらお兄ちゃんね」
 機嫌良く母は言ってくるけれど。私は これまで、一人っ子で寂しいとか、兄弟が欲しいなんて思ったことは特になかったから、戸惑いしかなかった。
 父に至っては、ずっと男の子を欲しがっていた節があり、初めから母以上に歓迎ムードだ。


 一緒に暮らすということは、必然的に通う中学校も同じになる。
 二年生は五クラスあって、私はB組。転校生の陽斗は、人数が一人少なかったE組へ編入された。

 陽斗は学校でも すぐに溶け込んで、人気者となった。
 成績もずば抜けて良いらしい。私も勉強は得意なほうだったけれど。彼が来てすぐにあった二学期の中間テストの結果を知った時、私は自分の答案を両親に見せるのを初めて苦痛に感じた程だ。

「ね、美織んちへ遊びに行きたいんだけど」
 今まで大して親しくなかった女子たちが、やたらと声をかけてくるようになった。友達と呼べる人が殆どいなかった私は、それだけで心が躍ってしまいそうになる。
 けれど、彼女たちの目当てが陽斗なのは明らかだった。
「陽斗くんにも会えるかな」
「数学の分かんないとこ、陽斗くんに教えてもらいたいんだよね」
 そうストレートに言ってくる人もいれば、もじもじと恥ずかしそうに言葉を濁す人もいた。
 そんな時 私は、彼のお蔭で自分も人気者になったような、でも私はあくまでおまけなんだと虚しいような、複雑な気持ちだった。
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