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第二章

中学二年 冬 ②

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 *

 父は昔、マラソンの選手だった。
 決して悪い成績ではなかったが、他の優秀な選手に埋もれ、その才能が認められることはなかった。
 それが とても悔やまれるのだろう。父は、引退した後も娘の私に望みを託すべく、幼い頃から走る訓練をさせた。
「お前が男の子なら、もっと鍛え甲斐があったんだがな」
と、いつも口にしていた。
 私は父に似ず、運動が苦手なうえに体もあまり丈夫ではなかった。
 少し走っただけですぐに息が切れてしまう。目の前が真っ暗になって倒れてしまったことも何度もあった。
 その度に父は深い溜息をつきながら
「こんなことでは話にならない」
 と、首を横に振るばかりだった。
 娘の想いを顧みず、ただ自分の夢を追い求めるだけの父とのマラソンは、私にとって苦痛以外の何ものでもなかったのだ――

 *

 マラソン大会当日の朝、陽斗は父と母と出かけて行った。
「本当に来ないのか? 」
「いいのよ、陽斗くん。あの子は一度言い出したら頑固なんだから」
「行きたくない者は、放っておけばいいさ」
 私は そっぽを向いたまま、彼らの言葉を全部無視した。
 いや、本当は気になって仕方がなかったのだけど。頑なに拒否してしまった手前、今更行くとは言えなかったし、行く気にもなれなかった。陽斗が選手として走る姿を目にしたら、自分が益々惨めになりそうで。

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