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第三章

中学三年 春

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 新学期がやってきて、私と陽斗は同じ三年A組になった。
 その知らせを、私は病室のベッドの上で陽斗から聞かされることになった。

 同じクラスになったのは、唯の偶然だろうか。五つあるクラス分けで、同じになる確率は奇跡的という程のものではないから。
 けれど もしかしたら、長期欠席になるであろう私に対して、学校側がしてくれた配慮なのかもしれなかった。
 春休みに入る一週間前に、私はここへ担ぎ込まれた。まだ当分、出られそうにない。おそらく、もうずっと出られないだろう。そう、生きている内は――
 そこまで考えを巡らせてから、私は急に恐ろしくなって身震いした。

「寒いのか」
 ベット脇にかけてあるカーディガンをハンガーから外しながら、真顔で訊いてくる陽斗は、相変わらず すごくいい人だ、と思う。

 病室の窓からは、いつもの年より早めに咲いた桜の花がそろそろ散り始めているのが見える。 
「いいなぁ、陽斗は。美味しいご飯が食べられて……」
 家族で囲む食卓を思い浮かべて、妬ましいような気さえしていた。陽斗がうちへ来て以来、父も母も毎日が楽しくて仕方ないという感じだ。
 事実、陽斗がとても出来の良い子なのは、誰もが認めるところだ。それは私だって例外ではなかった。
 それだけに、複雑な気持ちだった。このまま私がいなくなったとしても、何も問題ないように思えてくる。その寂しさと恐ろしさが、彼への嫉妬心へと変わっていく。 

「父さんも母さんも、美織が元気になって帰って来るのをいつも願ってるよ。もちろん、俺も。退院したら、とびっきりのご馳走が待ってるはずさ」 
 陽斗はニッと笑って、プリントの束を渡してくる。 
「これさ、クラスのこととか、これからの授業予定とか、いろいろ書いてある。分からないことがあったら何でも教えてやるから、遠慮なく俺に聞けよ。ほら……元気出せよ。心配することなんて、何もないんだからさ」

 陽斗の声がいつも以上に明るいのは、私を励ましてくれているからだろう。頭では分かっているのに、素直に聞き入れることが私にはどうしても出来なかった。 
「そんなことしたって、意味ないよ」
「え……?」
「元気になって退院するなんて、あり得ないことなんだから。軽々しく言わないでっ!」 
 胸に痞えていた言葉を一気に吐き出した。言わずにはいられなかった。
 けれど、途端に後悔した。自分の命はもう永くはないと、認めてしまったようなものだから。
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