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第四章
陽斗の想い
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中学二年の秋、突然 家族を失った。
母と、義理の父、その間に出来た幼い弟を火災事故で。
奇跡的に一人生き残った俺には、他に身寄りがなく、家も焼けてなくなってしまった。実の父親は、俺の存在すら知らないらしい。
遠い親戚に当たるという、親切な夫婦に引き取られることになった。娘の美織さんは俺と同い年だという。
――なんて綺麗な娘だろう……
一目見て、そう思った。そのまま目を逸らすのが勿体なくて、じっと見つめてしまうほどに。
彼女は口数が少ないけど、必要なことは しっかり教えてくれる。
この家での決まりごと、学校のこと、友人達のこと、地域のことも。
朝食は七時から家族揃って摂るのだとか、学校には八時から八時二十五分までの間に着くよう出発するのだとか。
中間テストの範囲を教えてもらった時は、マジで助かった。前の学校では まだ習ってなかった所があったから。
彼女が授業でとったノートを、見せてもらった。よく整理されてて すっげぇ分かりやすかった。
これまで過ごしてきたのとは違う、全く新しい生活は、不安だらけ。
けど、美織さんが傍にいてくれると思うだけで心強い。どんなことも頑張れそうな気がする。
「俺のことは陽斗って呼んでくれ。呼び捨てでいいから」
名前で呼んでもらいたくて、思い切って言ってみた。
「君のことは、何て呼んだらいい?」
少しドキドキしながら遠慮がちに聞いた俺に、
「美織って呼んでくれたらいいよ」って返してくれた時は、超 嬉しかった!
新しい生活にも何とか慣れてきた。
二学期が終わりに近づいた十二月のある日、珍しく美織と帰りが一緒になった。
たったそれだけのことでも、ウキウキしてしまう。同じ家で暮らしているとはいえ、二人っきりになれる機会なんて そんなにないもんな。
空に舞う雪が、とても綺麗に見える。
前に住んでた所では、滅多に降らないんだ。俺は結構浮かれてたんだけど、美織は何だか素っ気なかった。
何とか話を盛り上げたくて、マラソン大会のことを持ち出したら、余計に避けられてしまったみたいだ。
駄目だな、俺は。何か気に障るようなこと、言っちまったんだろうな……
マラソン大会の日、美織は ひとりで家に残った。
美織にカッコイイところを見せたくて、俺、密かに走る練習してたんだけどなぁ。
会場で着替えを済ませ、父さんや他の出場者たちとスタートの位置に集まった。
母さんのいる応援席に、美織も後から来てくれるんじゃないかと期待して、ついつい姿を探してしまう。
スタートの合図が鳴り、皆が一斉に走り出す。
昔マラソンの選手だった父さんは、たちまち先頭集団のトップに出た。
俺は父さんの後について ひたすら走った。少しでも隙あらば追い抜いてみせよう、なんて企んでいたんだけど、遅れないようについて行くだけで精一杯だった。
息を切らしながら やっとのことでゴールした時には、父さんは既に余裕の表情で話しかけてきてくれた。負けてしまったのはちょっぴり悔しいけど、素晴らしい走りで優勝を決めた父さんに褒めてもらえるなんて夢みたいだ。
早く帰って、この感動を美織に伝えたい。きっと喜んでくれるにちがいない。
でもそう思っていたのは俺だけで、美織はちっとも嬉しそうには見えなかった。夕食も あまり進んでいなかったようだし、どこか具合でも悪いんじゃないかと心配だ。
美織に聞いてみても、「何でもない」って言葉が、いつも返ってくるだけだ。
中学二年の秋、突然 家族を失った。
母と、義理の父、その間に出来た幼い弟を火災事故で。
奇跡的に一人生き残った俺には、他に身寄りがなく、家も焼けてなくなってしまった。実の父親は、俺の存在すら知らないらしい。
遠い親戚に当たるという、親切な夫婦に引き取られることになった。娘の美織さんは俺と同い年だという。
――なんて綺麗な娘だろう……
一目見て、そう思った。そのまま目を逸らすのが勿体なくて、じっと見つめてしまうほどに。
彼女は口数が少ないけど、必要なことは しっかり教えてくれる。
この家での決まりごと、学校のこと、友人達のこと、地域のことも。
朝食は七時から家族揃って摂るのだとか、学校には八時から八時二十五分までの間に着くよう出発するのだとか。
中間テストの範囲を教えてもらった時は、マジで助かった。前の学校では まだ習ってなかった所があったから。
彼女が授業でとったノートを、見せてもらった。よく整理されてて すっげぇ分かりやすかった。
これまで過ごしてきたのとは違う、全く新しい生活は、不安だらけ。
けど、美織さんが傍にいてくれると思うだけで心強い。どんなことも頑張れそうな気がする。
「俺のことは陽斗って呼んでくれ。呼び捨てでいいから」
名前で呼んでもらいたくて、思い切って言ってみた。
「君のことは、何て呼んだらいい?」
少しドキドキしながら遠慮がちに聞いた俺に、
「美織って呼んでくれたらいいよ」って返してくれた時は、超 嬉しかった!
新しい生活にも何とか慣れてきた。
二学期が終わりに近づいた十二月のある日、珍しく美織と帰りが一緒になった。
たったそれだけのことでも、ウキウキしてしまう。同じ家で暮らしているとはいえ、二人っきりになれる機会なんて そんなにないもんな。
空に舞う雪が、とても綺麗に見える。
前に住んでた所では、滅多に降らないんだ。俺は結構浮かれてたんだけど、美織は何だか素っ気なかった。
何とか話を盛り上げたくて、マラソン大会のことを持ち出したら、余計に避けられてしまったみたいだ。
駄目だな、俺は。何か気に障るようなこと、言っちまったんだろうな……
マラソン大会の日、美織は ひとりで家に残った。
美織にカッコイイところを見せたくて、俺、密かに走る練習してたんだけどなぁ。
会場で着替えを済ませ、父さんや他の出場者たちとスタートの位置に集まった。
母さんのいる応援席に、美織も後から来てくれるんじゃないかと期待して、ついつい姿を探してしまう。
スタートの合図が鳴り、皆が一斉に走り出す。
昔マラソンの選手だった父さんは、たちまち先頭集団のトップに出た。
俺は父さんの後について ひたすら走った。少しでも隙あらば追い抜いてみせよう、なんて企んでいたんだけど、遅れないようについて行くだけで精一杯だった。
息を切らしながら やっとのことでゴールした時には、父さんは既に余裕の表情で話しかけてきてくれた。負けてしまったのはちょっぴり悔しいけど、素晴らしい走りで優勝を決めた父さんに褒めてもらえるなんて夢みたいだ。
早く帰って、この感動を美織に伝えたい。きっと喜んでくれるにちがいない。
でもそう思っていたのは俺だけで、美織はちっとも嬉しそうには見えなかった。夕食も あまり進んでいなかったようだし、どこか具合でも悪いんじゃないかと心配だ。
美織に聞いてみても、「何でもない」って言葉が、いつも返ってくるだけだ。
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