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遅刻
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「あまりにもこれは詰め込み過ぎじゃない?」
そう、詰め込みすぎだ。
あの歌番組から二ヶ月。4/Roseの人気に拍車がかかり、コマーシャルの出演オファーや、雑誌のグラビアなど外仕事の幅も広がりを見せた。
なかでもヒトミ個人としてはドラマのゲスト出演が二本、個人でのコマーシャル、雑誌の特集など、4thシングル「目に見えない関係」の制作期間とも重なり、ほどんど休みなく、朝から夜遅くまでのスケジュールがびっしり埋まっていた。
レッスン場などに顔を出してもヒトミがいないことも多く、空き時間や帰宅してから一人で振りを覚えているのだろう。
「僕も本人に話はしてるんですけど、ヒトミちゃんからのお願いで、なるべく仕事は断らないでくれって」
烏末はスマホのスケジュール表を見ながら答えた。
「身体が壊れたら身も蓋もないじゃない」
「何度も話はしてるんですけどね…。本人は今が頑張り時だって意気込んでます」
「「目に見えない関係」の撮影がもうそろそろよね?レッスンの進捗は?」
「前回ヒトミちゃんが参加したレッスンまでのダンスの振りとミュージックビデオでの動きは完璧でした。他のメンバーと明らかにレッスンの時間が少ないのに、先生やメンバーに一切聞くことなく、完璧に動けてました」
メンバーに聞くことなく…ね。
最近はメンバーから同じ相談をされることが多い。「ヒトミちゃんとなかなか距離が縮められない」という相談だ。
仕事やパフォーマンスの内容などの会話はもちろん出来るが、プライベートの話をするとサラッと交わされてしまうらしい。
デビューしてまだ一年、ほとんどの仕事が初めてでペースも掴めないままの多忙な日々。そんな時期だからこそ、身近なメンバーに頼れば、少しは負担を軽減できるのに。
「わかった。今度会ったら私が直接話してみるわ。と言っても、いつ会えるのやら…」
ヒトミはヒトミで個人仕事が多いが、私は私で他のアーティストのイベントの演出を任されていたり、次のクールで放送されるドラマの主題歌の提供をお願いされていたりとてんやわんやなのだ。
お決まりの寝不足で目がしょぼしょぼする。一度パソコンから目を離し、外の街灯を眺める。
まるで問題を抱えたクラスの担任教師のような気持ちだ。こうすれば丸く収まると分かっていても、本人たちはそううまくいかないことも理解している。それが歯痒くて歯痒くて。
おそらく、次にヒトミと会えるのは、「目に見えない関係」のミュージックビデオ撮影の時だろう。それまで身体に異常なく活動してくれればいいが…。
撮影当日、レイコ、ユウナ、ユイ、そしてヒトミが集合時間になっても来ないどころか連絡すらなかった。
ヒトミに関しては多忙の話もあって心配ということで、烏末が寮まで向かった。
集合している他のメンバーもスマホで電話を繰り返している最中、私のスマホに烏末から連絡がきた。
「もしもし?烏末?ヒトミは大丈夫?」
「西條さん、それが、他のメンバーもヒトミちゃんの寮に泊まっていたらしくて…今、急いで準備してます」
一瞬耳を疑った。ヒトミの寮に、メンバーが泊まった?
「僕が三人を連れて二号車で現地に向かいますので、西條さんは今いるメンバーと出発しちゃってください」
車は千葉県の海が近い、小さなコテージについた。「目に見えない関係」のミュージックビデオのロケ地だ。
先に出発したメンバーが準備を始めている中、二号車が到着した。
「すみませんでした」
車を降りるやいなや三人が謝りながら駆け足で寄ってきた。
「まったく、どうして三人もいて寝坊するのよ。ほら、スタッフの皆さんにも謝って、すぐ準備しなさい」
「はい」
カメラマンさんやスタイリストさんに謝り回る三人を見ながら先に到着していたメンバーたちがクスクス笑っていた。
「まさかヒトミまで寝坊するなんてね」
シホがチハルに向かって小さく呟いた呼び捨てを私は聞き逃さなかった。
今までのグループとヒトミの関係性ではありえない光景だった。ヒトミの寮に泊まっていたという状態から見ても。
「何かあったみたいね」
スタッフ全員に謝り終えたヒトミが申し訳なさそうでありながら、楽しそうな表情でレイコとユウナと戻ってきた。
刻々と強くなる日差しのなか、潮の匂いと共に、何か新しい風が吹いた気がした。
そう、詰め込みすぎだ。
あの歌番組から二ヶ月。4/Roseの人気に拍車がかかり、コマーシャルの出演オファーや、雑誌のグラビアなど外仕事の幅も広がりを見せた。
なかでもヒトミ個人としてはドラマのゲスト出演が二本、個人でのコマーシャル、雑誌の特集など、4thシングル「目に見えない関係」の制作期間とも重なり、ほどんど休みなく、朝から夜遅くまでのスケジュールがびっしり埋まっていた。
レッスン場などに顔を出してもヒトミがいないことも多く、空き時間や帰宅してから一人で振りを覚えているのだろう。
「僕も本人に話はしてるんですけど、ヒトミちゃんからのお願いで、なるべく仕事は断らないでくれって」
烏末はスマホのスケジュール表を見ながら答えた。
「身体が壊れたら身も蓋もないじゃない」
「何度も話はしてるんですけどね…。本人は今が頑張り時だって意気込んでます」
「「目に見えない関係」の撮影がもうそろそろよね?レッスンの進捗は?」
「前回ヒトミちゃんが参加したレッスンまでのダンスの振りとミュージックビデオでの動きは完璧でした。他のメンバーと明らかにレッスンの時間が少ないのに、先生やメンバーに一切聞くことなく、完璧に動けてました」
メンバーに聞くことなく…ね。
最近はメンバーから同じ相談をされることが多い。「ヒトミちゃんとなかなか距離が縮められない」という相談だ。
仕事やパフォーマンスの内容などの会話はもちろん出来るが、プライベートの話をするとサラッと交わされてしまうらしい。
デビューしてまだ一年、ほとんどの仕事が初めてでペースも掴めないままの多忙な日々。そんな時期だからこそ、身近なメンバーに頼れば、少しは負担を軽減できるのに。
「わかった。今度会ったら私が直接話してみるわ。と言っても、いつ会えるのやら…」
ヒトミはヒトミで個人仕事が多いが、私は私で他のアーティストのイベントの演出を任されていたり、次のクールで放送されるドラマの主題歌の提供をお願いされていたりとてんやわんやなのだ。
お決まりの寝不足で目がしょぼしょぼする。一度パソコンから目を離し、外の街灯を眺める。
まるで問題を抱えたクラスの担任教師のような気持ちだ。こうすれば丸く収まると分かっていても、本人たちはそううまくいかないことも理解している。それが歯痒くて歯痒くて。
おそらく、次にヒトミと会えるのは、「目に見えない関係」のミュージックビデオ撮影の時だろう。それまで身体に異常なく活動してくれればいいが…。
撮影当日、レイコ、ユウナ、ユイ、そしてヒトミが集合時間になっても来ないどころか連絡すらなかった。
ヒトミに関しては多忙の話もあって心配ということで、烏末が寮まで向かった。
集合している他のメンバーもスマホで電話を繰り返している最中、私のスマホに烏末から連絡がきた。
「もしもし?烏末?ヒトミは大丈夫?」
「西條さん、それが、他のメンバーもヒトミちゃんの寮に泊まっていたらしくて…今、急いで準備してます」
一瞬耳を疑った。ヒトミの寮に、メンバーが泊まった?
「僕が三人を連れて二号車で現地に向かいますので、西條さんは今いるメンバーと出発しちゃってください」
車は千葉県の海が近い、小さなコテージについた。「目に見えない関係」のミュージックビデオのロケ地だ。
先に出発したメンバーが準備を始めている中、二号車が到着した。
「すみませんでした」
車を降りるやいなや三人が謝りながら駆け足で寄ってきた。
「まったく、どうして三人もいて寝坊するのよ。ほら、スタッフの皆さんにも謝って、すぐ準備しなさい」
「はい」
カメラマンさんやスタイリストさんに謝り回る三人を見ながら先に到着していたメンバーたちがクスクス笑っていた。
「まさかヒトミまで寝坊するなんてね」
シホがチハルに向かって小さく呟いた呼び捨てを私は聞き逃さなかった。
今までのグループとヒトミの関係性ではありえない光景だった。ヒトミの寮に泊まっていたという状態から見ても。
「何かあったみたいね」
スタッフ全員に謝り終えたヒトミが申し訳なさそうでありながら、楽しそうな表情でレイコとユウナと戻ってきた。
刻々と強くなる日差しのなか、潮の匂いと共に、何か新しい風が吹いた気がした。
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