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第19話 第三の鍛練③

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 戦斧に魔力を流すと、中心に填められた魔石が赤い光を帯びていく。

(――この戦斧にどんな効果があるかはわからない。でも、この戦斧はブルーノさんがこの鍛練のために用意してくれたもの……黒龍を倒すことができる。それだけの力が秘めているはずだ……!)

「――うおぉおおおおっ!」

 ありったけの魔力を戦斧に流すと、銀色に輝く戦斧が紅色に染まっていく。

「むうっ!! あ、あれは……! ノアよ。止めろっ! 止めるんじゃああああっ!!」

(遠くで心配そうな声を上げるブルーノさんの声が聞こえる……)

 ノアは、一瞬、ブルーノに視線を向けると『大丈夫。安心して……絶対に黒龍を倒して見せるから』と微笑んだ。

 ノアの微笑みとは真逆に、顔を引き攣らせるブルーノ。

(……ち、違う! そうじゃないっ! 灰燼丸なんて使ったら、真・黒龍丸がっ……新たに打ち直したばかりの真・黒龍丸がぁぁぁぁ!!)

 紅色に染まった戦斧に填められた魔石が限界まで輝くと、魔石から紅い光がノアに向かって伸びていく。その光はノアの背中に紅い翼を作り上げると、まるで敵から身を守るように体に纏わりついていく。

「すごいや……戦斧を持っているだけで力が溢れてくる……」
『GU! GRU⁉︎』

 ノアの持つ戦斧の力を感じ取った黒龍は、顔を上げると空に向かって逃げようとする。

「……逃がさないよ」

 そのことを感じ取ったノアは、紅い翼をはためかせ黒龍の目の前に移動し牽制した。そして魔力を込め紅く輝く戦斧を振り上げる。

「これで、終わりだぁぁぁぁ!」

 最後の足掻きに黒炎を吐こうとする黒龍と、打ち直したばかりの真・黒龍丸が壊されることを予見し、心の中で絶叫を上げるブルーノ。

『GRAAAAAAA』
(いやああああぁぁぁぁ!)

 ノアの声と共に振り下ろされた戦斧の一撃は黒龍を黒炎ごと真っ二つに両断すると、断面から発火し爆散した。
 その瞬間、真・黒龍丸に填められた魔石は砕け散り、ブルーノはガックリとうな垂れる。

(う、うおおおおっ!? ワシの……ワシの真・黒龍丸がぁぁぁぁ‼︎)

 心の中で絶叫し、涙を流すブルーノ。

「ブルーノさん! やりました……って、あれ? ブルーノさん⁇」

 黒龍を倒したノアがブルーノの下に降り立つとブルーノの様子がおかしいことに気付く。

(ブルーノさん……もしかして、泣いてる? でも、泣く理由なんて……)

 そこまで考え、ノアは気付く。
 ブルーノの流した涙が、嬉し涙であることに……。

「……ノアよ。素晴らしい戦いぶりじゃった。特にワシが鍛えた戦斧・灰燼丸の使い方が秀逸だったぞ」

 その証拠にブルーノは、ノアが黒龍を倒したことを称え喜んでいる(ように見える)。

「ありがとうございます!」
「うむ。本日の鍛練はこれで終いじゃ。さて、ノアよ。灰燼丸をワシに……」
「はい」

 手に持っていた灰燼丸をブルーノに渡すノア。

「うむ……」

 灰塵丸を受け取ったブルーノは、安堵の表情を浮かべる。

(真・黒龍丸は残念ながら壊れてしまったが、これだけでも回収することができて本当に良かった……しかし、おかしいのぅ? 灰燼丸に魔力を込めてもあんなことにはならないはずなのじゃが……)

 真・黒龍丸は魔力を流すことにより、闇の眷属・黒龍を召喚することのできる戦斧。
 そして、灰燼丸は魔力を流すことにより、原初の炎・プロメテウスを召喚することのできる戦斧だ。

 先ほどの炎を纏ったノアの姿は、まるで原初の炎・プロメテウスを模したかのような姿だった。プロメテウスの力を最大限に引き出し操っていたようにも見える。

 ブルーノ自身が鍛え上げた戦斧を失うのは体中の穴という穴から血と涙と悔恨の叫びを上げてしまうほど惜しい。
 しかし、灰燼丸を真に使いこなすことのできる者にこの戦斧が渡らないのは、灰燼丸があまりにも可哀想だ。

(灰燼丸は、真に使いこなすことのできる者が持つべきじゃな……その方が、灰燼丸も喜ぶじゃろうて……)

 灰燼丸に視線を落とした後、ノアに視線を向けると、ブルーノは頷いた。

「……ノアよ。灰燼丸を使って見てどうじゃったかのぅ?」
「灰燼丸ですか? それはもう、とても凄かったです! 持っているだけで力が湧いてくるし、あの黒龍を一撃で倒すことができるし! もう言うことなしですよっ!」
「ふむっ。そうか、気に入ってもらえてなによりじゃ……」

 ブルーノは満足そうに呟くと、灰燼丸をノアの前に提示する。

「ノアよ。改めて黒龍との戦い。見事であった」

 できれば、真・黒龍丸を壊さないで欲しかったが……と、そう言いかけてブルーノは首を振る。

「……戦斧・灰燼丸をノアに託す。この灰燼丸をワシだと思って大切に使ってくれ」
 
 唐突に気持ちが悪いことを言い出すブルーノ。

「……あ、ありがとうございます」

 そう言って灰燼丸を握り締めると、ブルーノは血の涙を流し、歯を食いしばって灰燼丸を凝視する。

「あ、あの……やっぱり、この戦斧はブルーノさんが持っていた方が……」

 ブルーノの剣幕に圧倒されたノアが思わずそう言うと、ブルーノは灰燼丸から手を離しソッポを向いた。

「……いや、そう言ってくれるのは嬉しいが、灰燼丸はノアにこそ相応しい。ワシを可愛がると思って大切に扱ってやるのじゃ」
「あ、はい。ありがとうございます……」

 そう言われノアは思った。
 この灰燼丸は軽々しく扱えないなと……。

「……あ、あれ?」

 ブルーノに託された戦斧を手にお礼の言葉を述べた瞬間、視界がブレた。
 見ている光景がモザイク状となり、視界の端から真っ黒に染まっていく。

「うん? ノアよ。どうし……ノアッ! しっかりするのじゃっ! ノアッ!」

(あれ? ブルーノさんが俺を心配して……あ、ダメだ。これ以上、なにも考えられ……)

 ブルーノの声が魔の森に響き渡ると共に、託されたばかりの戦斧がノアの手からするりと抜け落ちた。
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