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005:フィギュア

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 商店街から歩いて5分。自宅にたどり着いた。築50年越えの木造一戸建て。昭和物件だが、外見はいわゆるオシャレな洋館で趣はあると思う。

 何とかというドラマで主人公の住む家として使わせてもらえないか? と問い合わせを受けた事もある。スケジュール的にどうにもだったのと、ほぼタダでしかも、あの俳優さんを近くで見れるのが特典です~という上から提案にムカッと来たので早々にお断りしたが。

 柱等の構造物や内装、屋根の葺き替え等は数回リフォームしているので生活していくのに何の不便はない。耐震補強済みなので地震等で歪んでないし、雨漏りも発生したことはない。バス、トイレも数年前に最新式にリフォームした。

 単純に、この家の作りや広さ的に、家族世帯向けの物件と言うことだけだな。問題は。

 一階にリビング、ダイニング、キッチン、部屋が三つ。二階に部屋が五つ。小さいながらも庭もある。

 こう言うと「豪邸じゃん」とか「金持ちなのね」なんて反応が返ってくるが、それは売るつもりのある財産として考えるならその通りだ。

 この家は、俺と両親の唯一の思い出だ。何かトラブルやアクシデントが無い限り、売ることはできない。終の住処として考えている俺にとっては、この広さが毎年の固定資産税の支払いで圧迫してくる。
 さらに無駄にね。立地がいいんだよね……。俺が子どもの頃に周辺に新駅が2つ完成しているし、住んでみたいオシャレタウンとかで常にベスト5に入るからね。この辺。

 そんな、確かに一人暮らしにしては贅沢な家なのだけれど。

 使用している部屋は、生活に関係する水廻り、キッチン関係と、俺の寝室。そしてリビングだけだ。それ以外の部屋はほぼ物置、又は倉庫と化している。

 そんな部屋の中で一つだけ、物や家具を移動して、空き部屋にしてあるのが客間だ。

 八畳くらいの部屋は元々は書斎だか応接間だかに使っていたらしく、天井が高い。曾祖父が建てた頃には小さいながらシャンデリアが輝いていたために、そういう作りになっている……そうだ。生前に父親が言っていた。
 俺一人で暮らす様になってからは、冷暖房効率を考えて普段使いはしていない。天上が高いとクーラーの効きが悪いんだよね。
 今は、置いてあったソファやテーブルを他の部屋に移動して、マットをひき、主に筋トレ部屋にしていた。

 なぜ、その元客間……というかトレーニング部屋の説明をしているのかと言えば。そう書いてあったからだ。

「ダンジョン」に附属してた説明書の最初の頁に。

 感情の変な起伏はあったモノの、普通に家に帰ってきた。片手に派手で大きなおもちゃ屋さんの袋に入ったロゴブロックのキットの箱をぶら下げて。

 いつも通り、会社に定時のリモート連絡を入れ直帰報告。ジャージに着替えて、風呂に入り、冷凍してあったご飯を温めて麻婆豆腐をかけて丼に。夕飯を済ませて、そそくさとリビングのソファで箱を開けた。

 開けた最初に出てきたのが、日本語訳説明書。コピー……で作られた様なモノクロの冊子だ。その表紙には「ダンジョン説明書-製作例サンプル」。そして下に大きく「注」の文字。

[完成後、呪文詠唱する可能性がある場合は、あらかじめ、縦横高さ二メートル立方に家具等のオブジェクトが無い場所でのキット組み立てを推奨いたします。万が一テーブル等で製作して、家具や天井などが破損しても当社では一切責任を負いかねます。さらに……]

 と、大きめの文字で書いてあった。

 何故かは良く判らない。ツッコミ所満載な記述だが、本気で注意しないといけないのは「空間の大きさ指定」で「推奨」したうえでハッキリと「責任を負いかねます」と表記している部分だ。これは仕事柄よっぽどの事だと判断した。
 トラブル回避のために様々な注意書きが書かれているが、その原因をハッキリ書けない場合の最大限の工夫が込められている気がしたのだ。

 板張り、フローリング床に直置きで製作スタート。

 リビングから電気座布団を持ち込んで寒さ対策をし、製作を開始した。春が近くなってきているとはいえ、板張りの部屋はまだ冷える。

 それにしても……モノのない広々とした場所で作れと言うわりには、普通のロゴブロックサイズのパーツだ。まあ、思ったよりも……沢山入っている気もするけど。

「うわっ! まじか」

 箱から出して小分けにされたビニール袋の中身を見てみた時点で、思わず口に出してしまった。何って、付属していたモンスターのフィギュアがパケ写の通り、フル塗装済みだったのだ。これ……あの定価じゃ全然、元が取れて無いんじゃ。

「いやーしかし、こりゃスゴイな」

 そこまでフィギュアマニアではない俺だが、オタクの常識として「彩色済みフィギュアは素のキットの数倍コストがかかる」くらいは知っている。塗装の細かさ次第ではとんでもなく価値が上がっているモノがあるのも知っている。

「うわー目の中までキチンと塗れてるなー」

 手に取ったゴブリンのフィギュア。質感を感じられるほど多くの色が使われている。造形がリアルで細かいのはパケ写から判っていたが、塗装までそのままなんて。

 このモンスターフィギュア、並べてショーケースに並べるだけで立派なコレクションと言えるんじゃないだろうか?

★2Sカテゴラリ
■ブラッディバッド×5

■スライム×3
ブルースライム、レッドスライム、グリーンスライム

■ホーンラビット×3

★スモールカテゴラリ
■ゴブリン×6
ソードゴブリン、ソードゴブリン、アックスゴブリン、
シールドゴブリン、シールドゴブリン、メイジゴブリン、

■グレーウルフ×3
グレーウルフ、グレーウルフ、グレーウルフリーダー

■スケルトン×6
ソードスケルトン、ソードスケルトン、クラブスケルトン、クラブスケルトン
スケルトンナイト、スケルトンメイジ

★ミディアムカテゴラリ
■オーガ×2
ソードオーガ、クラブオーガ

■ゴーレム×2
ストーンゴーレム、アイアンゴーレム

★ラージカテゴラリ
■サイクロプス
クラブサイクロプス

★2Lカテゴラリ
■レッドドラゴン

 パケ写だと判らなかったが、カテゴラリは細かく分化されている様だ。ラージはサイクロプス、LLがレッドドラゴンらしい。
 

 
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