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069:プロ達の狼狽3

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「ボス、ボス! なんだ、あれは、というか、何が行われてる? 神よ、ああ、ああ」

 今回の実働部隊の隊長、ヤガンからの緊急連絡が入ったのはさらにその三十分くらい後だった。

 八代ではないが、ヤガンもこちらの世界ではトップ5に入る実力派の傭兵&指揮官だ。

「シャープエッジ」ヤガン・マドロスといえば、多様な作戦から帰還し、自分と同じく、基礎訓練分野での鬼教官として各国の精鋭から恐れられている。
 俺を慕ってくれているし、会社を設立すると言えば「死ぬときは100%納得のいく命令で死にたいんですよ」と、真っ先に駆けつけてくれた。
 正直、いまだにうちの会社では彼の能力を十全に使いこなせていないのではないか? と考えたりもする。

 そんな歴戦の彼が、この慌て様だ……。

「落ち着け、ヤガン。それが判れば俺も苦労はしない。お前もそんなに慌てて音声会話を繋げてこないだろう? とにかく落ち着け」

「あ、ああ。すまん」

「だが、今……俺の目の前を見れば……」

「中にいた構成員は避難済みなのだろう? 何があった?」

「あ、ああ。見てもらった方が……見てもらった方がいいな……今、俺達は、異常事態に気がついて、警戒体勢のまま……現場にいる」

 現場? 離れたんじゃ無かったのか?

 映し出されたのは……何も無い……暗いので見にくいが、ヤガンの使っているスマホはうちの特別製だ。
 改造済みの本体とオリジナルアプリで、暗視とは言わないが、多少の光があれば強烈な補正が掛かり、通常のスマホ映像よりも遥かに鮮明な画を送ってくる。

「空き地……だな」

「ああ。ボス。今、この辺りにこんな広さの空き地がある調べてみてくれ」

 俺は一緒に映像を見ていたエミに目で合図する。検索。

 首を振るエミ。

「無いな。つまりそこは……」

「ああ。調査対象の元廃工場だ」

 ……。

 何とも言えない沈黙が落ちる。現在、俺とエミは日本国内で移動指揮所として使っているワゴン車の中だ。

 ここは現在、三人娘が暮らしている若島家の邸宅のすぐそばのマンションの駐車場だ。
 彼女たちに一切被害がない上に、あまり気づかれない様に状況を処理して欲しいという森下社長の意向に沿うため、対象にまとまって行動するというお願いを聞いてもらった。
 その結果が、しばらくの間、若島家での生活をお願いしている。
 場所はどこでも良かったのだが、若島家の目白邸宅は、若島桐子が使用人と共に一人で暮らしていることもあり、自由度が高かった。部屋も余っていて、二次被害が起きにくい。優良物件だった。

「エミ。俺は現場に向かう。ここは……頼めるな?」

「イエス、ボス」

 ワゴン車から降りると、うちの連中が連絡用に使用しているバイクにまたがった。

「ヤガン、インカム繋がった。念のため、状況報告を頼む」

 バイクのアクセルを開ける。都内とはいえ深夜だ。車は多く無い。

「了解。とは言っても……俺たちも不明点が多い。念のため動画も押さえていたが、「俺の目と変わらない」映像しか撮影出来ていない」

「ボスから連絡をもらい、潜入させていたヤツラを速攻で引き上げさせた。多少強引だったが、元々怪我をしている助っ人扱いだったので、当てにされていなかった様で、コンビニに行くと言って外に出ることが可能だった」

「合流してしばらくした頃。何か違和感を感じた。それが何かは判らない。俺以外のヤツラは首を横に振ったので、異常なしと判断した。が」

「さらにしばらくすると、今度は明確な違和感を感じた。そして……何かが、裸で明らかに意識を失っている女を担いで廃工場から出てきた。すまん、目をこらしたし、どうにかして見極めようとしたのだが「何が」女を抱えていたのか、今も判らない」

「その「何か」は、廃工場の塀際に止めてあった数台のワゴン車のうち、一台の中に女を横たえて、再度……廃工場に入った」

「ああ、再度入った様に……思えた、だな。女から離れて車のドアを閉めた時点で「何か」がどこに行ったか何一つ追えていない」

「放置された女に近付こうか、そもそも、工場跡に近付こうか、判断に迷っている最中に……目の前が暗くなった。何もかもが闇……の様に見えたが、良く判らない」

「で。しばらくするとまた普段の夜に戻った。さすがにおかしいと思って近づいて行って門から中を覗くと……この更地だ。近づいて行く際になんか違和感があるな……とは思ったんだよな……。ああ、こういうことか、と」

「判った。現状、そこに余計な人間は?」

「まだ、俺たち以外には誰も。そもそもこの辺は深夜には人っ子一人いない。コンビニも一キロくらい離れてるしな」

「もうすぐ到着する」

 着いてこの目で見ても……信じられなかったが、そこに広がっているのは塀に囲まれている平地。更地……まあ、駐車場予定地の様な感じの土地だ。

「こいつは……」

「な。報告がああなるのも仕方ないだろう?」

「救出されたらしい、女は?」

「全員、命に別状はねぇな。マースが言うには薬物過剰摂取による昏睡状態だろうってよ」

 マースはインテリで、米国で医師免許、弁護士免許も持っている。傭兵にたまにいる理論派だ。

「そうか……しかし……どんなことをすりゃ……こんなことになるんだ?」

 地面の……砂を触る。固い土地に細かい砂が堆積している様だ。

「ほんのちょっと前には確かにあったんだ。元工場の建物が。工場の機械、廃材も大量にあった……そして……チンピラとはいえ人も」

「判ってる」

「ここには……もう、何も無いな」

「ああ。物理的にもチェックしたし……俺の勘もそう言ってる」

「勘か……やべぇな。それに頼るときの相手は……マジデやべぇんだ」

 ヤガンの目を見て……俺も頷く。




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