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ハジマリ
しおりを挟む「はあ~、今日も仕事か…」……いつも朝はこんな感じで始まる。俺は20歳の時から介護に携わる仕事をしている。もう15年も。35歳になるまでに結婚、離婚を経験し、今はバツイチで独り身。そして、暇さえあればギャンブルをして、お金に困っている、どうしようも救えない奴だ。介護と聞けば世間から見たら聞こえは良いかもしれないが実際の現場は地獄、そしてカオス!他人の排泄物の処理は日常茶飯事、身体の不自由な人の介護を手伝うのはまだかわいい方だ。一番大変なのは「認知症」の利用者をいかに納得させ、生活をしてもらうことだ。正直、認知症の利用者方はそもそも施設に入っていること自体を理解していない、そしてもちろん自分が認知症になっていることもわからず、あくまで自分は記憶の中では「普通」の人間なのだ…もう、家で毎日介護をしている家族は本当にすごい。頭が下がる。自分の家族ならまだしも、自分が相手にしているのはあくまで他人、他人なんだ。何で知らない他人のケツを拭いてんだ、何で暴言を吐かれなきゃいけない、やってられるか……………………。……と思いつつも優しく声をかけ、理不尽な言い分にも口答えせずにただただ耐える、それが今の俺だ。 今日は夜勤。夕方17時から朝の9時まで。「今日は退所した人もいるしちょっとは楽かなー」ささいな事でもちょっとテンション上がる、そうでもなきゃこの仕事はやってられない。日勤者からの申し送りを淡々と受け、感情なく「無」で働く。21時を回った時に休憩に入る。「今日は何事もなく終わればいいなー」コンビニで買った弁当を食べながらそんなことを思ってたその時、後輩の佐々木が駆けつけてきた。「佐藤さん(俺)!転倒です!部屋で吉田さんが転んでます!」…楽だなーとか今日は何もないなーって思ってる時に限ってこういう事は起きる…「わかった、今行くわ」部屋に入るとベッドから落ち、横たわっている吉田さん…特に外傷や痛みは無さそう。「吉田さん、大丈夫ですか?!起きられそうですか?」動きを確認しながら吉田さんを抱き抱え、ベッドに移乗しようとした。「…ありがとう…まだ生きてるんだね………」その後に本当に小さな声で何か話していたが、その時は全く聞き取れなかった。が、何か違和感?変な感じもした。「大げさだよ、吉田さん!どこも怪我してないし、元気ですよ!」そう声を掛けると吉田さんはにっこり笑って再び眠りについた。その後は何事もなく、疲れたけど、無事に朝を迎えた。「なんか疲れたよなー」後輩の佐々木と今日の夜勤の振り返りをしながら休憩室で談笑していた。しかし、その時にはすでに今後起きるであろう惨劇が静かに忍びよっていた。「お疲れーい」休憩室から出て帰ろうとした瞬間……。「ぎぅいやぁー!!きゃー!」っと声にならない叫び声をあげながら全速力で走っていった。一瞬過ぎて俺は呆然とした。しかし、そんな呆然も束の間で次の衝撃が襲ってくる。それは何かを一点に見つめ、何かを探しているような。こちらにはまだ気付いていなかった。呆然としながらも俺はそいつがどうするのか、じっと見つめていた、いや、動けなかった。目は半分白目となり、よだれを垂らし、腕はダランとしている。まるでホラー映画だった。「こんなことあるわけないだろ…」
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