NOT追放者とお馬鹿獣人

文字の大きさ
1 / 1

NOT追放者とお馬鹿獣人

しおりを挟む
ジャンルはBLですが大したことありません。というか何もしてません。作者がゴリゴリの腐女子なのと登場人物が男のみなのでとりあえずBLジャンルに突っ込みました。

─────────────────



 荒野の広がる土大陸に暮らす獣人、アトラスはその日、珍しいモノを拾った。

 それは天候、気候、出現する魔物の凶悪さ、土地の痩せ具合などあらゆる面で過酷な土大陸では殆ど見かけない脆弱な種族、人間であった。

「……う、……う……」

 アトラスが人間を見たのは初めてのことだ。
 獣人よりも遥かに劣る体躯に、まともな武器も持っていない着の身着のままといった風情の格好。このまま放置すれば確実に命を散らすであろうその存在を、善良なアトラスは見捨てることができなかった。

 幸いにして、アトラスが今受注している依頼は緊急性が無く期間に余裕のあるものだ。アトラスは爪を立ててしまわぬよう気を付けながら、優しく優しく人間を抱き上げた。そして今日の探索は終わりにする事として、拠点を置いている街──ナディルへ帰還すべく歩を進めた。



 ナディルへ帰る道中、アトラスはいくつかの話を思い出していた。
 それらはみな、酒場に訪れる吟遊詩人の間で流行っているらしい話だ。あまり覚えの良くないアトラスでも、似たような話を幾度となく耳にするうち、その粗筋程度ならば記憶に留めることができた。


『それは不遇な男の復讐譚。信頼していた仲間に裏切られパーティを追放されたその男は──』
『婚約者でもあった王子に裏切られ、装備を奪われて迷宮最奥部へ取り残された聖女。しかし彼女の──』
『同じ境遇であった少年たちは本来助け合うべきでした。しかし事もあろうにそのリーダーは足手纏いと認識した一人の少年を囮として──』


 そして、腕の中の子供へ視線を落とす。

 薄汚れ、其処彼処に傷を負った身体。冒険者として活動するには幼く、きっとそう役に立つ事も出来なかっただろう。


「……こんな子供を追放して、こんな場所へ置き去りにするなんて……許せないな」


 Cランク冒険者、アトラス。
 恵まれた体格と類稀な戦闘能力は過酷な環境をもほともせず凄まじい戦果を齎し、冒険者としての評判は街を超え大陸全土へ轟く程のもの。
 ただし本人に名声欲などは無く、ただやりたいことをやりたい時にする為に冒険者になった。
 ……だが、一切の計算なくその勇猛を輝かせる彼には、とある致命的な弱点があった。本来ならAランクへも手が届く程の実力を相殺してしまう程の、致命的な欠点が。




「……かわいそうに……! 俺が、面倒見てやるからな!」



 それは、極度のお人好しな性分と、あまりよろしくない出来の頭だった。

 具体的には、知識が足らず思慮が足りず、思い込んだら一直線。地雷依頼も詐欺依頼も何のその、というその考え方だ。





 ちなみに彼が拾ったのは人間の子供ではなく、小柄ながらも成人した男性であり、もっと言うならば、彼は別にパーティを追放された訳でも、裏切られた訳でもないことを、アトラスはまだ知らない。

 そして、アトラスに拾われた青年も知らない。
 まさか、友人の転移魔術が暴発して送られた先が一切言葉の通じない場所だった挙句、向こう数年間この獣人のもとでひたすらに子供扱いされ甘やかされながら共同生活を送る羽目になるなどとは。


 二人はまだ、お互いのことも、何も知らない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

処理中です...