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こんにちは焼死体

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むかしむかし、という訳ではありませんがある所に、それはそれは腕の良い魔術師くんがいました。
 魔術師くんはとても頭がよく、魔術の学園で沢山の魔術を作り出しては同じくらいの腕を持つ魔術師と一緒に実験をしたり、卒業してからは国のえらい所に勤めて、日々を過ごしていました。少しの間だけ。

 魔術師くんはとても素晴らしい魔術師でしたが、その行動はとてもアブナイものでした。とある友人には「悪気も悪意も無く後輩をいじめて泣かす一種の天才」と言われるほどです。
 ある時は罪もない町人に新しくできた魔術をかけ身体中から花を咲かせてみたり、ある時は思いつきで自分の顔の存在を無くしてしまったり、ある時は町の橋という橋を無意味に眩しい色に変えてしまったりと、実害はさほど無いながら地味に迷惑な行動を起こしました。
 魔術師くんの魔術はとても難易度が高く、真似をできる魔術師はそうそういません。ただ、魔術師くんの魔術は魔術師くんが楽しいばかりで、実用性が無いものが大半なのです。
 上司がそのことに気が付いたと勘付いた魔術師くんは先回りして辞表を出し、退職金まで貰ってその場所を退職しました。
 そうして、魔術師くんは一人、ほとんど誰も立ち入ることのない深い森の中で、好きなだけ魔術を研究していました。



 ある日魔術師くんが何か楽しい物でも落ちていないかと森の中を散策していると、川の方から不思議な気配を感じました。森の魔物とは違うその気配に、魔術師くんは上流から自分の知らない魔物が流れてきたのではないかとわくわくしながら気配の元へ歩いていきます。


 川上からどんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのは焼死体でした。



「新鮮な死体だ! しかも焼死! 新しい蘇生魔術が試せるぞ!!」


 そして、魔術師くんは最低でした。
 



「……あれ、焼け焦げてるけど焼死じゃない。火傷の痕がなんか、古……、まさかこの火傷でしばらく生きてたのか!? そこから水死!? 珍しー! ヒョーーーウ!!」
「水死なら素材はこっちになって陣は、あー肌も治しときたい! 素材やっぱこっち……これ一個しか無いんだよなぁ、まあいっか」
「おー割と綺麗な顔してんじゃん。てか魔力の通りいいなー、下手な魔石より断然通る。これまでいじくった死体は人間とほぼ同じだったし、何だろーこいつ何だろー」
「ウッハハハ溜め込んでた素材がゴリゴリ減ってく! 学園長の家からパチッてきた奴とかもうねーわ!アッハハハハハハ」






「……う、……う?」
「おはよーーーー!! 俺がお前のご主人様だよ!!!!」
「……う……?」
「あー待てよこの前たしか法変わってどっかのライン以上の魔術師は弟子一人以上取んなきゃなんだっけ? めんどくせえ! とりあえずやっぱりお前弟子ーーー!!! 俺師匠! お前弟子! よろしく!」
「……?」
「よろしく!!!!!」
「はい」

 こうして、魔術師くんに弟子ができました。
 とても従順な子みたいです。よかったね。
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