ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)

文字の大きさ
28 / 46
第2章 ダンジョン嫌いニキ、裏方に戻る

第26話 黒野の過去③

 2027年4月。
 俺たち攻略部隊は、累計13個目のダンジョン踏破に挑んだ。 
 日本に存在するダンジョンは、その時点で13か所。
 つまりその戦いは、俺たちにとって最後の戦場になった。

 これが終われば、俺と岬は部隊をやめ、二人で生きていく。
 そう約束していた。

 内部の魔物は、過去に類を見ない強さだった。
 それでもボス部屋まで到達した。
 死闘の末、ボスをも討伐。
 歓声が上がる。

 ……だが、それで終わりではなかった。

 ボスの死体から黒い煙が吹き上がり、身体を包んだかと思えば、次の瞬間には全く異なる姿になって復活していた。
 それが、世界初の『形態変化ボス』観測の瞬間であった。

 一戦目で力を使い果たしていた俺は、二戦目で全く動けなかった。
 岩陰に倒れ込み、ただ見ていることしかできない。
 仲間たちが、命を削って戦う。
 香奈も、俺を置いて前に出た。

 ……結果、攻略は成った。

 日本は、平和になったのだ。
 だが、その代償は大きかった。
 部隊の半数が戦死し、残りも後遺症を負った。
 五体満足だったのは、俺だけ。
 香奈は、帰らなかった。

 俺はその後も軍に残るつもりだったが、精神的な負担からPTSDを発症していた。
 高濃度の魔力を感じると、呼吸が乱れる。

 そして、使

 俺は絶望した。
 皆を犠牲にして生き残ったのに、戦う術を失い無価値になった。

 正直、死のうと思った。
 だが、仲間に救われたという事実が、それを許さなかった。
 どうにかしてこの命を使わなければならないという、答えのない使命感があった。

 しかし何をすればいいかわからず、屍のように生きていた時。
 かつての上官であった聡子さんに声をかけられ、ダンジョン攻略支援用人工知能――『アリス』の開発に携わることになった。

 目的は、誰も死なないダンジョン攻略を実現するため。

 綺麗ごとだ。
 本当は、ただ贖罪がしたかっただけかもしれない。
 何か大義名分をつけ、自分の命を消費したかっただけ。



------



「――とまあ、それが俺の全てだ……って、ええ?」

 言い終えて顔を上げると、ルクシアがだばだばと涙を流していた。

「な、何泣いてんだよ……」
「そんな話聞かされたら……泣くしかないじゃありませんの……!」

 ずびびと鼻をすすりながら、ハンカチで目元を押さえる。

「……話は分かりましたわ。貴方が強い理由も、ダンジョン配信を嫌う理由も」

 泣きはらした赤い目で、ルクシアは真っ直ぐに俺を見る。

「ですが、そのうえで言わせてくださいまし。ダンジョン配信は、貴方が思っている以上に世の中の役に立っているんですのよ」
「……ああ、分かってるよ」

 コーヒーを一口飲む。
 少し、冷めていた。
 重たい沈黙が部屋に満ちる。

「……そうだ。アメリカの新ダンジョンの件、動画見たぞ。で、誘いも届いた」
「あら、そうでしたの。……貴方はどうしますの?」

 俺は首を横に振る。

「俺は行けない。PTSDが治ってない。高難度ダンジョンを想像するだけで過呼吸になるし、魔法も使えないまま。……こんな俺が行っても、しょうがないだろ」
「ま、そうですわね」

 ルクシアは、存外あっさりとうなずく。

「日本を救った英雄である貴方の協力を得られないのは残念ですが、事情がおありなら仕方ありませんわ」
「……随分あっさりしてるな。もっと責められるもんかと」
「まあ!」

 ルクシアは目を見開き、胸をドンと叩く。

「だって、わたくしがいれば事足りますもの。どんな強敵が来ようが、わたくしの前ではチリ同然ですわ! おーっほっほ!」
「……頼もしいな」

 そう呟いて、立ち上がる。

「あら、もう帰りますの?」
「ああ、少し話し疲れちまった。……ご馳走さん」

 玄関に向かいながら、振り返る。

「ルクシア、世界を頼んだぞ」
「ええ! どーんとお任せなさい!」

 力強い、自信満々の笑顔。
 俺はその姿を見て、コイツになら世界を任せて大丈夫だと、安堵した。


 その三週間後。
 ルクシアを中心とした、トップ配信者ストリーマーの部隊が結成された。

 俺は聞き覚えの無い名ばかりだったが、配信ヲタクの愛沢にしてみれば、まさにドリームチームらしかった。
 世間の熱狂も同様で、テレビではニュースキャスターが「魔物どもが可哀想になってくる」と、やり過ぎなくらい煽っていた。

 そして舞台は、満を持してダンジョンに突入。
 その攻略の様子は、ルクシアの提案で、全世界に中継されることとなった。

 世界の存亡をかけた戦いを、エンタメにする。
 それが、ダンジョン配信という文化に対するルクシアの回答であり、覚悟なのだ。
 配信文化に懐疑的な俺だが、ここまで来ると、もはや「あっぱれ」と言わざるをえない。
 そんな強いルクシアがリーダーなのだから、当然無事に攻略を成すだろう。
 そう思っていた。


 だが、突如として中継が途切れ、攻略部隊壊滅の報せが届いたのは。


 その翌日のことだった。



====================
あとがき
 過去編、やっと終了です……。
 長きに渡ってお付き合いいただき、ありがとうございました。
 ここから物語は現代に戻り、一気に佳境に入ります。
 ぜひ最後まで、お付き合いください。
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

私を人間界へ連れてって ~シンギュラリティ美少女がダンジョンから出てきたら、世界がゲシュタルト崩壊しました~

よっちゃ
ファンタジー
【完結済作品】「私を人間界に連れて行って」その一言から始まる超越的な美少女と人間社会の交流。 配信ドローンが映し出すのは、ラーメン屋、コンビニ、カラオケ、温泉旅館などの日常と、そして異世界新幹線が結ぶ異世界との交流――。 十五年前、突如出現したダンジョンは世界の日常となった。 人気ダンジョン配信者・望月レンは探索中の事故で未知の階層へと転移してしまう。 そこで彼が出会ったのは、S級モンスターを一言で沈ませる、銀髪の超美少女だった。 シンギュラリティ美少女と行く、ノンフィクションドキュメンタリーの開幕。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【番外編】追加しました。連休のスキマ時間でぜひお楽しみください! 【5話ごとのサクッと読める構成です!】 本編 全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます!お気に入り登録、ハート、コメント、とても励みになります♪ ─あらすじ─ 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

その土竜は己の爪を「鋭くない」と隠す ~臆病者の東京ダンジョン探索記

C@CO
ファンタジー
 推しアイドルで亡き親友の妹と再会した時、変わり映えしない日常はきしみ音を立てながら変わり始める。  「底辺ダンジョン配信者」。同時視聴者数0。これまでのアクセス数の最高は2桁。石引伸忠が行うダンジョン配信の結果である。  でも、見方を変えれば、「自由なソロ探索者、猫(ヤマネコ型モンスター)付き」でもある。パーティメンバーに邪魔されずに、気ままにダンジョンに潜り、地上に戻れば、行きつけの居酒屋で一杯ひっかけ、美味い料理に舌鼓を打つ。それと、アイドルへの推し活をする日々。  一方で、過去のハラスメントの記憶に悩まされ続けてもいる。  ならば、彼は何者なのか? 「底辺ダンジョン配信者」なのか。「自由な探索者」なのか。それとも……。 * 全23話です。 カクヨムと小説家になろうにも投稿しています。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!