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第2章 ダンジョン嫌いニキ、裏方に戻る
第26話 黒野の過去③
2027年4月。
俺たち攻略部隊は、累計13個目のダンジョン踏破に挑んだ。
日本に存在するダンジョンは、その時点で13か所。
つまりその戦いは、俺たちにとって最後の戦場になった。
これが終われば、俺と岬は部隊をやめ、二人で生きていく。
そう約束していた。
内部の魔物は、過去に類を見ない強さだった。
それでもボス部屋まで到達した。
死闘の末、ボスをも討伐。
歓声が上がる。
……だが、それで終わりではなかった。
ボスの死体から黒い煙が吹き上がり、身体を包んだかと思えば、次の瞬間には全く異なる姿になって復活していた。
それが、世界初の『形態変化ボス』観測の瞬間であった。
一戦目で力を使い果たしていた俺は、二戦目で全く動けなかった。
岩陰に倒れ込み、ただ見ていることしかできない。
仲間たちが、命を削って戦う。
香奈も、俺を置いて前に出た。
……結果、攻略は成った。
日本は、平和になったのだ。
だが、その代償は大きかった。
部隊の半数が戦死し、残りも後遺症を負った。
五体満足だったのは、俺だけ。
香奈は、帰らなかった。
俺はその後も軍に残るつもりだったが、精神的な負担からPTSDを発症していた。
高濃度の魔力を感じると、呼吸が乱れる。
そして、魔法が使えない。
俺は絶望した。
皆を犠牲にして生き残ったのに、戦う術を失い無価値になった。
正直、死のうと思った。
だが、仲間に救われたという事実が、それを許さなかった。
どうにかしてこの命を使わなければならないという、答えのない使命感があった。
しかし何をすればいいかわからず、屍のように生きていた時。
かつての上官であった聡子さんに声をかけられ、ダンジョン攻略支援用人工知能――『アリス』の開発に携わることになった。
目的は、誰も死なないダンジョン攻略を実現するため。
綺麗ごとだ。
本当は、ただ贖罪がしたかっただけかもしれない。
何か大義名分をつけ、自分の命を消費したかっただけ。
------
「――とまあ、それが俺の全てだ……って、ええ?」
言い終えて顔を上げると、ルクシアがだばだばと涙を流していた。
「な、何泣いてんだよ……」
「そんな話聞かされたら……泣くしかないじゃありませんの……!」
ずびびと鼻をすすりながら、ハンカチで目元を押さえる。
「……話は分かりましたわ。貴方が強い理由も、ダンジョン配信を嫌う理由も」
泣きはらした赤い目で、ルクシアは真っ直ぐに俺を見る。
「ですが、そのうえで言わせてくださいまし。ダンジョン配信は、貴方が思っている以上に世の中の役に立っているんですのよ」
「……ああ、分かってるよ」
コーヒーを一口飲む。
少し、冷めていた。
重たい沈黙が部屋に満ちる。
「……そうだ。アメリカの新ダンジョンの件、動画見たぞ。で、誘いも届いた」
「あら、そうでしたの。……貴方はどうしますの?」
俺は首を横に振る。
「俺は行けない。PTSDが治ってない。高難度ダンジョンを想像するだけで過呼吸になるし、魔法も使えないまま。……こんな俺が行っても、しょうがないだろ」
「ま、そうですわね」
ルクシアは、存外あっさりとうなずく。
「日本を救った英雄である貴方の協力を得られないのは残念ですが、事情がおありなら仕方ありませんわ」
「……随分あっさりしてるな。もっと責められるもんかと」
「まあ!」
ルクシアは目を見開き、胸をドンと叩く。
「だって、私がいれば事足りますもの。どんな強敵が来ようが、私の前ではチリ同然ですわ! おーっほっほ!」
「……頼もしいな」
そう呟いて、立ち上がる。
「あら、もう帰りますの?」
「ああ、少し話し疲れちまった。……ご馳走さん」
玄関に向かいながら、振り返る。
「ルクシア、世界を頼んだぞ」
「ええ! どーんとお任せなさい!」
力強い、自信満々の笑顔。
俺はその姿を見て、コイツになら世界を任せて大丈夫だと、安堵した。
その三週間後。
ルクシアを中心とした、トップ配信者の部隊が結成された。
俺は聞き覚えの無い名ばかりだったが、配信ヲタクの愛沢にしてみれば、まさにドリームチームらしかった。
世間の熱狂も同様で、テレビではニュースキャスターが「魔物どもが可哀想になってくる」と、やり過ぎなくらい煽っていた。
そして舞台は、満を持してダンジョンに突入。
その攻略の様子は、ルクシアの提案で、全世界に中継されることとなった。
世界の存亡をかけた戦いを、エンタメにする。
それが、ダンジョン配信という文化に対するルクシアの回答であり、覚悟なのだ。
配信文化に懐疑的な俺だが、ここまで来ると、もはや「あっぱれ」と言わざるをえない。
そんな強いルクシアがリーダーなのだから、当然無事に攻略を成すだろう。
そう思っていた。
だが、突如として中継が途切れ、攻略部隊壊滅の報せが届いたのは。
その翌日のことだった。
====================
あとがき
過去編、やっと終了です……。
長きに渡ってお付き合いいただき、ありがとうございました。
ここから物語は現代に戻り、一気に佳境に入ります。
ぜひ最後まで、お付き合いください。
俺たち攻略部隊は、累計13個目のダンジョン踏破に挑んだ。
日本に存在するダンジョンは、その時点で13か所。
つまりその戦いは、俺たちにとって最後の戦場になった。
これが終われば、俺と岬は部隊をやめ、二人で生きていく。
そう約束していた。
内部の魔物は、過去に類を見ない強さだった。
それでもボス部屋まで到達した。
死闘の末、ボスをも討伐。
歓声が上がる。
……だが、それで終わりではなかった。
ボスの死体から黒い煙が吹き上がり、身体を包んだかと思えば、次の瞬間には全く異なる姿になって復活していた。
それが、世界初の『形態変化ボス』観測の瞬間であった。
一戦目で力を使い果たしていた俺は、二戦目で全く動けなかった。
岩陰に倒れ込み、ただ見ていることしかできない。
仲間たちが、命を削って戦う。
香奈も、俺を置いて前に出た。
……結果、攻略は成った。
日本は、平和になったのだ。
だが、その代償は大きかった。
部隊の半数が戦死し、残りも後遺症を負った。
五体満足だったのは、俺だけ。
香奈は、帰らなかった。
俺はその後も軍に残るつもりだったが、精神的な負担からPTSDを発症していた。
高濃度の魔力を感じると、呼吸が乱れる。
そして、魔法が使えない。
俺は絶望した。
皆を犠牲にして生き残ったのに、戦う術を失い無価値になった。
正直、死のうと思った。
だが、仲間に救われたという事実が、それを許さなかった。
どうにかしてこの命を使わなければならないという、答えのない使命感があった。
しかし何をすればいいかわからず、屍のように生きていた時。
かつての上官であった聡子さんに声をかけられ、ダンジョン攻略支援用人工知能――『アリス』の開発に携わることになった。
目的は、誰も死なないダンジョン攻略を実現するため。
綺麗ごとだ。
本当は、ただ贖罪がしたかっただけかもしれない。
何か大義名分をつけ、自分の命を消費したかっただけ。
------
「――とまあ、それが俺の全てだ……って、ええ?」
言い終えて顔を上げると、ルクシアがだばだばと涙を流していた。
「な、何泣いてんだよ……」
「そんな話聞かされたら……泣くしかないじゃありませんの……!」
ずびびと鼻をすすりながら、ハンカチで目元を押さえる。
「……話は分かりましたわ。貴方が強い理由も、ダンジョン配信を嫌う理由も」
泣きはらした赤い目で、ルクシアは真っ直ぐに俺を見る。
「ですが、そのうえで言わせてくださいまし。ダンジョン配信は、貴方が思っている以上に世の中の役に立っているんですのよ」
「……ああ、分かってるよ」
コーヒーを一口飲む。
少し、冷めていた。
重たい沈黙が部屋に満ちる。
「……そうだ。アメリカの新ダンジョンの件、動画見たぞ。で、誘いも届いた」
「あら、そうでしたの。……貴方はどうしますの?」
俺は首を横に振る。
「俺は行けない。PTSDが治ってない。高難度ダンジョンを想像するだけで過呼吸になるし、魔法も使えないまま。……こんな俺が行っても、しょうがないだろ」
「ま、そうですわね」
ルクシアは、存外あっさりとうなずく。
「日本を救った英雄である貴方の協力を得られないのは残念ですが、事情がおありなら仕方ありませんわ」
「……随分あっさりしてるな。もっと責められるもんかと」
「まあ!」
ルクシアは目を見開き、胸をドンと叩く。
「だって、私がいれば事足りますもの。どんな強敵が来ようが、私の前ではチリ同然ですわ! おーっほっほ!」
「……頼もしいな」
そう呟いて、立ち上がる。
「あら、もう帰りますの?」
「ああ、少し話し疲れちまった。……ご馳走さん」
玄関に向かいながら、振り返る。
「ルクシア、世界を頼んだぞ」
「ええ! どーんとお任せなさい!」
力強い、自信満々の笑顔。
俺はその姿を見て、コイツになら世界を任せて大丈夫だと、安堵した。
その三週間後。
ルクシアを中心とした、トップ配信者の部隊が結成された。
俺は聞き覚えの無い名ばかりだったが、配信ヲタクの愛沢にしてみれば、まさにドリームチームらしかった。
世間の熱狂も同様で、テレビではニュースキャスターが「魔物どもが可哀想になってくる」と、やり過ぎなくらい煽っていた。
そして舞台は、満を持してダンジョンに突入。
その攻略の様子は、ルクシアの提案で、全世界に中継されることとなった。
世界の存亡をかけた戦いを、エンタメにする。
それが、ダンジョン配信という文化に対するルクシアの回答であり、覚悟なのだ。
配信文化に懐疑的な俺だが、ここまで来ると、もはや「あっぱれ」と言わざるをえない。
そんな強いルクシアがリーダーなのだから、当然無事に攻略を成すだろう。
そう思っていた。
だが、突如として中継が途切れ、攻略部隊壊滅の報せが届いたのは。
その翌日のことだった。
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あとがき
過去編、やっと終了です……。
長きに渡ってお付き合いいただき、ありがとうございました。
ここから物語は現代に戻り、一気に佳境に入ります。
ぜひ最後まで、お付き合いください。
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