ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)

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第3章 ダンジョン嫌いニキ、英雄になる

第31話 助っ人

「キシャアアアアアアッ!」

 勢いよく前足が振り上げられる。
 反射的に横へ転がると、さっきまでいた場所が深く抉れ、砕けた土や石が弾丸のように飛び散った。

 空気を裂く音が走る。
 敵の身体は動いていないのに――いや、尻尾だ。
 とっさに短剣を交差させ、防御体勢をとる。
 しなる尾の攻撃を受けると、金属がきしむ甲高い音が響いた。

「くそっ……」

 距離を取ろうと後退しかけた瞬間、敵の翼が大きく羽ばたいた。
 そして襲い来る突風。
 視界が白くかすむ。
 身体が後傾し、地面から浮きかける。
 このまま体勢を崩せば、終わる。

「おおおおおおおおっ!」

 喉の奥から無理やり声を引きずり出し、地面に短剣を突き立てる。
 刃を杭代わりにして踏みとどまり、そのまま力任せに前へ踏み出す。
 守っていたら削られるだけ。
 ならば、先ほどと同様に喰らいつく。

「キェェエエエエエッ!」

 鋭い牙が迫る。
 息がかかる距離まで近づき、噛まれる寸前で身体を沈めて顎の下へ滑り込む。
 毛の生えた腹部が視界いっぱいに広がる。

 そこへ、連撃。
 一閃、二閃、三閃。
 まだ終わらない。
 
 寝そべったままでは踏ん張れず、一撃の威力は落ちる。
 ならば効くまで打ち込むだけ。

 硬い毛皮が刃を弾くが、同じ箇所を執拗に斬り続ける。
 浅くてもいい。
 とにかく裂け目を重ねるんだ。

 だが、敵もじっと切られ続けてはくれない。
 後脚の爪が振り抜かれ、俺の太ももを裂いた。
 焼けるような痛みが走り、視界が揺らぐ。

 いや、構うな。
 逆手に持ち替えた短剣を思い切り突き出す。
 連撃によって生み出された肉の亀裂に、剣先がずぶりと食い込む。
 確かな手応え。

「ギィヤァアアアアアアアッ!」

 鼓膜を震わせる悲鳴が戦場に響き渡る。
 翼と尾が暴れ、身体が激しく痙攣する。
 押しつぶされる前に転がって逃げると、巨体は数歩よろめき、やがて崩れ落ちた。

「はぁ……っ、はぁ……」

 視界が滲む。
 腕が重い。
 脚も、もう軽やかには動かない。

 やっと、二体目。
 それだけで、体力の底が見え始めている。
 だが、周囲にはまだ無数の影が蠢いていた。

『マスター、三体目が来ます。……いえ、続く四体目と五体目も同時です』

 アリスが冷酷に宣言する。

「馬鹿やろ……ちょっとは、希望持たせること言いやがれ……」

 アリスの言葉通り、三体目が迫る。
 その後ろにも、さらに数体。
 雑魚だと見逃されていたのが、二体倒したのを見て、本腰を入れて仕留めに来た……と、俺には奴らの行動がそう思えた。

「っ……駄目だ、まだだ……!」

 足がふらつく。
 それでも構える。
 しかし身体は戦えるような状態じゃない。
 そんな中、魔物三体が同時に跳びかかってきた。

 万事休す――

 ――ダダダダダダダッ!

 突如、乾いた連続音が背後から叩きつけられる。
 それは重火器特有の連射音。
 そして爆ぜる衝撃波が背中を押した。

 次の瞬間、目の前の魔物たちが破裂した。

 色とりどりの魔力弾が着弾し、魔物たちを焼き払う。
 赤、青、橙の閃光が連続で炸裂し、肉片と火花が空中を舞った。
 さっきまで俺を殺そうとしていた影が、跡形もなく吹き飛ぶ。

「な……」

 米軍の援護か、と一瞬思う。
 だが弾道が逆だ。
 弾は俺の背後から、一直線に魔物を射抜いている。

 こんなことはあり得ない。
 なぜなら、背後にあるのはダンジョンの入り口ゲートだけ。
 いったい誰が……。
 
 ゆっくりと振り返る。

 白煙の向こうに、人影が五つ。
 顔を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。
 いずれも、見覚えがある。
 忘れようとしても、忘れられなかった顔だ。
 かつて、同じ現場を駆けた連中。

「な、なんで、お前ら……」

 そして再びゲートの光が揺らぎ、その中から更なる人員が流れ出してくる。
 銃口を前方に向けたまま左右に展開し、無駄のない動きで陣形を組む。
 号令を待たずとも、互いの位置を理解している足運びだ。

 十人。
 二十人。
 三十、四十。
 ……やがて、その数は五十に達した。

 胸の奥が、熱を帯びて震える。

「何やってんだよ……!」

 勝手に声が漏れた。
 最後にひときわ存在感のある影が、最後尾から前へ出た。

 上官用の特化スーツ。
 一般隊員とは違う、重厚な装甲と高出力炉。
 長い黒髪を後ろで束ね、鋭い目で戦場全体を一瞥する。

 羽生田はにゅうだ社長。
 ……いや、今の彼女は、と言った方が適切か。
 彼女が一歩踏み出し、右手を高く掲げる。

「――!」

 凛とした声が、爆音の中でもはっきりと響いた。
 次の瞬間、振り下ろされる腕。

「全力で焼き払うわよ!!」

 号令と同時に、五十挺の銃が一斉に火を噴く。
 轟音、閃光、連続する爆裂。

 統制の取れた一斉射撃が、迫り来る魔物の群れを面で薙ぎ払っていく。
 外殻が砕け、巨体が吹き飛び、空間が光で埋まる。
 その光景を、俺はただ呆然と見つめた。

 絶体絶命の窮地に現れた、謎の助っ人。

 それは、かつての俺の仲間たちだった。
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