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第3章 ダンジョン嫌いニキ、英雄になる
第38話 撃破、そして
ボスの巨大な拳が力強く振り下ろされる。
俺は横へ跳び、紙一重で避ける。
拳が床へめり込み、岩が爆ぜた。
衝撃波が足元をさらう。
俺はその懐へ滑り込み、短剣を振るう。
刃が黒い装甲の継ぎ目をかすめ、火花を散らした。
やはり、硬い。
回復能力が高いのは判明したが、生半可な攻撃ではそもそも通らない。
次の瞬間、横からの蹴りで薙ぎ払われる。
咄嗟に後方へ跳んだが、衝撃が脇腹を掠めた。
空気が肺から押し出される。
着地して、ちらりと視線を斜め後ろへ向ける。
視界の端で、ルクシアたちが並んで陣取っているのが見えた。
ルクシアに、槍を持った細身の男に、筋骨隆々の大男に、足をふら付かせている女。
それぞれの魔力が静かに膨れ上がっている。
順調に準備は進んでいる。
だが、まだだ。あと少し。
「っし!」
俺は強く息を吐き、再び踏み込んだ。
またもボスの拳が振り下ろされる。
左へ身体を逸らし、躱しざまに短剣で腕の装甲を斬る。
――ギャリリリリッ!
金属が削れて嫌な音が響く。
俺はそのままボスの背後へ回り込み、脚の関節へ蹴りを叩き込む。
巨体がわずかによろめく。
だが次の瞬間、後ろ向きに蹴りが飛んできた。
避けきれず、腕を身体の前で交差する。
「っ!!」
骨が軋んだ。
身体ごと吹き飛ばされ、床を転がる。
「ハ、ァッ……!」
立て。
急げ。
奴をルクシアたちの元へ向かわせるな。
俺は歯を食いしばって起き上がる。
ボスが体の向きを変え、ルクシアたちに迫る。
重い足音が洞窟に響く。
俺は短剣を握り直し、足に力を込めた。
「う、おおおっ……!」
息が荒い。
視界の端が暗くなり始めている。
――そろそろ限界か。
あと一瞬だけ持ってくれ。俺の身体よ。
俺は大きく息を吸い込み、地面を蹴った。
ボスの身体に側面から突っ込む。
まず左腕の関節へ拳で一撃。
重たい衝撃。
ボスがこちらへ振り向き、拳を放つ。
俺はそれを躱しながら回り込んで、ボスの右肘を蹴る。
そこから低く沈み込み、膝関節へも回し蹴り。
その衝撃でボスの身体がこちらを向いた。
俺はもう一方の脚へ、拳を叩き込む。
四肢すべてに連続攻撃。
巨体が一瞬、動きを止めた。
――今だ。
俺は胸元へ飛び込んだ。
両手の短剣を握り込み、交差させる。
渾身の力で振り抜いた。
――バキィッ!
クロスの斬撃。
金属を裂く鈍い音。
ボスの分厚い胸部装甲に、大きなヒビが走る。
「今だ! やれ!!」
叫びながら、横へ全力で跳んで射線から外れる。
背後で魔力が弾けた。
「――重圧崩砕!」
大男の咆哮。
空間そのものが押し潰されるような衝撃波が、ボスへ叩きつけられる。
「――雷槍天断突!」
槍男の雷が一直線に走る。
白い稲妻が胸のヒビへ突き刺さった。
「――氷界絶衝!」
女の掌から冷気を纏った暴風が射出される。
ボスの身体に命中し、青白く凍りつかせていく。
「ようやく思いっきりやれますわね!」
ルクシアの声。
炎の羽が大きく広がる。
頭上にあった冠が胸の前にやってきて、凄まじい勢いで回転した。
「――炎獄の冠・灼熱線!」
冠の中心から、極太の炎が一直線に放たれる。
衝撃波、雷、氷、炎。
三位ならぬ、四位一体の攻撃がボスの胸へ叩き込まれた。
眩い光が視界を焼き、爆音が耳をつんざく。
遅れて、猛烈な風圧がダンジョン内を駆け抜けた。
俺は地面に転がったまま、その衝撃をやり過ごす。
やがて、煙がゆっくりと晴れていく。
その中心。
ボスの胸に、巨大な風穴が空いていた。
そして穴からは黒い魔力の煙が噴き出している。
ボスの巨体が揺れ、身体の表面が紫紺色の光へと崩れ始めた。
粒子が空中へ舞い上がる。
……いつも通り、魔物を倒したときの現象だ。
俺は全身の力を抜いて、小さく息を吐いた。
「やったな」
その言葉を合図に、四人からも歓声が上がる。
「ほ、本当に……やりましたわ……!」
「やれやれ。もう一生、ダンジョンには潜らねえよ」
「……娘の顔が見てえな」
「本当、割に合わない仕事……!」
四人は次々と地面にへたり込む。
そして、力なく笑った。
この場にいる全員がヘトヘトだ。
それでも、顔には安堵が浮かんでいる。
これで終わったのだ。
最強のダンジョンを踏破した。
世界は、平和になる。
……だが、何かがおかしい。
俺は目を細めた。
胸の奥に残る違和感。
安堵や達成感が湧き上がろうとするのを、無理やり押さえ込む。
今、大事なのはこれだ。
この違和感を見逃さないこと。
目を逸らすな。
どこだ。何がおかしい。
ボスは倒した。
胸に穴が開き、魔力の煙が噴き出し、身体が光の粒子へ変わった。
いつもと同じ現象。
「……いや、遅い」
ぽつりと呟く。
光の粒子が、まだそこにある。
普通なら、すぐに散って消えるはずだ。
だが今回は違う。
黒い煙も、紫の粒子も、空中に留まり続けている。
まるで、何かを待っているみたいに。
あのときも同じだった。
強力なボスを倒し、張り詰めていた緊張を解いた、その直後。
脳裏に9年前の記憶がよみがえった時、俺は叫んでいた。
「――まだだ!!」
光の粒子が、ゆっくりと中心へ集まり始める。
漂っていた黒い煙がそれを覆う。
背筋に氷を流し込まれたような感覚。
全身の毛が逆立つ。
俺が慌てて身体を起こした、そのとき。
――ズゥオオオオッ!
光の粒子を中心に、黒い煙が巨大な渦を巻き始めた。
空中にいびつな球体が形成される。
ぐるぐると回転する漆黒の塊。
「な、何ですの……!?」
ルクシアが言う。
彼女含め、ここにいるのは世界トップクラスの攻略者たちだ。
これまでの攻略の中で、一度は同じ経験をしたことがあるはずだし、知識としてこの現象を知ってもいるだろう。
だが、誰も信じたくなかったのだ。
――ドパァン!
爆発音とともに、球体は弾けた。
煙が晴れ、強烈な突風が洞窟を吹き抜ける。
砂塵が舞う。
その奥で、巨大な影が宙に浮かんでいた。
「形態変化ボスだ……!」
俺は絶望の中で、ルクシアの問いに答えた。
俺は横へ跳び、紙一重で避ける。
拳が床へめり込み、岩が爆ぜた。
衝撃波が足元をさらう。
俺はその懐へ滑り込み、短剣を振るう。
刃が黒い装甲の継ぎ目をかすめ、火花を散らした。
やはり、硬い。
回復能力が高いのは判明したが、生半可な攻撃ではそもそも通らない。
次の瞬間、横からの蹴りで薙ぎ払われる。
咄嗟に後方へ跳んだが、衝撃が脇腹を掠めた。
空気が肺から押し出される。
着地して、ちらりと視線を斜め後ろへ向ける。
視界の端で、ルクシアたちが並んで陣取っているのが見えた。
ルクシアに、槍を持った細身の男に、筋骨隆々の大男に、足をふら付かせている女。
それぞれの魔力が静かに膨れ上がっている。
順調に準備は進んでいる。
だが、まだだ。あと少し。
「っし!」
俺は強く息を吐き、再び踏み込んだ。
またもボスの拳が振り下ろされる。
左へ身体を逸らし、躱しざまに短剣で腕の装甲を斬る。
――ギャリリリリッ!
金属が削れて嫌な音が響く。
俺はそのままボスの背後へ回り込み、脚の関節へ蹴りを叩き込む。
巨体がわずかによろめく。
だが次の瞬間、後ろ向きに蹴りが飛んできた。
避けきれず、腕を身体の前で交差する。
「っ!!」
骨が軋んだ。
身体ごと吹き飛ばされ、床を転がる。
「ハ、ァッ……!」
立て。
急げ。
奴をルクシアたちの元へ向かわせるな。
俺は歯を食いしばって起き上がる。
ボスが体の向きを変え、ルクシアたちに迫る。
重い足音が洞窟に響く。
俺は短剣を握り直し、足に力を込めた。
「う、おおおっ……!」
息が荒い。
視界の端が暗くなり始めている。
――そろそろ限界か。
あと一瞬だけ持ってくれ。俺の身体よ。
俺は大きく息を吸い込み、地面を蹴った。
ボスの身体に側面から突っ込む。
まず左腕の関節へ拳で一撃。
重たい衝撃。
ボスがこちらへ振り向き、拳を放つ。
俺はそれを躱しながら回り込んで、ボスの右肘を蹴る。
そこから低く沈み込み、膝関節へも回し蹴り。
その衝撃でボスの身体がこちらを向いた。
俺はもう一方の脚へ、拳を叩き込む。
四肢すべてに連続攻撃。
巨体が一瞬、動きを止めた。
――今だ。
俺は胸元へ飛び込んだ。
両手の短剣を握り込み、交差させる。
渾身の力で振り抜いた。
――バキィッ!
クロスの斬撃。
金属を裂く鈍い音。
ボスの分厚い胸部装甲に、大きなヒビが走る。
「今だ! やれ!!」
叫びながら、横へ全力で跳んで射線から外れる。
背後で魔力が弾けた。
「――重圧崩砕!」
大男の咆哮。
空間そのものが押し潰されるような衝撃波が、ボスへ叩きつけられる。
「――雷槍天断突!」
槍男の雷が一直線に走る。
白い稲妻が胸のヒビへ突き刺さった。
「――氷界絶衝!」
女の掌から冷気を纏った暴風が射出される。
ボスの身体に命中し、青白く凍りつかせていく。
「ようやく思いっきりやれますわね!」
ルクシアの声。
炎の羽が大きく広がる。
頭上にあった冠が胸の前にやってきて、凄まじい勢いで回転した。
「――炎獄の冠・灼熱線!」
冠の中心から、極太の炎が一直線に放たれる。
衝撃波、雷、氷、炎。
三位ならぬ、四位一体の攻撃がボスの胸へ叩き込まれた。
眩い光が視界を焼き、爆音が耳をつんざく。
遅れて、猛烈な風圧がダンジョン内を駆け抜けた。
俺は地面に転がったまま、その衝撃をやり過ごす。
やがて、煙がゆっくりと晴れていく。
その中心。
ボスの胸に、巨大な風穴が空いていた。
そして穴からは黒い魔力の煙が噴き出している。
ボスの巨体が揺れ、身体の表面が紫紺色の光へと崩れ始めた。
粒子が空中へ舞い上がる。
……いつも通り、魔物を倒したときの現象だ。
俺は全身の力を抜いて、小さく息を吐いた。
「やったな」
その言葉を合図に、四人からも歓声が上がる。
「ほ、本当に……やりましたわ……!」
「やれやれ。もう一生、ダンジョンには潜らねえよ」
「……娘の顔が見てえな」
「本当、割に合わない仕事……!」
四人は次々と地面にへたり込む。
そして、力なく笑った。
この場にいる全員がヘトヘトだ。
それでも、顔には安堵が浮かんでいる。
これで終わったのだ。
最強のダンジョンを踏破した。
世界は、平和になる。
……だが、何かがおかしい。
俺は目を細めた。
胸の奥に残る違和感。
安堵や達成感が湧き上がろうとするのを、無理やり押さえ込む。
今、大事なのはこれだ。
この違和感を見逃さないこと。
目を逸らすな。
どこだ。何がおかしい。
ボスは倒した。
胸に穴が開き、魔力の煙が噴き出し、身体が光の粒子へ変わった。
いつもと同じ現象。
「……いや、遅い」
ぽつりと呟く。
光の粒子が、まだそこにある。
普通なら、すぐに散って消えるはずだ。
だが今回は違う。
黒い煙も、紫の粒子も、空中に留まり続けている。
まるで、何かを待っているみたいに。
あのときも同じだった。
強力なボスを倒し、張り詰めていた緊張を解いた、その直後。
脳裏に9年前の記憶がよみがえった時、俺は叫んでいた。
「――まだだ!!」
光の粒子が、ゆっくりと中心へ集まり始める。
漂っていた黒い煙がそれを覆う。
背筋に氷を流し込まれたような感覚。
全身の毛が逆立つ。
俺が慌てて身体を起こした、そのとき。
――ズゥオオオオッ!
光の粒子を中心に、黒い煙が巨大な渦を巻き始めた。
空中にいびつな球体が形成される。
ぐるぐると回転する漆黒の塊。
「な、何ですの……!?」
ルクシアが言う。
彼女含め、ここにいるのは世界トップクラスの攻略者たちだ。
これまでの攻略の中で、一度は同じ経験をしたことがあるはずだし、知識としてこの現象を知ってもいるだろう。
だが、誰も信じたくなかったのだ。
――ドパァン!
爆発音とともに、球体は弾けた。
煙が晴れ、強烈な突風が洞窟を吹き抜ける。
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