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第3章 ダンジョン嫌いニキ、英雄になる
第40話 二度目の撃破
まえがき
本話の前半はルクシア視点で物語を進行します。
途中の場面転換から、黒野の一人称視点に戻ります。
=============================
――ドン、ドン、ドゴォン!
石床に響く振動で、ルクシアはゆっくりと目を覚ました。
「……っ」
意識が浮かび上がる。
と同時に、状況が蘇る。
ボスを倒したと思ったら、姿を変えて復活した。
最後に見た映像は、目の前に現れたボスの姿。
「――っ!!」
身体を起こそうとした瞬間、全身に稲妻のような痛みが走った。
肺の奥から息が漏れる。
視界が白くスパークする。
その痛みでようやく、ボスから攻撃されたのだった、と思い出す。
状況を確認したいが、激痛のせいで動けない。
何本かの骨が確実に逝っている。
起き上がるのは無理だと悟り、ルクシアはゆっくりと首だけを横へ向けた。
横に数メートル離れた地点。
細身の男――『雷王』シャザクが、ルクシアと同じように地面に倒れている。
しかし彼は、首を持ち上げて一点を見つめていた。
そしてシャザクの奥。
さらに離れた場所には『氷帝』ミザリーと、『破壊神』ドルマージの姿も見える。
二人も戦闘不能といった様子で、力なく地に伏している。
だが彼女らも同様に、顔は前方へ向いていた。
(あっちに……何があると……?)
ルクシアも痛む身体を無理やり動かし、そちらへ視線を向けた。
そして、思わず息を呑んだ。
洞窟の中央で、たった一人の人間があの怪物と戦っていた。
それは黒野 凍希。
ボスの触手のように分かれた腕が襲いかかる。
黒野が半歩だけ移動すると、攻撃は空を切る。
そしてカウンター。
――ドッ!
鈍い音とともに、黒野の拳がボスの腹へめり込む。
巨体がよろめくが、すぐに体勢を立て直して牙を剥き出しにした噛みつき。
だが、それも当たらない。
黒野はわずかに頭を傾けただけだった。
次の瞬間、また彼の拳がさく裂する。
ボスの蜘蛛のような多脚が高く持ち上がる。
踏み潰しの攻撃を繰り出すが、黒野が立っている地点は綺麗に脚と脚の間だ。
――ドン。
またも黒野のカウンター。
ボスの腹へ一撃。
触手の腕がまとめて振り下ろされ……ようとしたが、その前に黒野の拳が肩関節へ入った。
牽制され、ボスの攻撃がキャンセルされる。
そこへまた黒野から、数発の攻撃が叩き込まれる。
ボスはたまらず後退した。
「な、なんですの……これは……」
ルクシアは言葉を零した。
目の前で、たった一人の人間が最強のボスと戦っている。
……いや、それどころではない。
完封していると言って差し支えない。
離れて見ているからこそ、はっきりわかる。
速さは、完全に敵の方が上だ。
むしろ黒野の動きは、一戦目より遅くなっているようにすら感じる。
それも当然かもしれない。
死力を尽くして、あれだけの戦闘を続けたのだ。
体力が落ちていないわけがない。
だから本来、より強くなった形態変化後のボスには手も足も出ないはずなのだ。
なのに、黒野が一方的にダメージを与えている。
「どういうことですの……?」
ルクシアが呟く。
「――先に動いてやがる。見てみろ」
問いに答えたのは、同じく戦闘を見ているシャザクだった。
彼に指示された通り、ルクシアはもう一度戦場へ目を向ける。
そして、理解した。
黒野は敵の攻撃が来る前に、当たらない場所へ移動している。
そして敵のガードが空くであろう場所へ、反撃を置いている。
あとから敵がそこへ突っ込んでくる。
まるで、ボスの行動が全て読めているかのような動きだった。
「ありえませんわ……」
「あり得ねえ。確かにその通りだがな」
シャザクはそこで言葉を止め、苦笑する。
続きはルクシアが代わった。
「……ひょっとしたら、勝てるかもしれませんわね」
------
しばらく戦い続けているうちに、敵の動きが鈍くなっていることに気づく。
視線を走らせれば、身体のあちこちに傷が刻まれていた。
なるほど。
身体強度は大幅に上がっている。
だが代償として、変化前に有していた回復能力は失ったらしい。
ならば、終わらせる。
俺は一気に跳躍した。
敵が腕を振り上げる。
その動きが始まった瞬間には、すでに俺は懐へ潜り込んでいた。
「う、おおおおおおおおおっ――!!」
二本の短剣をボスの胸へ突き立てる。
深く、奥まで、確実に。
そしてダメ押しに、短剣の柄頭を思い切り殴った。
――ズッ。
完全に刺さり切ったことを確認し、俺はボスの身体から離れて着地する。
巨体はよろよろと後退し、胸から黒い煙を噴き出した。
やがてその身体は、紫紺の光の粒子へと変わり始める。
倒した。
その実感と同時に、力が抜けた。
俺はその場に倒れ込み、仰向けになる。
もう指一本動かせる気がしない。
「……あ」
逆さになった視界の先に、同じように地面へ倒れているルクシアの顔が見えた。
彼女は俺を見て、弱く笑う。
「や、やりましたわね……」
返事をしたいところだが、もはやその気力すら残っていなかった。
俺はただ目を閉じる。
今は少しだけ、休みたい。
だが、そのときだった。
――ドォン!
重い衝突音が響き、反射的に目を開ける。
銀色の塊が、仰向けに寝そべった俺の頭上を飛んでいくところだった。
「なっ……!?」
慌てて上体を起こす。
銀色の塊は、崩れ始めていたボスの身体へと直撃した。
次の瞬間、それは空中で分解する。
無数の鉄片がばらけ、ボスを取り囲むように宙へ展開。
やがてそれぞれの間に、黄色い光が走った。
光は互いに結び合い、空中に格子状の檻を作り上げる。
するとその瞬間、崩壊しかけていたボスの身体が、ぴたりと止まった。
まるで動画の停止ボタンを押したかのように。
「何が起きてるんだ……!?」
俺は鉄塊が飛んできた方向へ視線を向けた。
ダンジョンの通路、その闇の奥から――
コツ。
コツ。
コツ。
足音が響く。
ゆっくりと、闇の中から影が歩み出てきた。
姿を現したのは、世界最大の企業『イグニス=ギア』の代表――。
ドルヴァノ・イグニスだった。
本話の前半はルクシア視点で物語を進行します。
途中の場面転換から、黒野の一人称視点に戻ります。
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――ドン、ドン、ドゴォン!
石床に響く振動で、ルクシアはゆっくりと目を覚ました。
「……っ」
意識が浮かび上がる。
と同時に、状況が蘇る。
ボスを倒したと思ったら、姿を変えて復活した。
最後に見た映像は、目の前に現れたボスの姿。
「――っ!!」
身体を起こそうとした瞬間、全身に稲妻のような痛みが走った。
肺の奥から息が漏れる。
視界が白くスパークする。
その痛みでようやく、ボスから攻撃されたのだった、と思い出す。
状況を確認したいが、激痛のせいで動けない。
何本かの骨が確実に逝っている。
起き上がるのは無理だと悟り、ルクシアはゆっくりと首だけを横へ向けた。
横に数メートル離れた地点。
細身の男――『雷王』シャザクが、ルクシアと同じように地面に倒れている。
しかし彼は、首を持ち上げて一点を見つめていた。
そしてシャザクの奥。
さらに離れた場所には『氷帝』ミザリーと、『破壊神』ドルマージの姿も見える。
二人も戦闘不能といった様子で、力なく地に伏している。
だが彼女らも同様に、顔は前方へ向いていた。
(あっちに……何があると……?)
ルクシアも痛む身体を無理やり動かし、そちらへ視線を向けた。
そして、思わず息を呑んだ。
洞窟の中央で、たった一人の人間があの怪物と戦っていた。
それは黒野 凍希。
ボスの触手のように分かれた腕が襲いかかる。
黒野が半歩だけ移動すると、攻撃は空を切る。
そしてカウンター。
――ドッ!
鈍い音とともに、黒野の拳がボスの腹へめり込む。
巨体がよろめくが、すぐに体勢を立て直して牙を剥き出しにした噛みつき。
だが、それも当たらない。
黒野はわずかに頭を傾けただけだった。
次の瞬間、また彼の拳がさく裂する。
ボスの蜘蛛のような多脚が高く持ち上がる。
踏み潰しの攻撃を繰り出すが、黒野が立っている地点は綺麗に脚と脚の間だ。
――ドン。
またも黒野のカウンター。
ボスの腹へ一撃。
触手の腕がまとめて振り下ろされ……ようとしたが、その前に黒野の拳が肩関節へ入った。
牽制され、ボスの攻撃がキャンセルされる。
そこへまた黒野から、数発の攻撃が叩き込まれる。
ボスはたまらず後退した。
「な、なんですの……これは……」
ルクシアは言葉を零した。
目の前で、たった一人の人間が最強のボスと戦っている。
……いや、それどころではない。
完封していると言って差し支えない。
離れて見ているからこそ、はっきりわかる。
速さは、完全に敵の方が上だ。
むしろ黒野の動きは、一戦目より遅くなっているようにすら感じる。
それも当然かもしれない。
死力を尽くして、あれだけの戦闘を続けたのだ。
体力が落ちていないわけがない。
だから本来、より強くなった形態変化後のボスには手も足も出ないはずなのだ。
なのに、黒野が一方的にダメージを与えている。
「どういうことですの……?」
ルクシアが呟く。
「――先に動いてやがる。見てみろ」
問いに答えたのは、同じく戦闘を見ているシャザクだった。
彼に指示された通り、ルクシアはもう一度戦場へ目を向ける。
そして、理解した。
黒野は敵の攻撃が来る前に、当たらない場所へ移動している。
そして敵のガードが空くであろう場所へ、反撃を置いている。
あとから敵がそこへ突っ込んでくる。
まるで、ボスの行動が全て読めているかのような動きだった。
「ありえませんわ……」
「あり得ねえ。確かにその通りだがな」
シャザクはそこで言葉を止め、苦笑する。
続きはルクシアが代わった。
「……ひょっとしたら、勝てるかもしれませんわね」
------
しばらく戦い続けているうちに、敵の動きが鈍くなっていることに気づく。
視線を走らせれば、身体のあちこちに傷が刻まれていた。
なるほど。
身体強度は大幅に上がっている。
だが代償として、変化前に有していた回復能力は失ったらしい。
ならば、終わらせる。
俺は一気に跳躍した。
敵が腕を振り上げる。
その動きが始まった瞬間には、すでに俺は懐へ潜り込んでいた。
「う、おおおおおおおおおっ――!!」
二本の短剣をボスの胸へ突き立てる。
深く、奥まで、確実に。
そしてダメ押しに、短剣の柄頭を思い切り殴った。
――ズッ。
完全に刺さり切ったことを確認し、俺はボスの身体から離れて着地する。
巨体はよろよろと後退し、胸から黒い煙を噴き出した。
やがてその身体は、紫紺の光の粒子へと変わり始める。
倒した。
その実感と同時に、力が抜けた。
俺はその場に倒れ込み、仰向けになる。
もう指一本動かせる気がしない。
「……あ」
逆さになった視界の先に、同じように地面へ倒れているルクシアの顔が見えた。
彼女は俺を見て、弱く笑う。
「や、やりましたわね……」
返事をしたいところだが、もはやその気力すら残っていなかった。
俺はただ目を閉じる。
今は少しだけ、休みたい。
だが、そのときだった。
――ドォン!
重い衝突音が響き、反射的に目を開ける。
銀色の塊が、仰向けに寝そべった俺の頭上を飛んでいくところだった。
「なっ……!?」
慌てて上体を起こす。
銀色の塊は、崩れ始めていたボスの身体へと直撃した。
次の瞬間、それは空中で分解する。
無数の鉄片がばらけ、ボスを取り囲むように宙へ展開。
やがてそれぞれの間に、黄色い光が走った。
光は互いに結び合い、空中に格子状の檻を作り上げる。
するとその瞬間、崩壊しかけていたボスの身体が、ぴたりと止まった。
まるで動画の停止ボタンを押したかのように。
「何が起きてるんだ……!?」
俺は鉄塊が飛んできた方向へ視線を向けた。
ダンジョンの通路、その闇の奥から――
コツ。
コツ。
コツ。
足音が響く。
ゆっくりと、闇の中から影が歩み出てきた。
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