君が好き

石田愛

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浮気者

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目覚ましの音がして目を開けると俺に抱きつかれたままの千夜が死にそうな顔をしていた。
「はよ。顔やばいぞ?」
「気にするな…まず離れてくれ。」
離れると千夜は俺の部屋をふらふらとおぼつかない足取りで出ていった。俺そんなに強く抱きついてたか?首を傾げてみるが寝てる間のことなんてわからない。いいや、朝飯食べに行こう。すぐに着替えて部屋を出れば千夜は着替え終わっていて水を飲んでいるところだった。
「学食いこーぜ」
「…ああ。」
「なんかおかしいぞ?熱でもあるのか?」
「いや、寝ぼけているだけだろう。」
「珍しいな?そういえば昨日なんで俺のベッドで寝たんだ?」
「っげほ、げほ!」
いきなり咳き込んだ千夜の背中をさすれば落ち着いたようで、もう大丈夫だ、と手を退けられる。いや、手、離して欲しいんだけど。
「?」
「紫陽、俺は…」
「にゃはは!紫陽!昨日はお手柄だったらしいな!」
千夜が何か言いかけたとき玄関が勢いよく開き、愉快な笑い声が聞こえてきた。千夜も驚いたようでいつのまにか手が離されていた。
「あ、チェシャじゃん。」
「ちっ…」
「んー?邪魔だったか?」
個性的な笑い方で登場したのは風紀副委員長の篠田英斗だった。ちなみに見た目は全然猫っぽくない。がっしりしてて身長もある。まあ、俺の方が百七十七センチで二センチ高いんだけどね。なんでそんなに知ってるか?男にとっても身長って大事なんだよ。因みに千夜は百八十センチある。三センチの壁がでかい…
「にゃはは、百面相してる紫陽もなかなか面白いな!」
「紫陽、さっさと行くぞ。」
「おー。あ、チェシャも学食行く?」
「俺は見回りがあるからな!遠慮しとく!昨日の礼だけ言いにきたんだ!」
「そっか、別にいいのに。じゃ、頑張れよ!」
部屋の前でチェシャと別れて学食へ向かう途中、千夜の方を向けばなんだ、といつもの無愛想ぶりを発揮される。
「さっき何言おうとしてたんだろーなと。」
「気にするな。まだ時期尚早な話だった。」
「へー。あ、千夜、耳塞いでくんない?俺開けるから。」
すごく嫌そうな顔をされる。そりゃそうだ。でもこのドアでかいから開けるやつは耳を塞げないんだよ!じーっと見つめればため息をつかれる。勝ったな。そっと耳を塞がれ、ドアを開く。
「「「きゃああああああ!」」」
「千夜おまっ!!手ぇ外しやがったな!?」
「いつまでとは言われていない。」
開けた瞬間俺の鼓膜の振動が半端ないことになった。うぅー、キンキンする…あ、かき氷食べたいかも。千夜もかなりダメージを食らったようでいつも以上に顔を顰めている。
「あ、会長も副会長もいる、珍し~」
「…谷屋と桜木か。」
「いやぁ、たまに学食も良いかなって。でも朝から紫陽君と千夜君に会えるなんて嬉しいなあ。」
そっけない態度の方が生徒会長の白崎快。にこにこと天然を撒き散らしているのが副会長の須田奏。生徒会の二人なのに真逆で見てると面白いんだよな。
「生徒会長様、副会長様、一緒に食べてもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ。」
「あはは、なぁにそれ?紫陽君たちなら大歓迎だよ。」
恭しく礼をすれば会長は面倒くさそうに、副会長はやはりぽわんとした様子で受け入れてくれた。
「よし、千夜!選んでこよう!」
腕を掴んで引っ張れば渋々ながらも着いてきてくれる。ハンバーグも食べたいけど…今日は和食がいいな。やっぱり日本人は朝のお味噌汁が染み渡る。千夜も俺と同じものにしたらしい。定食を持って席に戻れば奏がぽんぽんと隣を叩く。
「やっぱり奏が好きだー!」
「そう?嬉しい。」
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