君が好き

石田愛

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自覚するのは

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目が覚めてすぐ俺は準備をして部屋のドアを開けた。正確には開け切る前に何かがドアにぶつかり途中で止まった。
「えっ!?」
「っぐ…」
ぶつかったのは千夜だったらしい。額を抑えてしゃがみ込んだ千夜に俺は慌てて駆け寄った。怪我とかしてないよな?
「わ、悪い!まさか部屋の前にいるとは思わなくて!大丈夫か?見せてみろ。」 
抑える手を退けようと触れるとがしっと手を掴まれ引き寄せられた。顔が触れてしまいそうなほど近い距離に目を見開く。な、なんか、千夜の顔正面から見れないんだけど…心臓が馬鹿みたいに鳴ってる。
「せ、千夜…?」
「この前、時期尚早な話と言ったな。」
「へ?」
突然の話に何のことだか分からず間抜けな声が出た。というか、この距離はまずいって。なんなら聡太のときより近いっ!
「あれは間違いだった。」
「千夜、近いって!」
「いいから聞け。もっと近づいてもいいんだぞ?」
「うっ…」
本当に寄ってきた千夜に俺は口を紡ぐ。これ以上近くなったら心臓爆発して俺死んじゃうって!何これ、俺、もしかして千夜のこと…
「…もっと早くに言うべきだった。将来のことを考えると、お前を養えるくらい立派になるまでは俺にはその資格がないと思ったんだ。俺は金持ちとか、どこかの御曹司とかじゃないからな。」
優しく笑った千夜を見て顔周りの熱が上がったように感じた。なんだ、なんだよ、こんな、これじゃ本当に俺っ…
「でも、他の奴に奪われるくらいなら、今、全部言ってしまった方がいい。俺は紫陽のことが…」
聡太の時は何も感じなかった。犬が甘えてくる時みたいな、可愛いやつだなとしか思わなかった。でも、今は違う。自分の気持ちに気づいてしまったから。そうか、これが、なら、俺が先に言いたい。答えるとかそんなんじゃなくて、俺から伝えたい。
「「好きだ…」」
「なっ!?」
溢れた心のままの言葉と千夜が悩み抜いて伝えた言葉が重なる。そして今度は、千夜が顔を真っ赤にして狼狽始めた。けれど混乱しているのは俺も同じで千夜と同じかそれ以上に真っ赤になっていた。
「俺、千夜のこと、好きだ!」
「っ!?」
「大好きだ!愛してる!だって、じゃないと、こんな心臓バクバク言わない、一緒に寝て、安心するなんて、ずっと一緒にいたいなんて、思わないじゃん!どうしよう千夜、俺っ、お前がっ!…んぅっ!?」
自分の心についていけず半泣きで告白する俺の言葉を千夜は文字通り飲み込んだ。嫌悪感も何もない、それどころかどこか幸せな、一瞬のような長いような、そんな時間が終わり、千夜がゆっくりと離れる。熱い、俺も、千夜も。
「っはー、っはー…?」
「…いいんだな、俺はお前を絶対に離さないぞ。お前が後で嫌だと言ってもだ。それでも本当に、俺でいいんだな?」
少しだけ不安そうに揺れる千夜の灰色の瞳を見て俺は、安心させてやりたいと思った。どうしようもなく愛しくて、この気持ちが千夜の中にもあることが嬉しくて、俺は笑った。
「千夜以外に誰がいるんだよ!」
思いっきり抱きつけば、背中に手が回される。この日、この瞬間、未来で俺に素敵な旦那さんができることが決定した。
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