義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

文字の大きさ
2 / 45

しおりを挟む
 我々は戦争に負けたのだ。

 そう言われても子どものレイナードにはよく分からなかった。領土が取られるよと言われて、海辺には遊びに行けなくなることを弟たちが大泣きしていた。宝物を取られると聞いて、それはとても嫌だなと思った。
 ただ、たくさん人が死んだのだと言う話のほうが、勇敢な臣下が何人殺したと言う話よりずっと嫌だった。戦争が終わって良かったと思ったことがいけなかったのだろう。10歳になったばかりのレイナードは、負けた相手の国に行くことになった。
「…やっぱり、僕があんなこと考えたからダメだったのかな…」
「そう思うならそうなんじゃない?」
 幼なじみの貴族の子であるエリオスは涙目で準備をするレイナードにあっさりそう返した。
「…ぐすっ…もう少し言い方ってものが……」
「だって、自分でそう思い込んでるならそうなんじゃないの?」
 レイナードは唇を尖らせて俯いた。エリオスの言うことももっともなのだ。でも、それでも、と思わずにはいられないのだ。
「泣き虫」
「うぅ…」
「お前がいなくなるとさみしくなるな」
「ふぇ…ずるいそれ…」
 ぽろぽろと泣きながらレイナードはエリオスを睨みつける。器用なんだか不器用なんだかと、エリオスは少し笑った。軍人貴族の子にしては皮肉屋で大人びた幼なじみを、レイナードはいつもとても頼りにしていた。
 レイナードの家には兄弟がたくさんいる。兄も、弟も、みな戦闘に長けていた。レイナードだけはそうじゃなかった。だから、外に出されるのだ。そう思うと悲しくてならなかった。
 好きな香を焚くことも、緩い動きやすい服を着ることも、裸足で家の中を歩き回ることも、少し意地悪だけどいつも自分を心配してくれるこの友達とももう会えない。知らない土地に一人ぼっちで行かされるのだ。そう思うと、レイナードは涙が止まらなかった。
「エリオス……僕……」
「泣くなよ」
「だってぇ……」
 ぐすぐすと泣き続けるレイナードにエリオスはため息をつくと、そっと抱き寄せた。そしてぽんぽんとその背中を優しく叩くようにしながら言う。
「大丈夫、またきっと会えるから」
「ん…ぅん…ぐすっ…」
 出発を明日に控えて不安でいっぱいのレイナードにエリオスは根気強く付き合ってくれた。レイナードの父親が現れるまで。
「レイナード」
「!!おとうさま…!ぐすっ……」
「すまない、遅くなってしまった」
 父親はそう言いながらレイナードをぎゅっと抱き締めた。大きくて暖かい。その温もりにまた涙が溢れてくる。エリオスはそれをじっと見つめていた。
「ああ、泣かないでくれ……私はお前にそんな顔をさせるためにお前を手放す訳ではないのだよ……?」
「わかってます、ごめんなさい……でもおとうさまとももう会えないと思うと悲しくて……」
「私もお前と離れたくはないよ……だがお前は行かねばならないんだ」
「……はい……」
 レイナードは父親に抱きつきながら顔を埋める。
「お前は、兄弟の中で一番素直で愛らしい。きっとあちらでも上手く気に入られるだろう」
「そんな、お父さま…」
 事実、レイナードの母親は褐色肌の妖艶な踊り子であり、その容姿を引き継いだレイナードもまた、母親譲りの美貌の持ち主だった。
「レイ、お前には感謝しているんだ。あちらに行くのはお前にとっては辛いかも知れないが……どうかこの国のために……」
 父親はそう言うとそっとレイナードを放した。そして名残惜しそうにその頬を撫でる。
「……はい、おとうさま」
「いい子だ」
 そう言って微笑むと、父親はそのまま去っていった。エリオスはそんなレイナードに歩み寄るとその頭をくしゃりと撫でた。
「ほら、もう泣くなよ」
「……うん」
「もしひどい目に合わされたのであれば手紙を送りなさい」
 それを口実に攻撃を仕掛ける意図を込めた発言だなと、エリオスは静かに口を慎む。だが何も知らないレイナードは父親の優しさに感動しぐずぐずと鼻をすすっていた。
「そしてレイナード、お前のなすべきことは覚えているかな?」
 レイナードは顔を上げてこくんと頷く。
「気に入られること、決して出しゃばらないこと、そして…」
 エリオスは静かにその様子を見つめている。敗戦国として、この国に生きる人間の気持ちは同じだ。
「奪われたものを取り返すこと」
「そうだ、覚えておけ」
 エリオスはそう言うともう一度レイナードの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「…彼の国には男色文化もないらしいが、そう言う国の人間こそ一度禁忌に手を出させてしまうと、後戻りができなくなるものだ」
「?…うん」
「お前は賢い子だ。上手く立ち回りなさい」
 レイナードはこくりと頷いた。そしてそのままぎゅっと抱きしめた。
「……がんばります。お父さま」
「あぁ。期待しているぞ、私のレイナード」
「はい、お父さま」
 レイナードはそう言うと頬にキスをしてくれた父親を見送った。そしてエリオスの方に向き直ると、少し気まずそうな表情を浮かべた。
「……あの、エリオス……その……」
「ん?あぁ、別に気にしてないけど」
「あ、ありがとう」
 そう言って笑う顔にはどこか影があった。きっとこれから自分が行く国のことを考えて不安になっているのだろうとエリオスは察したが、あえて触れなかった。それは彼の仕事じゃない。それに。
「僕も同じ気持ちだ。レイ、ここで学んだことを活かせば、絶対に大丈夫だから」
「…うん」
「手紙、書いてね」とまだ涙の残るレイナードにハンカチを手渡す。
「ありがとう」
「……またね、エリオス」
 そう言って笑う顔には寂しさが滲んでいた。エリオスはそんなレイナードを抱きしめて言った。
「うん、そう遠くない日に」
***
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。 しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。 ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。 しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。 ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。 しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!? 弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...