彼は世界最強の側近です。

ヒデト

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大槍武祭編

7話

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街の屋台の数は昨日と変わっていない。客の人数、賑わい具合も同じくらいか、少し多いくらいだ。
昨日は焼き鳥屋へ行っただけだったが、今日は出ている屋台全て、じっくり見て回る。影丸は毎年来ているから流す様に見ているが、シャルロットはこれが初めて、全ての屋台に興味津々。
屋台の前で子供の様に目を輝かせ、はしゃいでいるシャルロットを遠目から見つめ、その言動に笑みがこぼれる。


「影、これ何?」


シャルロットは軒を連ねている中の一つの屋台を指差す。


「うん?ああ、これは鰻釣りだな。」

「鰻釣り?」

「お前がいつも食べてるやつだよ。茶色のタレがかかってるやつだ。」

「茶色…。」


シャルロットは自分がいつも食べてる豪華な食事から茶色の食べ物を頭の中で探す。


「あーーー!あれか。へぇ、あれってこんな生き物だったんだ。」


ほぼ箱入り娘のシャルロットは鰻の原型を初めて見る。他の食材も知らなかったり、聞いたことしかなかったりする。

「まぁ、お前が食べてるのはもっと良い鰻だがな」

シャルロットは座り込み、その鰻釣りの屋台の水槽をジッと見つめ、前から動かない。


「やりたいのか?」

「えっ?やっていいの。」

座り込んだまま振り向いて答える。

「お前、このままじゃやるまで動かないだろ。」

「そ、そんな事ないよ。」

「まぁ、何でもいいけど。」


影丸は屋台のおじさんに一回分の金を支払い、糸に針のついた木の枝で出来た竿をもらう。シャルロットはそれを膨れた顔で受け取る。


「よし!」


シャルロットは水槽に針をつける。そのまま鰻を眺めて動かない。どう見ても針に食いつくのを待っている様だった。


「おい、待ってても食いつかねぇぞ。」

「えっ?なんで?」

「針に餌付いてないだろ。これは鰻を引っ掛けて釣るんだ。」

「そうなの?でも、私の知ってる釣りって針に魚が食いつくものなんだけど。」

「あれは針についた餌に食いついてるんだ。」

「ふーん。」


シャルロットは待つのをやめ、引っ掛けにいく。が、針は鰻を体を滑り全く引っかかる気配がない。それでも何度も挑戦するがやはり針は鰻の体を撫でるだけ。


「全然ダメなんだけど。」

「これは鰻のエラに引っ掛けるんだ。」

「エラ…。」


シャルロットは仕切り直し、もう一度エラを狙って引っ掛けにいく。少し苦戦するも、釣り針は鰻のエラを捉えた。「おっ!」と言う声を上げ、勢い良く引っ張り上げた。が、ちゃんとかかってなかったのか、掛かりが浅かったのか、鰻は少し持ち上がりはしたが、すぐ針が外れ水槽にポチャンッと音を立て落ちる。

「あれ?」

再度挑戦するが、何故だろう、何度やっても針は鰻を少し持ち上げると外れる。
それから、何度も挑戦したが結局釣り上げることは出来なかった。
苛立つシャルロットは釣るのをやて、真顔になると釣り竿をへし折った。


「さてと、次どこ行こうか!」


今までのは事をなかったかの様に笑顔で影丸に問いかける。
影丸は『なかった事にしやがった』と心で思ったが、あえて何も聞かなかった。

再び、屋台を見て回る。飲食系の屋台から模様しものをする屋台、多種多様の屋台で金を使わされた。そして、シャルロットはアクセサリーを売る店で足を止まった。


「ねぇ、何かプレゼントしてよ。」


突然シャルロットはおねだりをしだす。さっきまでは店の人にいきなり、『これ下さい』と商品を持ち出し、影丸が会計をすると言うふうだった。


「いいけど、どれが良いんだ?」

「そうじゃなくて、影に選んで欲しいの!」


シャルロットがおねだりは自分に似合いそうなアクセサリーを影丸が選べ、と言うものだ。
内心、めんどくさいと思いながらも黙って並んでいるアクセサリーの中から似合いそうなものを選ぶ。
髪飾りからブレスレット、ピアス、様々なアクセサリーの中に影丸の目を引くものをあった。

ペンダント。値段が特別高いわけではない。だか、そのペンダントに埋め込まれたエメラルドの水晶は、影丸の目に他とは違う輝きを見せた。


「これ下さい。」


影丸はそのペンダントを迷わず購入し、シャルロットの首にかけた。


「これでいいか。」

「うん。ありがとう。」


シャルロットは嬉しそうにペンダントを見つめた。



夕暮れ時、今日の祭りも終わりかけ。
そろそろ、迎えが来るらしい。シャルロットは別れを惜しむ様に影丸の服の袖を握る。と、そこに真田家と仲のいい店の女性陣五人が影丸に声をかける。


「影丸君じゃない。」

「こんにちは。」

「試合見たわ。カッコよかったわよ。」

「ありがとうございます。」


影丸と女性陣で話が弾む。シャルロットは話に入れず、蚊帳の外状態になっていた。
だが、そんな事はどうでも良い。影丸が他の女性と話している。この事が物凄く嫌だった。


「影!」


影丸に声をかけるが、話に夢中で気づいていない。
不快感がどんどん増していく。やがて、その不快感は怒りへと変わる。
そしてその怒りは嫉妬へと変わる。影丸が悪くない。そんな事は分かっている。だか、それでもシャルロットの怒りの矛先は影丸へ向かう。


「影ッ!!」


シャルロットは影丸を怒鳴りつける様に呼びつける。それは、どんな夢中になっていても聞こえる様な声だった。影丸は話を切り上げ、シャルロットの元へ行く。


「悪い。話し込んじまった。」


謝ってはいるが能天気な口調。本当に謝る気があるのがと心で思う。


「本当だよ…何してるのよ…」


何時もと雰囲気が違う。影丸のすぐにそれは分かった。


「貴方は私の護衛なの!側近なの!ちゃんと分かってるの!それなのに影は私を放置して他の人と話し込んで、何考えてるの!!」


こんな事が言いたいわけじゃない…

シャルロットは心で思うが、止められない。
必死に訴えるシャルロットに流石に少し動揺する。何が何だか分からないが、かなりご立腹なのは分かった。


「ちょっと落ち着けって、何怒ってんだよ。」


「うるさいッ!」


興奮していて、まともに話ができる状態ではない。そう思った影丸はシャルロットの頭を撫でる。


「どうした、落ち着けよ。」


何時もなら、ここで照れが入るのだが、今回はそうはいかなかった。
シャルロットは影丸の頭に乗せた手を振り払う。


「気安く触らないで!!」


影丸は言葉を失う。


……マジギレしてやがる。


「シャルロット様!お迎えに参りました。」


そこに、見越したかの様なタイミングにシャルロットの迎えの使用人が声をかける。シャルロットは、そのまま黙って使用人の方へ行き、喧嘩したまま別れた。


王宮の自室。城に戻ったシャルロットはベットに飛び込み、枕に顔を埋めた。


「やっちゃった…」


後悔。帰還したシャルロットの心にあったのはそれだけだった。
嫉妬。影丸が妹と話している時も感じている。妹の場合は、妹だからと割り切り我慢することが出来た。だか、これが妹から身内ではない女性に変わった途端、我慢できなくなった。


「いや、影が私を放置して話し込んじゃうのが悪いんだ。そうだよ、影のせいよ。」


シャルロットは開き直り、自分に言い聞かせる様に呟く。それとは別に、シャルロットの中には不安が募っていく。


「嫌われたらどうしよう…」


あの様子だと影丸はシャルロットが怒った理由は分かっていない。いきなり怒り出した。恐らく、そう思っているだろう。もし他にも、訳のわからない女、情緒不安定、といったことを思っている。そう考えると、不安で気が気ではない。




どうしよう……




祭り三日目。
今日は祭り最終日、準決勝と決勝が行われる。
影丸は準備を整え、闘技場へ向かった。だが、闘技場にシャルロットの姿はなかった。昨日の事が関係しているのは想像に難くない。
影丸はシャルロットが来ていないという事実確認をすると、探す事なく控え室向かう。今日はシャルロットに構っている余裕はないのだ。
準決勝はスキルを隠しているであろう上杉流槍術九段、二式空と当たる。そして決勝は、本命中の本命、上杉冬瓜と当たる。
他の事に気を取られている場合ではない。


と、思ってはいるのだが、シャルロットの事が頭から離れない。


「あいつ、ホントなんで怒ってんだ?」


昨日の自分のしてきた行動を振り返る。だか、思い当たるところはない。


「分からん」


影丸はシャルロットが怒り出す前を思い出す。


「俺が女の人と話していたからか?……でも、それくらいであんなに怒るか?……………分からん。」


悩んでいる間に刻々と時間は過ぎ、準決勝の呼び出しがかかる。入場門前に来ても、悩んでいた影丸。だか、試合は待ってくれない。入場の合図が入り、影丸は入場する。


まぁ、今考えるのはやめておこう。今は試合だ。


少し気持ちが切り替わった瞬間、試合開始の合図が入る。


気づけば、目の前に敵がおり、木槍が影丸の頬を掠めていた。


「あっぶねっ!!」


つい声が出る。


息つく間もない攻撃の嵐。影丸からすれば不意打ちされた様な感覚。身体はよろめき、たたらを踏む。
観客は盛り上がり、歓声が上がる。
ようやく、今日の試合は気が抜けない事を身体が実感する。
影丸はフッと少し息を吐き切り替え、頭の中を整理する。



落ち着け、余計な事考えるな。相手に集中しろ。



……ここでは負けられない。




完全に戦闘モードに切り替える。頭から悩みが消えた。
次は影丸が攻撃のを仕掛ける。
一気に間を詰め、木槍を繰り出す。木槍は唸りをあげ、相手へ向かう。やはり、今までの相手とは違う。影丸の攻撃にも動じず、冷静に攻撃をさばいていく。
そして影丸の疑念は確信に変わる。


「お前、スキル持ってるだろ。」


攻撃の後、少し距離を開け問いかける。が、二式からの返答はない。


「相手の思考を読む事ができるスキル、もしくは未来予知のスキルだろ。」

二式からの返答はない。


「答える気がないならそれで構わない。だが、そのスキルじゃ俺には勝てないぞ。」


返答はない。
再び戦闘が再開する。


図星。影丸の推測は当たっていた。
二式のスキルは後者だ。現在から数秒先の未来を見る事が出来るのだ。そして、このスキルは連発出来ない。スキル使用後、五秒インターバルを開けなければならない。


影丸は二つのスキルを推測したが、初回の攻撃で後者の方のスキルだと思っていた。
初回攻撃、影丸の攻撃をさばいてはいたが、慌てた反応を数回見せた。
思想を読むスキルなら、繰り出すを攻撃を全て分かっているから慌てる事はない。
つまり、慌てた反応を見せた時、二式きは繰り出した攻撃が分かっていなかった。
この事から、前者ではない事が分かる。
後者のスキルの内容は連発できない数秒先の未来予測、再使用には何秒かのインターバルが必要だと考えられる。
そのインターバルの間の出来事。だから慌てた。反応が遅れた。

内容の分かったスキル。このスキルは影丸にとって脅威ではない。


「お前のスキルは全て分かった。攻略法もある。悪いが、これで決めさせてもらう。」

「やれるもんならやってみろ!」


二式の初めての返答。喧嘩腰に言い放った。


攻略法と言っても、それは攻略というにはお粗末な方法だ。
力押し、圧倒的実力差でねじ伏せる。
それだけだ。

影丸はギアを一つあげ、攻撃する。

突然攻撃のスピードが上がる。
スキルにより分かっていた未来、慌てる事なく対応する。
たが、二式の身体は少しずつブレる。身体がついて来ていない。
分かっていても、対応しきれない速度で攻めれば未来を見ようが関係ない。

単純な攻略法だ。

そして、インターバル。分からない未来へ突入する。

未来を見てさえ防ぐのがやっと、防ぎきれるわけがない。


二式は五秒さえ耐えれば、と思うが影丸の速度は二式の想像をはるかに超えていた。



二秒。



二式はそこで落ちた。


決着。観客の歓声が会場を包む。その中、二式は地べたに仰向けで倒れ込む。


結果に納得はしている。実力で完全に負けていた。スキルを使っても、どうにもならないほどの実力差。
二式の心には悔しさだけが残った。


もう二度と、ここまで上がってくることはできないだろ。


二式の瞳から悔し涙が溢れた。




大槍武祭三日目。三回戦、第一試合終了。


勝者、真田影丸。

決勝進出。
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