38 / 58
5章 精彩に飛ぶ
5-14
しおりを挟む
台風一過による温度と湿度の上昇によって、酷く蒸し暑い朝を迎えた。着替えを終え、外に出ると雲の流れは速く、同時に風も強い。海はひどく時化ている。今日も海に出ることは不可能だろう。
宿泊した組合の建物に破損はないか確認する。窓硝子の一部にひびが入っているが、前日に対策をしていたため被害はない。だが、他の民家はどうだろうか。全ての家に対策を取っておくよう言い聞かせては置いたが、相手は大自然だ。簡単に受け止められるものではない。
日が上り次第、人手を集めて確認しに行かねばなるまい。大工道具一式も揃えておいた方がいいだろう。
ふと人の気配を感じ、振り返ると、潮風に煽られながらふらふらと歩く黒装束の少年がいた。先日組合を訪れた魔導官であると気が付くのに時間はかからなかった。
六之介は、片手をあげながら悟に近づいてきた。
「どうもどうも、おはようございます」
「ああ、おはよう。魔導官さん早いな」
「そちらこそ」
漁師にとって、早起きは基本である。むしろ、空が青く染まっているような時間帯は遅いぐらいだ。
六之介はあくびをしながら、海原を見つめる。風に流されながら海鳥が宙を舞い、水飛沫がこちらまで飛んでくる。
「今日は海に出られませんかね?」
「ああ、いくら何でもこりゃあ無理だ。沈んじまう」
この荒波には手漕ぎ舟では太刀打ちできない。沖に出るどころか、五分と持たず海の藻屑となるだろう。
「じゃあ、あれでは?」
指さすのは一際大きい魔導原動力の設けられた船である。見た目だけでいえば五倍近くはあるだろう。
「……不可能じゃねえが……なんだって今日海に出たいんだい?」
「海っていうか、宮島にいきたいんですよねえ」
スナドリの先にある霞がかった孤島を見つめる。
「……魔導官さん、前も言ったけどよ、宮島は立ち入り禁止なんだ」
村の住人でも入り込めない禁忌の場所。たとえ魔導官であっても、例外ではない。
「……ふうむ、そうですか。分かりました、わざわざ失礼しましたね」
踵を返すと、ああ、と何か思い出したように声を漏らす。
「そういえば、自分の異能は、瞬間移動なんですよ」
「え?」
「その気になれば、宮島までぴゅーんって行けちゃうかもしれないなあ」
なんてねと冗談めかした口調で、振り返りもしない。そのまま、まるで見せびらかすように、瞬間移動しその場から消え失せる。
一人残された悟は、その光景に驚愕しながらも、組合の裏手にある物置へと向かっていった。
宿泊した組合の建物に破損はないか確認する。窓硝子の一部にひびが入っているが、前日に対策をしていたため被害はない。だが、他の民家はどうだろうか。全ての家に対策を取っておくよう言い聞かせては置いたが、相手は大自然だ。簡単に受け止められるものではない。
日が上り次第、人手を集めて確認しに行かねばなるまい。大工道具一式も揃えておいた方がいいだろう。
ふと人の気配を感じ、振り返ると、潮風に煽られながらふらふらと歩く黒装束の少年がいた。先日組合を訪れた魔導官であると気が付くのに時間はかからなかった。
六之介は、片手をあげながら悟に近づいてきた。
「どうもどうも、おはようございます」
「ああ、おはよう。魔導官さん早いな」
「そちらこそ」
漁師にとって、早起きは基本である。むしろ、空が青く染まっているような時間帯は遅いぐらいだ。
六之介はあくびをしながら、海原を見つめる。風に流されながら海鳥が宙を舞い、水飛沫がこちらまで飛んでくる。
「今日は海に出られませんかね?」
「ああ、いくら何でもこりゃあ無理だ。沈んじまう」
この荒波には手漕ぎ舟では太刀打ちできない。沖に出るどころか、五分と持たず海の藻屑となるだろう。
「じゃあ、あれでは?」
指さすのは一際大きい魔導原動力の設けられた船である。見た目だけでいえば五倍近くはあるだろう。
「……不可能じゃねえが……なんだって今日海に出たいんだい?」
「海っていうか、宮島にいきたいんですよねえ」
スナドリの先にある霞がかった孤島を見つめる。
「……魔導官さん、前も言ったけどよ、宮島は立ち入り禁止なんだ」
村の住人でも入り込めない禁忌の場所。たとえ魔導官であっても、例外ではない。
「……ふうむ、そうですか。分かりました、わざわざ失礼しましたね」
踵を返すと、ああ、と何か思い出したように声を漏らす。
「そういえば、自分の異能は、瞬間移動なんですよ」
「え?」
「その気になれば、宮島までぴゅーんって行けちゃうかもしれないなあ」
なんてねと冗談めかした口調で、振り返りもしない。そのまま、まるで見せびらかすように、瞬間移動しその場から消え失せる。
一人残された悟は、その光景に驚愕しながらも、組合の裏手にある物置へと向かっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる