超能力者、異世界にて

甘木人

文字の大きさ
44 / 58
5章 精彩に飛ぶ

5-20

しおりを挟む
「本当に戦闘なんかあるのかあ?」

「さあ、ですが六之介さんの事ですし、何かしらあるんでしょう」

 二人とも六之介に言われた通り、魔導兵装を持ったまま集会所で待機していた。
 綴歌の魔導兵装は旋棍『吹雪』である。黒く塗装され、幾何学的な模様の溝が彫られている。これは一種の魔術式であり、魔力を流した状態で殴打すると衝撃波が発生するようになっている。

 五樹の魔導兵装は日ノ本刀『金剛』。白い鞘、金の鍔、赤色の柄巻と、派手な様相である。これには異能発動の補助をする魔術式が組み込まれており、より早く、少ない魔力で異能を扱うことができる。

 いずれも無数の傷はあるが、整備が行き届いており大切に扱われていることが分かる。

「とは言ってもよぉ……」

 高台にある集会所からは青い海が見渡せる。荒れてはいるが、潮の香りと波の音が届く。本当に不浄などいるのかと疑いたくなるほど、平和な光景が広がっている。

「ん、なんだ?」

 集会所を覆う柵が開かれる。姿を現したのは、逞しい体躯をした男たちと中年の女性たちだった。各々が風呂敷や包み、長物を有している。

「何でしょう? お揃いで」

 何か差し入れだろうかと考えるが、非協力的な人間が大多数であるここにおいてそれは考えにくい。
 綴歌は疑問の念を持つ。しかし、そんなことは考えもせず、五樹は彼らに近づく。

「どうもどうも、皆さん、どうかしまし……ッ!」

 一切の躊躇も遠慮もなく、先頭にいた漁師の男は懐から取り出した鉈を振り下ろす。乱暴で、力任せ。であるからこそ強力な一撃。 
 露ほどの警戒心も抱いていなかった五樹にとっては、完全に意識の外からの攻撃。認識が間に合っても、行動が追い付かない。

「篠宮さん!」

 綴歌が反応できたのは、日頃からの鍛錬の賜物か。疑似的な時間停止が発生する。
 彼女の異能は、時間そのものを止めることではない。一定範囲内の生物の動きを止めることである。これは自身以外が対象であり、五樹も例外でなく静止している。
 止めていられる時間はおよそ五秒。駆け出し、五樹の手を取る。びくりと彼の身体が跳ねる。

「はっ? え? え?」

「何してますの! ここを離れますわよ!」

 強化の魔導を発動。跳躍し、集会所の向かいにある民家の屋根へ移る。同時に時間停止が解け、鉈は空を切る。
 村人たちは突如消え去った二人に、驚きを隠せずにいる。

「おいおい、いったいどういうことだよ、これ!」

「しー! 声を殺しなさい、お馬鹿!」

 身を縮め、息を殺す。美緒のような能力を持つものがいないとは言い切れないのだ。
 村人たちは、何かを話し合った後に散り散りになる。人数は十四人、それぞれが獲物を有している。

「……行きましたわね」

「……どうなってんだ、不浄が来るんじゃねえのかよ」

 六之介の発言を思い出しながら、愚痴がこぼれる。

「……任務に支障が出る、と仰っていましたわね」

「ああ、正体を知ればって……マジかよ、そういうことか」

 間違いなく彼は、村人が攻めてくることを予測していた。そして、人間と戦うと知れば支障が出るのは然りである。

「それにこの状況……ああ、あんの野郎、質が悪すぎるぞ……」

 理解する。

 事前に人間が敵となることを言っておけば、必ず華也や綴歌、五樹は村人の説得や撤退を選択する。そうなると今回の任務の黒幕、ことの発端が曖昧になってしまう。それを避けるためにも、言わなかったのだ。
 つまり最初から六之介は戦いを避け『させない』ように仕向けたのだ。おそらく班分けは戦闘の際に不足が生じないように割り振られている。

 村に残るのが華也と五樹ならば、あの大人数を相手にするのは異能を用いても、魔導を用いても至難の業となる。この二人は不浄を戦うのには特化しているが、人間に対してはそうではない。否、殺傷するとなれば容易だ。だが、彼らはそれを望まない。故に、苦戦し、最悪は敗北するだろう。六之介が残ったとすれば、なんらかの策を用いて事なきを得られるだろうが、間違いなく多くの死人が出る。

 しかし、綴歌は違う。彼女だけで戦況は一変する。彼女の能力は、対象を範囲とするものだ。敵が大勢で来るのなら、うってつけだ。

 六之介は綴歌を基準に五樹を選んだのだ。形成と放出の魔導を用いて援護させるために。

 そして、六之介が相方を華也にした理由。それは、宮島の環境を考慮してのもの。あの島は基本的に立ち入りが禁じられている。つまりは手付かずの自然が残っている。そういう環境における華也の戦いを見ている。だから、選んだのだ。

「どう、いたします?」

「……正直、人間と戦うのはごめんだな」

 経験がないわけではない。だから言える。人間同士の殺し合いは、後味が悪い。できることならば避けたい。

「同感ですわ」

「あと何回ぐらい止められる?」

「……三回ほどでしょうか。ある程度の自然回復を想定して、ですけれど」

 実質は二回と考えておくべきだろう。

「六之介さんは、敵を減らしておいてと仰っていましたね……」

「戦っておけってことか……」

 確かに六之介たちが戻ってきたことを考えると、彼らも攻撃を受ける可能性はある。それを避けるためには、戦闘が必要だというのは分かる。

「それにしても、何故私たちが……」

「村の再開発を進める連中だからじゃねえのか?」

 詳しいことは分からない。おそらく六之介は分かっているのだろう。戻り次第、聞き出さないといけない。

「よし、とにかくだ。他の奴らのために数だけ減らそう」

「それは……」

「もちろん、殺すことなく、だ。なに、不浄用に魔術具を目いっぱい持ってきてるんだ。拘束ぐらいなら余裕余裕」

「……ええ、そうですわね。では、参りましょうか」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...