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山崎
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木村はますます青ざめていた。そう言えば木村がいたんだった。もうすっかり忘れていた。
卒業アルバムを閉じてしまいたい気持ちを抑えて、卒業アルバムを隈無く見る。まず木村が見つかる。今目の前にいる木村とほとんど違いがない。あの頃のままだ。
ところが、いくら探そうとも、あの女がいない。名前と当時の顔を見れば思い出しそうなものだったが、いっこうに、何一つ思い出せなかった。
その日は卒業アルバムを持ってアパートに帰った。
家で再び隈無く卒業アルバムを見るが、全く手がかりが掴めない。
おかしいな。もしかして本当に僕の勘違いなのか。ではこの青ざめた木村はどう説明するのだ。
いや、待てよ。木村の知り合いだからといって、どうして僕の知り合いでもあると考えたんだ。あの女が、「どこかでお会いしたことが…」と言ったのを鵜呑みにしたに過ぎないではないか。あの女の言う通り、その言葉が話しかけるきっかけに過ぎないのならば、女は「木村の知り合いではあるが、僕の知り合いではない」ということになる。そうなれば中学校の卒業アルバムに載っていないのも当然だ。
週過ぎて 明日またくる 日曜日
日曜日が訪れた。あの女との待ち合わせは午後だ。
「君には分からないかも知れないけど、僕には僕なりの苦労があるんだ」
山崎の言葉が甦る。
「私にだって私なりの苦労はあるよ。その事は分かってる」
僕が答える。そう言えば、僕は昔、自分のことを「私」と言っていたっけ。
「そうだね。またいつか会おう」
山崎が言う。
「待ってくれ!もう少しだけ、話をさせてくれ!」
僕は必死で山崎を呼び止める。しかしあいつは微笑んで、光の中へ消えていってしまった。あの微笑みは、僕の好きな微笑みだ。僕の憧れの微笑みだ。
気が付くと、僕は泣いていた。あの微笑みが懐かしい。あれほどの微笑みを、僕はあれ以降見たことがない。どんなに可憐な微笑みも、どんなに上品な微笑みも、あの微笑みにはかなわなかった。
友達なんか欲しくない。親友なんてまっぴらだ。いずれ、失う悲しさだけが心を覆い尽くして、僕の心臓を止めてしまうのだ。
僕はこの度、デートに遅れた。そのくらい、僕は泣きっぱなしだった。
ようやく心が落ち着いたのが、既に待ち合わせの時間だった。待ち合わせ場所まで十分程で着くとは言え、遅刻は遅刻だった。
「ごめん。遅れちゃった」
取り敢えず詫びる。
「いいの。私も遅れちゃったから、ちょうどよかったわ」
嘘に決まってる。だが、まあ赦しが得られたと解釈しよう。
「今日は行きたい場所があるの」
女はそう言って歩き出す。
どこだろう。何があるのだろう。僕は少し不審に思った。
電車に乗り、また乗り換える。この路線は、つい最近乗ったばかりの…そう、実家に行った時に乗ったばかりだ。
女はある駅で降りようと言った。さすがに僕の実家がある駅ではなかった。しかし、特にこれといった特徴もない駅だった。
駅前の喫茶店で、女とコーヒーを飲む。ここは女の馴染みの店らしかったが、店内には僕達の他に客はいなかった。
「ところで、貴方は私に会ったことがあるような気がするって言ってたけど、どうだった?」
女からの意外な言葉に戸惑う。
「ああ、やっぱり気のせいだったみたいだよ。中学校の卒業アルバムを見たけど、やっぱり貴女はいなかった」
ありのままを話した。やはり勘違いだったのだ。木村の知り合いだからといって僕の知り合いではない。
「志賀君。貴方、なんにも覚えてないのね」
女が可笑しそうに言う。なぜ僕の名前を?僕は教えたつもりもなかったし、持ち物に名前を書く習慣もなければ、名刺も持ち歩いていない。なぜだ。
卒業アルバムを閉じてしまいたい気持ちを抑えて、卒業アルバムを隈無く見る。まず木村が見つかる。今目の前にいる木村とほとんど違いがない。あの頃のままだ。
ところが、いくら探そうとも、あの女がいない。名前と当時の顔を見れば思い出しそうなものだったが、いっこうに、何一つ思い出せなかった。
その日は卒業アルバムを持ってアパートに帰った。
家で再び隈無く卒業アルバムを見るが、全く手がかりが掴めない。
おかしいな。もしかして本当に僕の勘違いなのか。ではこの青ざめた木村はどう説明するのだ。
いや、待てよ。木村の知り合いだからといって、どうして僕の知り合いでもあると考えたんだ。あの女が、「どこかでお会いしたことが…」と言ったのを鵜呑みにしたに過ぎないではないか。あの女の言う通り、その言葉が話しかけるきっかけに過ぎないのならば、女は「木村の知り合いではあるが、僕の知り合いではない」ということになる。そうなれば中学校の卒業アルバムに載っていないのも当然だ。
週過ぎて 明日またくる 日曜日
日曜日が訪れた。あの女との待ち合わせは午後だ。
「君には分からないかも知れないけど、僕には僕なりの苦労があるんだ」
山崎の言葉が甦る。
「私にだって私なりの苦労はあるよ。その事は分かってる」
僕が答える。そう言えば、僕は昔、自分のことを「私」と言っていたっけ。
「そうだね。またいつか会おう」
山崎が言う。
「待ってくれ!もう少しだけ、話をさせてくれ!」
僕は必死で山崎を呼び止める。しかしあいつは微笑んで、光の中へ消えていってしまった。あの微笑みは、僕の好きな微笑みだ。僕の憧れの微笑みだ。
気が付くと、僕は泣いていた。あの微笑みが懐かしい。あれほどの微笑みを、僕はあれ以降見たことがない。どんなに可憐な微笑みも、どんなに上品な微笑みも、あの微笑みにはかなわなかった。
友達なんか欲しくない。親友なんてまっぴらだ。いずれ、失う悲しさだけが心を覆い尽くして、僕の心臓を止めてしまうのだ。
僕はこの度、デートに遅れた。そのくらい、僕は泣きっぱなしだった。
ようやく心が落ち着いたのが、既に待ち合わせの時間だった。待ち合わせ場所まで十分程で着くとは言え、遅刻は遅刻だった。
「ごめん。遅れちゃった」
取り敢えず詫びる。
「いいの。私も遅れちゃったから、ちょうどよかったわ」
嘘に決まってる。だが、まあ赦しが得られたと解釈しよう。
「今日は行きたい場所があるの」
女はそう言って歩き出す。
どこだろう。何があるのだろう。僕は少し不審に思った。
電車に乗り、また乗り換える。この路線は、つい最近乗ったばかりの…そう、実家に行った時に乗ったばかりだ。
女はある駅で降りようと言った。さすがに僕の実家がある駅ではなかった。しかし、特にこれといった特徴もない駅だった。
駅前の喫茶店で、女とコーヒーを飲む。ここは女の馴染みの店らしかったが、店内には僕達の他に客はいなかった。
「ところで、貴方は私に会ったことがあるような気がするって言ってたけど、どうだった?」
女からの意外な言葉に戸惑う。
「ああ、やっぱり気のせいだったみたいだよ。中学校の卒業アルバムを見たけど、やっぱり貴女はいなかった」
ありのままを話した。やはり勘違いだったのだ。木村の知り合いだからといって僕の知り合いではない。
「志賀君。貴方、なんにも覚えてないのね」
女が可笑しそうに言う。なぜ僕の名前を?僕は教えたつもりもなかったし、持ち物に名前を書く習慣もなければ、名刺も持ち歩いていない。なぜだ。
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