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少年編

第37話 水の聖霊魔法

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「不思議な人だったよなぁ~。」
「うん・・・。」

カコが残した言葉が気になっていた。”困ったことや聞きたいこと”ってどういうこと?アリア新聖王国の領地やったから関係者やろうけど、はっきりと聞いたわけでもないし。でも、商談とか情報交換をする社交場が『蜜楼館』やから、カコはスパイ?

それになんで私をそこまで気に掛けてくれるのか、理由がわからんからなぁ。好意を疑いたくはないけど、はっきりと正体がわかるまでは気を付けて行動しよう。

いつの間にか、宿屋に到着しており、ネイマもテテュスも戻っていた。
明日無人島にもう1回チャレンジしたいところやけど、せっかくの休日を観光もせずに終えるのはもったいないとも思った。

「ねぇ、ゴウ。明日は僕、別行動させてもらうよ。」
「わかった。俺も父さんと出掛ける予定だったんだ。」
ネイマやテテュスとも一緒に過ごしたいしね。


―――――――――――――――

翌日、ネイマとテテュスの希望で島の外周を歩くことにした。
『今日も天気が良くてよかったねー。』
“うん。雨だと観光できないしね”
“そうなの?”

“濡れちゃうからさー。”
“僕の魔法で防げるかも♪”
『そういえばテテの魔法みたことないね。』

“見たいけど、人がいない場所がないとね。”
“わかった!ちょっと人のいないところを探してみるねー!”
テテュスが飛んでいった。

“ネイマ、蜜楼館の中どうだった?”
『なんかねー、たくさん部屋があったよ。メイドさんや執事さんみたいな人と料理人、カコ以外は見かけなかった。』

“そっか。ちなみにカコさんに触れてみた?”
『もっちろん♪僕、偵察上手くなってきたでしょ?!』

“さっすがネイマ!ありがとう!でも無理しないでね。聖霊が見えたり、触れることができる人がこれからは現れるかもしれないし・・・。”
『うん、分かった~!気を付けるよ。』


ステータスブックを確認。

カコ・サイナス 闇魔法やみまほう『セクレト』により閲覧不可能


「え!マジかぁ。」『どうしたのー?』
”カコさんのステータス情報が、魔法で制限かかってて全く見れないよ。”

『そんな魔法があるんだねー。』
”やっぱりタダ者じゃないよ、あの人・・・。”

テテュスが戻ってきて、島の端に建物がない木に覆われた場所があるって知らせに来た。そこまで案内してもらった。

「ちょっと確認しとくね。”感知ディテクト”。」
周囲500メートルに人の気配はない。
「大丈夫みたい。」

”へへっ♪じゃあ僕の魔法を見せるねっ”
魔力 エナは抑えて、弱めにね!』ネイマがアドバイスする。

”だいじょうぶだよー”
”じゃあまずは・・・『水膜アクアベール』”

私の身体全体が薄い水の膜で覆われた。ダイビングスーツみたいな感じで少しひんやりするけど心地はいい。
「すごーい!」『上手く魔力が調整できてるねー!』

”これでメイも水の中で呼吸ができるんだよー”「本当にっ?!やったー!」
テテュスが薄い水の膜に触れるとパチンッと弾けた。

”次は、あの木の幹をみててね!『水撒オー・シティオ』”

小さい無数の針のような形のものが木の幹に刺さったがすぐに蒸発して、そのあと幹に当たった部分は少し溶けている。溶けた部分は木の皮がめくれており、小さい穴が空いていた。

「その攻撃魔法ヤバイ・・・。」
『すごいね!溶けちゃってるよー。」

”魔力の量によって水の量も変わるから、矢とか槍みたいにできるんだ!でも数は少なくなるけどね”

「いやいや!威力も変わるだろうけど、当たった部分を溶かすってかなり怖い攻撃だよ?!」
”そっか~”
『むやみに使わないようにね~?』

”最後はね、コレ!・・・あ、お水持ってる?”

腰に下げている小袋にいつも入れている手作り水筒。その中の水を少し手のひらに貯めた。

”『水薬マーウサブマ』”
一見変化はわからない。色も匂いもさっきの飲み水と見た目は同じ。

”それをね、さっきの木の幹の穴が空いたところにかけてみて?”

木の近くに行き、バシャッと無造作に水をかけた。すると数秒して、穴がみるみる塞がり、元の状態に戻っていった。
「何これ?!」
『うわー!木が元の状態に戻ってる!』

”んーと、人間の言葉で言うなら回復薬ってところかなぁ”

テテュスっていうか、聖霊魔法あったら大概最強やん!

”僕が使えるのはこの3つの魔法なんだぁ”

「改めて聖霊ってすごい存在だと思ったよ。テテはまだ生まれて間もないんでしょ?なのにすでにそれだけ力のある魔法が使えるんだもんなぁ。」

『この世界で聖霊は、メイの元いた世界の神様とか仏様とかそういう存在なんだ。だから聖霊が勝手に理由もなく力を使うと聖霊王様に罰せられるからね。ちゃんと見てるんだよ。』

”それは僕も知ってるー。なんだろ、最初から覚えてるっていうか世界のために、自分を守るためにしか力は使っちゃいけないんだよ”

「ちゃんとそういう仕組みになってるんだね。」

聖霊魔法が使えるって、やっぱり他の人には知られないようにしなとあかんな。

”ねぇ、メイ!”
「ん?」

”僕も契約したい!!”

・・・・・
「実体化するのに興味があるみたいだから気持ちはわかるけど、僕はすでにネイマと契約してるから。」

”できるかもしれないっていってたよね?”

『そうだね。聖霊自体は1人としか契約はできないけど、ヒトが複数の聖霊と契約出来るかどうかは・・・。僕は別に構わないよ。メイが決めてよ。』

「う~ん・・・ちょっと考えさせてほしいかな。正直力がありすぎるって変に目立って困ることもあるからさ。」

”メイ!僕はメイがいいんだよー”
「なんで?」

”そうやってちゃんと力が怖いって事がわかってるじゃない。それにいざとなったら僕から契約解除できるからね”

「まぁそうなんだけど、それだけじゃないっていうかさ・・・。」
”ネイマからも言ってよ!お願い!僕も一緒に同じように旅したいんだよ~”

『・・・まぁ気持ちはわかるよ。僕たちは長い時間を一人で生きていくからさ。メイと一緒に居るのも僕達からしたら一時にしか過ぎない。こうやって見える人に出会えることもそう多くはないから・・・。』

テテュスがうるうると見つめてくる。うう・・・プレッシャーや。
そりゃ水魔法めっちゃ興味あるけど、魔王とかがいないこの時代に強力な力を持つってどうなん?ただ冒険者になるならいろんな魔法使える方がいいけどなぁ。

「・・・よし、いいよ!でもどうなるかわかんないからね。失敗しても許してよ?」
”わかってる!”
『テテ、性別考えた?前に教えてあげたでしょ?』

”へへっ♪だいじょーぶ!もう決まってるから”
「そうなの?!まぁ、心が決まってるならいいよ。じゃあやるよ?」

久しぶりやからドキドキするなー。え~と、テテュスの額に私の額をくっつけて、右手と左手を重ねる。


《われ、なんじと契約をかわす者なり》


パーッと光に包まれて、目が眩んだ。ゆっくり目を開けると・・・。

私と同じくらいの年頃の見た目で、水色の髪と目、ニコニコとかわいらしい女の子が立っていた。
「女の子にしたの?!」
『うん♪名前をもらった時に水の女神さまって言ってたでしょ?だから、ね。』
『まぁいいじゃない♪華があってさ~。』

『これからよろしくね!』とテテュスが嬉しそうに抱きついてきた。
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