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少年編

第87話 初依頼と旅の心得

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小鳥のさえずり亭のテラス席でランチ中。

「冒険者って簡単になれるのねぇ。」
「生活がかかってるからね。命懸けだけど、すぐにお金が稼げるのって庶民には大事だよ。」

「私も所詮箱入り娘ね。これから学んでいくわ。」
「あ。」

「何?」

「・・・言いにくいけど、『リー』としてやっていくつもりなら伝えといた方が良いかな、と思った事があって。」
「言って頂戴。私、何をしても皆に付いていくって決めてるんだから。」

「あの、根本的に男と女って匂いが違うんだよね。フェロモン?んーと特に綺麗な人って不思議といい香りがするんだ。」

「へぇ、そうなの?匂いとか訓練の後とかは気になるけど、普段はあまり気にしないわね。」

「だと思った・・・。でね、リーは普段からその・・良い香りがするんだよ。変な事言うけど、これからは生活習慣を意識的に変えていくことも必要だと思う。」

「どんな事?」

「例えばだよ?今髪を洗った後に香油とか使ってない?それをやめるとか・・・どうしても使いたいなら、花や甘い香りとか女子が好きそうなものは選ばないようにするんだ。そうだな、薬草や石鹸の自然に近いというか、男でも不自然さが無いようなものならいいかも。とにかく、細かいところで女子としての習慣を見直していく必要はあると思う。」

「凄いわね・・・。そこまで考えてなかった。」

「ジルさんが言ってたでしょ?リーが男の中で気が休まらないとか、生活するってことが分かってないって。」
「ええ。」

「色々考えてみた。さっきの冒険者に絡まれた時に感じたのは、フードを被ってるのに本能的にリーを女性として、何か感じとったのかなって。」
「ええ?!あれはただ、新人をカモにしてるからでしょ?それはないわよ。」

「違うかもしれないけど、やっぱりリーは人を惹き付ける何かがあると思う。」
「どうすればいいの・・・。」

「あ、大袈裟なことじゃなくてもう少し男の雰囲気を身に付けた方がいいかなってこと。見た目は変えられないけど仕草とか、ちょっとした事で素の自分って出るからね。」

「そっかぁ。私もまだまだ考えが甘かったわ。」
「僕も気付いたことは伝えるよ。周りにいる男の人達を観察してみるのもいいかも。旅までにはリカの女子の部分を意識的に隠せるようになったらジルさんも少しは安心できるかと思う。」

「うん。」
「あと、かなり言いにくいんだけど・・・。」

「何?ハッキリ言って。」
耳元で女性特有の月のものについて、他にも体調不良時や困ったことは隠さずに報告するように話した。

「・・・メイ。何でそんなに詳しいのよ?」
「船に乗って仕事をしてた時に、ちょっとね。」

元女なので、とは言えないけど。男ばかりだと言えずに我慢して悪化したり、他のメンバーの命を危険に晒す訳にもいかないからね。これは私の役目でしょ!

「・・・うん。頼らせてもらうわ。」
「秘密は守るから安心してよ。」

よし。言いたい事は伝えられたから、あとは成るようになるやろ。

―――――――――――――――

「ここかな?」
簡単な地図に記されている家の前に立ち、再度依頼書を確認する。

「すみません!ギルドの依頼で来ました。」
扉を叩くと依頼主が出てきた。

「あら、子供じゃない。大丈夫かしら?」

「薬草採取のご依頼ですね?依頼書を確認してください。」
リカがふっくらしたご婦人にぶっきらぼうに渡す。

「あぁ。じゃあよろしくお願いね。これに入れとくれ。」
「はい。」

目的の森林地帯へと歩き出す。

「初仕事頑張ろうね。」
「うん!」

依頼内容は、ロダティーの材料となるロンダ草と消臭材として使われているコロコロの実を採取する。

森に自生していたり木の下に落ちている事が多いけど、時期もあるから簡単にはいかない。今回は麻袋一杯の依頼だから時間がかかるだろうな。ただ大変だから報酬もそこそこに良かった。

ネイマとテテュスが先に周りを探してくれているから、ステータスブックで自生地帯を探す。

「けっこう大きな木の周りに生えてるのよね?」
「・・・。」

「メイ?」
「・・・あ、そうだね。」

「どーしたの?」
「ごめん。なんか、ここからもっと奥に自生地帯があるって聞いたような気がして・・・考えてた。」

「そうなの?!」
「はっきりとはわからないけど、周りも確認しながら進もう。」

ステータスブックの地図にはネイマ達からの情報が次々更新されいく。それを頼りに進んだ。

―――――――――――――――
しばらく森の中を歩き回り、ロンダ草は見つけられけど、コロコロの実はなかった。まずはロンダ草をメインに探す事に決まった。

『ここに実はないよ~』
“ロンダ草はどう?”

『それは大丈夫~。たくさんあるよ!』
『私は別の場所を見てくるわ。コロコロの実も必要でしょ?』

“うん。じゃあテテ、よろしくね”
『任せて♪』
『ぼくはロンダ草いっぱい採ってくる!』

“助かるよ、ありがとう!”

私達のいる場所はロンダ草の生息地ではなかった。でも他に珍しいものがあったから、ついでに採取しながらネイマのいる方角に進んでいく。

「この辺りは期待できそうにないわね。もっと先に進む?」
「そうしよう。この依頼は期限がないけど、早く見つけるに越したことはないし。」

「薬草採取ってけっこう手間がかかるのね。」
「意外と見つからないよね。」

「失敗したなぁ~もっとギルドでリサーチしてから来れば良かった。」
「次からはちゃんと情報収集してから、だね。」

ネイマがいるのはかなり先だから、転移魔法を使えば簡単に行けるけど、初めての依頼は自分でやり切った達成感が必要やんな!

「森の中って気持ちいい。近くに騒がしい街があるなんて不思議。」
「癒されるけど、気は抜かない方がいいよ。稀にだけど魔獣が出るから。」

「魔獣・・・。」
「うん。」

「そう・・・。さっきからウーパとか小さい動物は見かけるけど。魔獣かぁ。」
「戦ったことある?」

「ない。演習でも対人で行うからね。」
「そうなんだ。」

「平和な時代だけど、国同士の戦争が始まれば国仕えする人間はすぐに前線へ行かされるからね。常々その事は頭の片隅に置いて訓練しているの。」
「お気楽に暮らせるのもそうやって庶民の暮らしを守ってくれる人達のお陰なんだよね。」

「うん。あなたや私の父さん達がしっかり守ってくれているから安心だけどね。」
「だね!感謝しないと。」

数時間が経った。

「ふぅ。今日はあまり作業が進まなかったけど、明日はギルドで情報集めてから行きましょうか?」
「うん。・・・あのさ、僕聖霊使いだって話したでしょ?その聖霊が今手伝ってくれて、ロンダ草は何とかなりそうなんだ。明日はコロコロの実を探さない?」

「そうだったの?!ありがとう!」
「ううん、見習いは冒険者のサポートだから。役に立てたなら良かった。」

「私達だけの分だと麻袋一杯にはならないし、助かるわ。」
「どれくらい採れているか確認して、僕達もこの辺りみたら今日は解散しよう。」

「そうね、話ながらけっこう歩いたし、疲れたわね。」

ロンダ草は麻袋の2/3程まで集められた。ネイマの分と合わせたらロンダ草の依頼は達成。テテュスはジフ村の山々を散策して、いくつかコロコロの実のある地点を見つけてくれた。

テテュスがコロコロの実を小袋に採ってきてくれたので、明日はギルドで情報を集めてから、リカと私、聖霊チームに分かれて探すことにした。

ロンダ草を依頼主に渡して初日を終えた。ふくよかなご婦人は思ったより早くてかなり驚いた様子だったけど、さっそくロダティーが作れると大喜びしていた。リカも満足そうに依頼書にサインをもらっていた。
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