追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

文字の大きさ
102 / 249
第四章 戦争と勇者編

二十二話 幼女と青年、魔王に邂逅する

しおりを挟む
 優しい日の光が瞼を刺激する。朝露が木々の葉から流れ落ち、いつの間にか眠っていたアカツキの頬に触れる。

 目を覚ましたアカツキは、一つ大きく伸びをして、いまだ寝ているルスカを起こさないように自分の懐から退かすと、目の前の川で顔を洗い眠気を取る。

「出発しますから、全員起きてください」

 ナックと弥生が体を起こした直後、珍しくルスカも目を覚ます。

「おはよう、アカツキくん……ふわぁ」
「川の水が冷たくて気持ちいいですよ」

 弥生もアカツキの隣で川の水に触れると、その冷たさが心地よく、水に濡れた手を瞼にあてる。

 まだ眠いルスカは、目覚めるとすぐにアカツキの足にしがみつき顔を隠す。

「ルスカちゃん、ルスカちゃん。川、気持ちいいよ」

 濡れた手でルスカの手を掴むと、すぐに払われる。
弥生は面白がって、再び自分の手を川に浸すとそのままルスカの頬っぺたに手をあてる。

「ぴぎゃあ! なにするのじゃ、なにするのじゃ!」

 ぽかぽかと弥生を叩くルスカの姿に、この場にいた全員が一時の騒動を忘れて和むのであった。


◇◇◇


 再び出発したアカツキ達は、川を遡り、とうとう湖近くまでやってくる。
とても、静かな場所で保養地として使われるのも納得できる光景だった。

 キラキラと光る湖の水面に、爽やかなほのかに木の香りが漂う風、川へと流れる水の音と木々の擦れる葉の音だけが聞こえる。
広い草原に、唯一建っている建物。
そこから流れ漏れる嫌な空気間が、全てを台無しにしていた。

「居るの」

 何がとは言わずとも、ルスカの意図は全員分かった。
武者震いなのか恐怖からの震えなのか、心の奥底から涌き出る震えを押さえアカツキは、手綱を動かした。

 サワス湖の周辺の草原に建つ建物のウッドデッキに置かれた椅子に座り、目を瞑っていたアドは、ゆっくりと目を開き、湖の方からやってくる二頭の馬に視線を送ると、その口元から笑みが溢れた。

 重苦しい雰囲気をぶち壊す声が家の中から聞こえる。

「アドさーん、この料理旨いよー」
「ばか、チェスター。そんな甘いの食べるわけないだろ! アドさん、こっちの方が旨いぜ」

 建物の中から料理を片手にウッドデッキへと出てきた勇者パーティー。

 アドは、ピクリとも反応せずただ一点を見ており、ロック達もその方向に視線を送る。

「あー、ルスカちゃんだ。やほー」
「ば、バカ! 俺達は追われているんだぞ。簡単に顔を見せるな!」
「ロック。それよりも俺達、ルスカを砂漠に置いていったのだから、滅茶苦茶怒っていると思うぞ」

 しかし、ルスカは三人のことなどお構い無しに、ただ一点だけを見ていた。
ルスカだけではない。
アカツキ達も一点だけを見ていたが、理由はルスカとは違う。
目が離せないとは、まさにこの事だろうか。
今、瞬き一つ、視線を外せば殺されると。

「落ち着くのじゃ。ワシがいる。手は出させん」

 ルスカの落ち着いた声で、フッと何かが軽くなる。

 しかし、既に背中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
今まで感じたことのない悪意と殺意の視線を向けられ、体躯はアカツキと変わらないはずが、改造魔族より大きく感じられた。

 神獣エイルの時は畏敬の念を抱いたが、今はただただ圧倒的な威圧感で恐怖するのみ。
「アカツキ」とルスカの一声で、馬を進める。
ルスカとアドの二人は、ハッキリと顔の見える位置にまで近づく。

「久しぶりじゃな」
「ああ、久しぶりだ。ルスカ・シャウザード」

 お互いに不敵な笑みを浮かべ、一言だけ交わすと、ルスカは勇者パーティーへと視線を移した。

「お主らも久しぶりじゃな」
「あ、ああ。え? でもアドさんと知り合いなのか?」

 ロックの言葉からいまだにアドの正体を知らないことが伺い知れると、ルスカは呆れ返ってしまう。
このまま、黙っておいてやるのが、優しさなのかも知れないが、ルスカがそうするはずもなく。

「お主ら、なぜ魔王と一緒におるのじゃ?」
「え、ルスカちゃん何言ってるの? 魔王ってアドさんが? 魔王アドメラルク? あれ、アドメ……」

 恐る恐る三人は、アドに視線を向けるとニヤリと不気味に笑みを見せられ、ようやく気づく。

「ええええ!? アドさん……じゃなかった。アドが魔王アドメラルクぅぅぅ!!?」

 目玉が飛び出るのではないかと思うくらいに、驚き腰を抜かした三人。
そして、自分達の立場が窮地に追いやられていることも気づいた。

 結果だけみれば、勇者パーティーが魔王と手を組んでギルドパーティーを殺しただけでなく、皇帝の娘も人質にしていると。
これが広まれば自分達は、帝国だけでなく世界の敵になる。

「お、お、俺達は悪くない。悪くないぞ。アドさん──じゃなかったアドが勝手にしたことだからな!」
「お主らが何と言おうと、お主らを巡って戦争にまで発展しておる。諦めるのじゃな」
「せ、せ、戦争!?」

 そこまで悪化していると想像出来なかった三人は、もはや魂の抜け殻状態で、再びアドメラルクに視線を変える。

「さてと、アドメラルク。お主の目的はなんじゃ?」
「目的?」

 アドメラルクはウッドデッキの柵を簡単に飛び越えると、そのままアカツキ達の真ん前まで近寄ってくる。
全くの手ぶらで、警戒心のあまりのなさにルスカ以外に眼中にはないと言っているようだった。

「我の目的は、お主だよ。ルスカ・シャウザード」
「なにっ!? まさか、百五十年前の仇打ちか? なんとも矮小じゃな」
「いいや、違うな」

 ルスカだけをジッと見つめ、それ以上何も言わないアドメラルクに対してアカツキは、行動に移す。
後ろにいる弥生に対して馬から降りるように身振りで背中越しに伝え、同じようにナックにもアドメラルクから見えないように、建物を指差す。

 緊張に押し潰されそうになりながらも、弥生は馬を降りてナックと共にゆっくりと移動するが、二、三歩でその動きは止められた。

 アドメラルクに視線を送られただけで、足が動かなくなる。
必死に動けと念じるが、体が拒否しているようだった。

 レベッカの安否だけでも確認出来ればと思ったが、アカツキの思惑は外れてしまう。
アドメラルクがルスカにしか興味を抱いていないようなので、もしかしたらと思ったのだが、甘くはなかった。

「ったく……アドメラルク、キモいのじゃ。余りジロジロ見るな!」
「ふふ……すまんな。あまりに上手く化けているのでな、魅いられてしまっていたのだ」

 緊張感の高まる中、アドメラルクとルスカの挙動に一挙手一投足見逃さないようにしていたアカツキは、“化ける”という言葉にルスカがほんの微かに反応したのに気づいた。

「ルスカ・シャウザード。我と手を組まぬか? 我らが手を組めば、この世界は思いのままだぞ?」

 堂々と胸を張るアドメラルクが差し出してきた手を、いとも簡単にルスカは、杖で払い除ける。

「お主、アホなのか。ワシが、そんなことを望むとでも? お主と一緒にするな!」
「そうだな……我と一緒……か。ふふ、ならば同じではないか。同族という意味でな、そうだろ“先代魔王”ルスカ・シャウザードよ」

 アドメラルクの表情が冷静な微笑から、一気に醜悪に両口角を上げて嗤う。

「ルスカが、“魔王”?」

 アカツキからは懐にいるルスカの表情は、よく見えない。
だが、ルスカから一度歯軋りが聞こえる。

「ワシは……ワシはルスカ・シャウザード。それ以外何者でもないのじゃ!」
「ならば聞こうか。おい、そこの男。お前は転移者だろ?」

 アドメラルクに声をかけられアカツキは、心の動揺が押さえられずに返事をすることが出来ず頷くのみ
そんな状態なのは、お見通しなのだろう、アドメラルクは話を勝手に続ける。

「やはりそうか、魔力を感じられんしな。良いことを教えてやろう。帝国がなぜ転移など高等な魔法を使えるかを」
「やめろ!!」

 ルスカが大声で遮るが、アドメラルクは容赦なく続ける。

「その転移魔法を帝国に教えたのは──」
「やめるのじゃあああああぁぁぁぁ!! アドメラルク!!」



「他でもない。そこにいる、ルスカ・シャウザードなのだぞ!」



「やめてくれ……」消え入りそうな泣き声で、ルスカはそう呟いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

処理中です...