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第五章 救済編
二十二話 魔王、その称号を捨てる
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アスモデスの方が有利だと気づかれたアドメラルクは、構えさえしないその手に持つ剣を二度三度とクルクルと回して、挑発しているように見える。
問題は、アスモデスがその身に纏う魔力が非常に高い防御力を維持していた。
アスモデスの背後にいるのが勇者でもある馬渕であれば、あれは謂わば勇者の加護だろうとアドメラルクは推測する。
(……魔王の我には、突破できないかもしれんな。あれは)
魔王であるはずのアドメラルクの心が、弱気になり揺らぐ。
そんなアドメラルクの眼前に浮かんだのはルスカの顔の幻。
それはまるで「魔王のくせに情けないのじゃ」と言っているようにも、口を尖らしながら呆れたようにも見えた。
チッ! と舌打ちしたアドメラルクは、賭けに近いが何とかなるかもしれないと思い至るが、それがルスカの顔を思い浮かべたことで考えついたことに内心腹立たしく思えた。
勇者の加護を受けた魔王アスモデスと魔王アドメラルクという立場の二人。
アスモデスの身に纏う魔力を突破してもイマイチ決めきれないのは、勇者と魔王という因果が原因なのではないかと、アドメラルクは思い至った。
ならば、自分が魔王を捨てればいいのではと。
アドメラルクは、瞳に浮かぶ魔王紋を消し去る。
魔王紋が消えたことにより、アスモデスにはアドメラルクが急に弱々しく思えた。
それこそ、象が蟻を踏み潰すようなくらいに。
勝てると踏んだアスモデスは、両手に魔法を準備する。対するアドメラルクは、構えもせず魔法の準備もせず脱力して立っているのみ。
「くく……覚悟を決めたか! 父う──いや、アドメラルク‼️」
“バーストブラスト”
両手から二つ赤い光が放たれると、アドメラルクは後方へ飛ぶ。二つの赤い光のうち一つ目は、爆風を受ける程度であったがその分遅れて爆発した二つ目は、ほぼモロに受けてしまい、着地出来ずに二度、三度地面を跳ねるように、転がり吹き飛んだ。
「ぐっ……‼️ が……っ!」
服がボロボロになったアドメラルクは額から血を流し、剣を杖代わりにして震える足で立ち上がる。
「ふふ……あーっはっはっは‼️ 弱い! 弱いぞ‼️ アドメラルク‼️」
そう宣い連打で赤い光を飛ばしてくるアスモデス。
“グレートウォール”
それに対して土壁を作り、防戦するアドメラルク。尽きることのない“バーストブラスト”の連打に土壁は脆くも崩れるとアスモデスはニヤリと勝利を確信して笑みを浮かべ連打は止まる。
“ストーンバレット”
“アイスバレット”
石と氷の礫が油断したアスモデスの顔面を襲ってくるが、咄嗟に両腕で顔を塞ぐと礫は魔力によっていとも簡単に弾かれる。
(──今だっ‼️)
グレートウォール崩壊による土煙と、顔を両腕で守らせることにより視界を妨げるのがアドメラルクの狙いであった。
走り出したアドメラルクは一気に間合いを詰め、剣を大きく振り上げる。
目の前に現れたアドメラルクに、アスモデスは回避行動を取ろうとするが体が硬直してしまう。
現れたアドメラルクの目は傷が付けられており、瞑られた眼から血を流していたのを見てしまったのだ。
「しまっ……‼️」
振り抜かれたアドメラルクの剣は魔力をすんなりと通り抜け振り下ろされた。
(手応えが……浅いっ‼️)
手応えはあったものの、その手に残る感触には違和感が。殺すつもりで振り抜いた。間合いも申し分なかった。しかし、わずかに……わずかに半歩踏み込みが甘くなっていたのだ。
(何故だ!?)
理由はアドメラルク本人も分からなかった。もしかしたら、目を潰した為の影響か、それとも息子に情けでもかけたのか。
「いてぇええええっっ‼️‼️ いてぇよぉぉぉ‼️」
剣は咄嗟に出した左腕を斬り落とし、体も肋骨までは達しなかったがバッサリと肉を斬られており、痛みで大地を転がり回る。
ここでも二人の差が出る。アスモデスは生まれてまだ五年。例え力が有ろうとも決定的に経験が足りないのだ。
痛みに耐えられず、アスモデスはすっかり闘志を喪失する。
せめてもの情け、とトドメを刺すべく近づいていき、剣を振りかぶり──止める素振りなく振り抜いた。
ガキンと、剣は地面に刺さる。
「残念ですけど、ここまでみたいですね」
「その声は──リリスか!?」
いつの間にか現れたリリスはアスモデスを肩に背負う。
「馬渕とかいうやつはどうした? 一緒じゃないのか」
「マブチ様が貴方程度に会うとでも? もう、魔王を辞めたのに……それに、貴方達、親子にはマブチ様の為にも手のひらで踊って頂かなくては」
そう言うとリリスはクスリと笑うと大きく後方に飛び走り去っていく。
小馬鹿にされリリスに斬り込もうとしたのを察知されてしまったのだ。
視力を失ったアドメラルクには、なすすべがない。
「アドメラルクどの、大丈夫か!?」
魔族達を追い払ったルーカスは、アドメラルクに駆け寄り、その目を見て驚く。
「その目……ルスカ様と合流できた時に治して貰いましょう」
「いや、このままでよい」
ルスカの名前が出ると、常に目を瞑っているアドメラルクの瞼の裏にはどうしてもその顔が浮かんでしまう。
そして、瞼の裏のルスカはアスモデスを逃したことを、小馬鹿にしたような顔で責め立てる。
悔しくて思わず、その場で地団駄を踏むアドメラルクであった……。
◇◇◇
レイン帝国、グルメール、そして北の戦場で魔族や魔物を追い払うことに成功し、残すはグランツリーの北側から責めてくるモルク率いる魔物の群れのみとなる。
対する流星とヤーヤーを中心にグルメールのギルドパーティ達。
流星は自らのスキル“擬態”を使い、魔物の群れに魔物の姿で紛れ込み内から崩すつもりでタイミングを見計らっていた。
ヤーヤー達はグランツリーの貴族街を取り囲む立派な城壁を出て、頼りない外壁で魔物を迎え撃つ。
初めは有利に進めるヤーヤー達だが、他とは違い指揮官のいる魔物の群れは、攻めては退き攻めては退きを繰り返す。
そのため、ヤーヤー達は休む暇がなく、疲弊していく。
「流星はまだですの?」
大きな動きはなく、ヤーヤーもぼやき始める。しかし、遂にその時が──先ほど退いてから次の攻撃の手が止んだのだ。
流星は魔物を一人始末すると、大きな魔物の影に隠れて別の魔物の姿に変えるを繰り返す。
初めは大きな混乱はなかったが、徐々に始末した魔物の数が増えると他の魔物に動揺が走り出した。
モルクも既に状況に気付き、対応をしており魔物の群れを凝視する。
そして、モルクは次々姿を変える魔物に目を付け、両手持ちの巨大な戦斧を肩に楽々と抱えて近づく。
流星は、それに気づかず次のターゲットに狙いをつけていた。
ほんの偶然。まるで豹のような容姿の魔物に姿を変えていた流星は、襲いかかろうと態勢を低くすると、その真上を巨大な戦斧が通りすぎた。
「うわぁあっ!」
頭を掠めた巨大な戦斧に驚いた流星は、思わず叫び尻餅をつくと擬態まで解けてしまった。
「ほう……やはり、人間か。このスムーズに姿を変えるところを見るとマブチと同じ転移者か」
モルクは再び戦斧を肩に担ぐと、合図を送り魔物達で流星を取り囲み自分は正面に対峙する。
「やっぱりこの一連、馬渕が絡んでいるんだな」
悔し層に顔を歪ませる流星に対して、満面の笑みのモルクは、戦斧を片手で大きく持ち上げる。
そして流星の脳天目掛けて振り下ろされた。
その時──尻餅をついて開けた流星の足の間の地面から緑色した何かが、天に向かって大樹が如く伸びていく。
モルクの振るった戦斧も傷一つ付くことなく、容易に弾きモルクは態勢を崩す。
何事が起こったのか茫然とする流星、そしてモルク。
しかし、天まで伸びた先から流星にとってはつい最近まで、モルクにとっては長年聞きたくなかった声が。
「何とか間に合ったみたいなのじゃ」
問題は、アスモデスがその身に纏う魔力が非常に高い防御力を維持していた。
アスモデスの背後にいるのが勇者でもある馬渕であれば、あれは謂わば勇者の加護だろうとアドメラルクは推測する。
(……魔王の我には、突破できないかもしれんな。あれは)
魔王であるはずのアドメラルクの心が、弱気になり揺らぐ。
そんなアドメラルクの眼前に浮かんだのはルスカの顔の幻。
それはまるで「魔王のくせに情けないのじゃ」と言っているようにも、口を尖らしながら呆れたようにも見えた。
チッ! と舌打ちしたアドメラルクは、賭けに近いが何とかなるかもしれないと思い至るが、それがルスカの顔を思い浮かべたことで考えついたことに内心腹立たしく思えた。
勇者の加護を受けた魔王アスモデスと魔王アドメラルクという立場の二人。
アスモデスの身に纏う魔力を突破してもイマイチ決めきれないのは、勇者と魔王という因果が原因なのではないかと、アドメラルクは思い至った。
ならば、自分が魔王を捨てればいいのではと。
アドメラルクは、瞳に浮かぶ魔王紋を消し去る。
魔王紋が消えたことにより、アスモデスにはアドメラルクが急に弱々しく思えた。
それこそ、象が蟻を踏み潰すようなくらいに。
勝てると踏んだアスモデスは、両手に魔法を準備する。対するアドメラルクは、構えもせず魔法の準備もせず脱力して立っているのみ。
「くく……覚悟を決めたか! 父う──いや、アドメラルク‼️」
“バーストブラスト”
両手から二つ赤い光が放たれると、アドメラルクは後方へ飛ぶ。二つの赤い光のうち一つ目は、爆風を受ける程度であったがその分遅れて爆発した二つ目は、ほぼモロに受けてしまい、着地出来ずに二度、三度地面を跳ねるように、転がり吹き飛んだ。
「ぐっ……‼️ が……っ!」
服がボロボロになったアドメラルクは額から血を流し、剣を杖代わりにして震える足で立ち上がる。
「ふふ……あーっはっはっは‼️ 弱い! 弱いぞ‼️ アドメラルク‼️」
そう宣い連打で赤い光を飛ばしてくるアスモデス。
“グレートウォール”
それに対して土壁を作り、防戦するアドメラルク。尽きることのない“バーストブラスト”の連打に土壁は脆くも崩れるとアスモデスはニヤリと勝利を確信して笑みを浮かべ連打は止まる。
“ストーンバレット”
“アイスバレット”
石と氷の礫が油断したアスモデスの顔面を襲ってくるが、咄嗟に両腕で顔を塞ぐと礫は魔力によっていとも簡単に弾かれる。
(──今だっ‼️)
グレートウォール崩壊による土煙と、顔を両腕で守らせることにより視界を妨げるのがアドメラルクの狙いであった。
走り出したアドメラルクは一気に間合いを詰め、剣を大きく振り上げる。
目の前に現れたアドメラルクに、アスモデスは回避行動を取ろうとするが体が硬直してしまう。
現れたアドメラルクの目は傷が付けられており、瞑られた眼から血を流していたのを見てしまったのだ。
「しまっ……‼️」
振り抜かれたアドメラルクの剣は魔力をすんなりと通り抜け振り下ろされた。
(手応えが……浅いっ‼️)
手応えはあったものの、その手に残る感触には違和感が。殺すつもりで振り抜いた。間合いも申し分なかった。しかし、わずかに……わずかに半歩踏み込みが甘くなっていたのだ。
(何故だ!?)
理由はアドメラルク本人も分からなかった。もしかしたら、目を潰した為の影響か、それとも息子に情けでもかけたのか。
「いてぇええええっっ‼️‼️ いてぇよぉぉぉ‼️」
剣は咄嗟に出した左腕を斬り落とし、体も肋骨までは達しなかったがバッサリと肉を斬られており、痛みで大地を転がり回る。
ここでも二人の差が出る。アスモデスは生まれてまだ五年。例え力が有ろうとも決定的に経験が足りないのだ。
痛みに耐えられず、アスモデスはすっかり闘志を喪失する。
せめてもの情け、とトドメを刺すべく近づいていき、剣を振りかぶり──止める素振りなく振り抜いた。
ガキンと、剣は地面に刺さる。
「残念ですけど、ここまでみたいですね」
「その声は──リリスか!?」
いつの間にか現れたリリスはアスモデスを肩に背負う。
「馬渕とかいうやつはどうした? 一緒じゃないのか」
「マブチ様が貴方程度に会うとでも? もう、魔王を辞めたのに……それに、貴方達、親子にはマブチ様の為にも手のひらで踊って頂かなくては」
そう言うとリリスはクスリと笑うと大きく後方に飛び走り去っていく。
小馬鹿にされリリスに斬り込もうとしたのを察知されてしまったのだ。
視力を失ったアドメラルクには、なすすべがない。
「アドメラルクどの、大丈夫か!?」
魔族達を追い払ったルーカスは、アドメラルクに駆け寄り、その目を見て驚く。
「その目……ルスカ様と合流できた時に治して貰いましょう」
「いや、このままでよい」
ルスカの名前が出ると、常に目を瞑っているアドメラルクの瞼の裏にはどうしてもその顔が浮かんでしまう。
そして、瞼の裏のルスカはアスモデスを逃したことを、小馬鹿にしたような顔で責め立てる。
悔しくて思わず、その場で地団駄を踏むアドメラルクであった……。
◇◇◇
レイン帝国、グルメール、そして北の戦場で魔族や魔物を追い払うことに成功し、残すはグランツリーの北側から責めてくるモルク率いる魔物の群れのみとなる。
対する流星とヤーヤーを中心にグルメールのギルドパーティ達。
流星は自らのスキル“擬態”を使い、魔物の群れに魔物の姿で紛れ込み内から崩すつもりでタイミングを見計らっていた。
ヤーヤー達はグランツリーの貴族街を取り囲む立派な城壁を出て、頼りない外壁で魔物を迎え撃つ。
初めは有利に進めるヤーヤー達だが、他とは違い指揮官のいる魔物の群れは、攻めては退き攻めては退きを繰り返す。
そのため、ヤーヤー達は休む暇がなく、疲弊していく。
「流星はまだですの?」
大きな動きはなく、ヤーヤーもぼやき始める。しかし、遂にその時が──先ほど退いてから次の攻撃の手が止んだのだ。
流星は魔物を一人始末すると、大きな魔物の影に隠れて別の魔物の姿に変えるを繰り返す。
初めは大きな混乱はなかったが、徐々に始末した魔物の数が増えると他の魔物に動揺が走り出した。
モルクも既に状況に気付き、対応をしており魔物の群れを凝視する。
そして、モルクは次々姿を変える魔物に目を付け、両手持ちの巨大な戦斧を肩に楽々と抱えて近づく。
流星は、それに気づかず次のターゲットに狙いをつけていた。
ほんの偶然。まるで豹のような容姿の魔物に姿を変えていた流星は、襲いかかろうと態勢を低くすると、その真上を巨大な戦斧が通りすぎた。
「うわぁあっ!」
頭を掠めた巨大な戦斧に驚いた流星は、思わず叫び尻餅をつくと擬態まで解けてしまった。
「ほう……やはり、人間か。このスムーズに姿を変えるところを見るとマブチと同じ転移者か」
モルクは再び戦斧を肩に担ぐと、合図を送り魔物達で流星を取り囲み自分は正面に対峙する。
「やっぱりこの一連、馬渕が絡んでいるんだな」
悔し層に顔を歪ませる流星に対して、満面の笑みのモルクは、戦斧を片手で大きく持ち上げる。
そして流星の脳天目掛けて振り下ろされた。
その時──尻餅をついて開けた流星の足の間の地面から緑色した何かが、天に向かって大樹が如く伸びていく。
モルクの振るった戦斧も傷一つ付くことなく、容易に弾きモルクは態勢を崩す。
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