追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

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最終章

十二話 青年、死力の一撃

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「そ、それはレプテルの書……」

 馬渕の左目の代わりに現れた青く光る球体を見て驚くルスカ。てっきり書物か何かとばかり思っていたナック達も、まさか自分の体に移植しているとは思いもよらず自分の目を疑う。

「あれが……がはっ……れ、レプテルの書ですか」

 腹の痛みに耐えながら、馬渕とルスカが話をしている最中に戻ってきたアイシャも態勢を立て直す。
ナックも鼻と口から流す血を脱いだ上着で拭き取り、止血すると再び立ち上がるのだが、二人とも満身創痍といった感じである。
流星も、刀傷を受けた以上に麗華のことがショックで、まだ立ち直れそうにもない。

 ルスカは一歩前に出て、一人で馬渕と向き合い、ニヤリと口元を緩ませる。

「よいのか? レプテルの書の在処を教えて」
「くく……お前らに取れるか?」

 更に馬渕へと近づいていくルスカから、どす黒い魔力の渦が放たれて、その身に纏うと疾走する。
ナックも参戦したい、しかし、自分の剣は馬渕の背後にある。
その時、ワズ大公の乗った馬車がナック達の元へと駆けつけると自らの剣をナックへと譲った。

 これで戦える、そう思ったナックであったが、自分で思っていた以上にダメージが蓄積しているのに気づかず、足元がふらついてしまう。

「アカーン、遅なってもうたぁ!」

 特徴的な関西弁が、丘を駆け上がってくる一頭の馬から聞こえる。

 それは、もちろんタツロウ。
今までリンドウの街の兵士達を安全な場所に送り届ける役目を担い、今やっと駆けつけたのだった。

「なんや、えらい負傷者が多いなぁ。待っとき、今回復薬出すさかい」

 アカツキとタツロウで分けていた回復薬。しかし、アカツキの方に多く持たせているのと、負傷した兵士達へ分け与えて数は少ない。
そのはずであったが、タツロウはかなりの量の回復薬を袋から取り出す。

「遅なって悪かったなぁ。回復薬の材料集めるのに時間が掛かってもうたんや。でも兵士さんらが率先して探し回ってくれたお陰でこれだけの数を揃えられたんや」

 リュミエールとゴッツォ、比較的軽微な弥生は、こぞってタツロウの元へと集まり回復薬を取っていく。

「ナック……ほら」

 リュミエールはナックへと回復薬を与えるが、口が傷で滲みるのか吐き出してしまう。そこで咄嗟にリュミエールは自分で回復薬を口に含むと、そのままナックへと口移しで飲ませた。

 それを見てちょっと赤くなる弥生に、羨ましそうな顔で見つめるアイシャ。
弥生から回復薬を受け取ったアイシャはヤケ酒ならぬ、ヤケ回復薬で気を紛らわせるのであった。

 ゴッツォは、クリストファーにも回復薬を与えるが、意識の薄いクリストファーも飲み込めずにいた。
危険な状態、躊躇っている暇はないと、クリストファーにも口移しで薬を飲ませる……ゴッツォが。

 弥生は、流星にも回復薬を渡してそのままアカツキの元へと向かおうとした、その時──馬車から地面へと転げ落ちるアカツキの姿が見えた。

「アカツキくん‼️」

 弥生は駆け寄り抱き締めると何度もアカツキの名前を呼ぶ。
頭を抱えて揺り動かすが、目は虚ろで息は細い。辛うじて意識は保っているようであった。

「アカツキくん……」

 消え入りそうな声で名前を呼ぶ弥生は、リュミエール同様、自分も回復薬を含んでアカツキの顔に近づいて、そっと唇と唇を合わせた。

 アカツキの呪いに回復薬は効果がないことはわかっていたのだが、それでも藁にもすがる思いでアカツキの口内に回復薬を送り込む。

「砂漠の時と逆だね……」

 唇同士が離れて弥生は、以前アカツキに同じことをされた時のことを思い出したのであった。


◇◇◇


 一方、ルスカと馬渕は以前馬渕が優勢であった。
魔法で幾らダメージを与えても、一瞬で再生してみせる馬渕に手を焼く。
ただ、馬渕の方も放った魔法が、ルスカの周囲の魔力の渦に消滅させられた為に下手に直接攻撃するのを躊躇っていた。

 そこにナックとアイシャ、更に流星が加わるも、回復薬の効果は遅く全快とはいかず馬渕に軽くいなされてしまう。
馬渕の注意は常にルスカに向けられており、全く相手にされていなかった。

「俺達は少し距離を取るぞ!」

 ナックはアイシャと流星に指示を出す。流星もアイシャも、それにナック本人も近接で攻撃するタイプだ。
とはいえ、このままじゃ埒が明かない流星とアイシャは、指示に従いナックの元まで離れる。

「ナックさん、このままじゃ私達にはどうしようもないですよ」
「わかっている。しかし、俺達がこのまま前に出ても足手まといになるだけだ。だから……」

 ナックは流星とアイシャに耳打ちすると、互いの魔法がぶつかり爆風で飛ばされながらも距離を取ったルスカの背後に立つ。

「マブチの攻撃の阻害とルスカ様の身は俺達が守る! それが、俺達が唯一出来ることだ」

 今までと違いルスカを前衛に据えナック達三人は、一定の距離を保つ。ルスカに攻撃に専念してもらい、馬渕からの攻撃は全て自分達が身をもって防ぐ、それがナックの作戦であった。

 ルスカに向かって刀を振り下ろす馬渕に対して、流星は離れた距離から一気に距離を詰めて体当たりでルスカとの距離を詰めさせないようにする。
アイシャも全力で走り回りながら時折詰め寄ってヒット&ウェイで掻き回す。
ナックも何度か剣を交えた後、自分の剣を取りに戻ると、二刀流の手数で応戦する。
しかし、三人ともあくまでもルスカのフォローに専念をしていた。

“ウィンドフォール!”

 下降流の風で馬渕を押し潰すも、動きを止めるのは一瞬のみ。
その間にルスカは一気に距離を詰めて馬渕の左目に向けて手を伸ばすが、上体を反らした馬渕により、ルスカの短い腕では届かずに終わる。
しかも、馬渕は刀を返して上体を反らしたまま、ルスカに向かって刀を振るう。

「させません!」

 アイシャはルスカと馬渕の狭い間に割って入り込むと、両手で馬渕の刀を持つ腕を抑え込む。

「アイシャ、退くのじゃ!」

 ルスカの渦巻く魔力に巻き込まれたアイシャは、左腕に激痛が走る。

「うぅっ……」

 腕を手で押さえてその場にしゃがみこむアイシャ。恐る恐る、手を退けてみると、アイシャは信じられない光景を見ることになった。左腕は肉の一部が失われてうっすらと白い骨が血に染まりながらも目に入る。

「アイシャ、すまぬのじゃ」
「だ、大丈夫です。気にしないで下さい。これくらい……」

 謝罪を述べるルスカを制止してアイシャは、手近に固定する布がなく、動かし辛くなった左腕をズボンの中に入れることで、応急処置として邪魔にならないようにしておく。

「ほぉ……改めて見るが、厄介だな。ルスカ・シャウザード、それがお前のの力か。で、どうするのだ? 俺を倒すには、一瞬で消さなければ再生するぞ。くく……」
「…………」

 思わずルスカは黙り込んでしまう。馬渕の言うことは、間違っていないだろう。たとえ、一部が消し飛んでもすぐに再生してしまう。
何より、問題はレプテルの書。神獣と同格でもあるレプテルの書。それでも、ルスカの力に触れれば消えてしまうのは判っていた。
だからこそ、タイミング良くどす黒い魔力の渦を消さなければならない。
そのタイミングが中々取れずにいたのだ。

「くく……お前の中にいる者、お前が死んだら俺が使ってやるよ。だから、死ね‼️」

 一瞬の隙をついて馬渕がルスカに接近してくる。大きく刀を振りかぶる馬渕だが、その刹那──ルスカの背後からの奇襲が馬渕の左目に突き刺さり血飛沫が舞う。

「ぐわあぁぁっ! た、たしろおぉぉっ! てめえぇっ‼️」

 よろよろと後退する馬渕は、左目を手で押さえる。再び馬渕の左目から手が離れると、そこにはぽっかりと暗い穴が。

 青い光を放つ球体であるレプテルの書は、地中を進んでいきルスカの真後ろから地面へと飛び出たエイルの蔦の尖った先に突き刺さっていた。
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