追放された幼女(ロリ)賢者は、青年と静かに暮らしたいのに

怪ジーン

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第一章 隠居編

一話 幼女、命名する

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 馬渕とアスモデスにより、リンドウの街が崩壊して、早一年が過ぎようとしていた。

 街の復興は、住人の大半が無事であったこと、住人が避難先から、殆ど戻って来たこともあり、元の姿を取り戻しつつあった。

 今は街の中心に、英雄の銅像を建築中である。


「はぁ……はぁ……はぁっ」


 そんな大通りを懸命に短パンにシャツとラフな格好をして、長い藍白の髪を一つに束ねて揺らして走る姿が。
その短い手足を懸命に動かしているが、通りを行き交う人に会う度に、声を掛けられて、殆ど進めずにいた。

「急いで、どうした──あっ、もしかして」
「そうじゃ! 今、連絡来たのじゃ。もうすぐって」

 その見た目幼い少女は、声を掛けて来る人達へ、一つ一つ丁寧に返しながら帰路を急ぐ。

 言わずもがな、その少女──いや、幼女はルスカ・シャウザード、その人である。
ルスカは、街の子供達と遊んでいた所、連絡を受けて家へと戻ってきたのだ。

「ただいまなのじゃ! どうじゃ、生まれたのか!?」
「もうすぐですよ、ルスカ」

 家の扉を力一杯開いてルスカは、そわそわと落ち着かないアカツキに声をかける。
一階のリビングでは、様子を見に来たナックの姿も。

「今、産婆さんと手伝いで、セリーさんとリュミエールさんが二階に来てます。もうすぐだそうですよ」

 もうすぐ、そう言ってもアカツキは落ち着きなく、二階の階段の側へ行ったり台所へ行ったりと止まる気配はない。

「……ゃあ! おぎゃあ! おぎゃああっ!」
「生まれた!」

 アカツキとルスカは、二人抱き合い、そしてルスカを抱き抱えて回り出す。
ナックも「おめでとう」と、アカツキとハイタッチを交わした。

 二階からリュミエールとセリーの二人が降りて来る。

「おめでとうございます。アカツキ様。女の子でしたよ」

 リュミエールがアカツキに笑顔で伝える所を見ると、母子共に健康なのだろうと察する。
アカツキから降りたルスカも、セリーと二人手を取り喜び踊っていた。

 赤ん坊の泣き声がどんどんと、近づく。二階から降りてきた産婆の腕には布に巻かれた赤ん坊が。
そして、赤ん坊は、アカツキの腕の中へと渡される。

 アカツキの赤ん坊をあやす手つきは慣れており、先ほどまで泣き続けていた赤ん坊が泣き止む。

「アカツキ! ワシも、ワシにも見せて欲しいのじゃ!」

 足元で跳びはね、赤ん坊を見たいとルスカは、せがむ。屈んでアカツキはルスカの短い腕を支えながら手渡す。

「ちいっちゃいのじゃあ!」

 キュッと握る赤ん坊の手を見て、ルスカは目を細める。

「アカツキ様。赤ん坊は私とルスカ様で見ておきますから、ヤヨイー様に」
「そうですね。それではお願いします」

 アカツキは、一旦リュミエールに赤ん坊を渡して二階へと上がっていく。
ルスカは、ついていかないで、リュミエールの腕の中の赤ん坊に夢中であった。

「入りますよ」

 ノックをして寝室へと入ると、弥生が起きようとするために、制止して寝ておくように伝える。

「お疲れ様です。そして、ありがとうございます」

 アカツキは、弥生を労い頭を下げる。

「ううん。それより、どう? パパになった気分は?」
「不思議ですね。赤ん坊を抱いた瞬間、ずっしりと重く感じました。恐らく、あれが命の重みなんでしょうね。守ってあげなくては、と肩にも力が入りましたよ」

 ベッドで横になる弥生の頭を撫でながら、アカツキは嬉しそうに目を細めるのであった。


◇◇◇


 リュミエールやナック、それにセリーも帰った後、アカツキとルスカ、それにベッドに腰をかけて、赤ん坊に母乳を与える弥生。
アカツキとルスカは、自分のご飯を食べるのも忘れて懸命に母乳を貪る赤ん坊を眺めていた。

「ちょっと……二人とも、恥ずかしいから下でご飯食べてきてよ」

 弥生は、ちょっと照れながらも訴えるが、アカツキは空間の亀裂に腕を入れると、アイテムボックスから取り出したのは、二つのおにぎり。
一つをルスカに渡すと、アカツキとルスカは、おにぎりを頬張りながら授乳を見続けるのであった。

「ちょっと、水汲んできます」

 授乳が終わり、アカツキが寝室を出ていくと、弥生はルスカから視線を感じる。

「どうしたの、ルスカちゃん?」
「な、なんでもないのじゃ!」と、そっぽを向くが、弥生は確かにルスカから視線を感じていた為に、知らぬふりをして隣に眠る赤ん坊に目を移す。
再び、視線を感じた弥生は、そこで漸く気づく。ルスカは自分を、というより自分の胸を見ていたことに。

 そういうことかと、弥生はルスカにソッと耳打ちする。

「アカツキくんが来るまでね」と、ルスカを自分の隣に誘うと徐に服を捲り、胸を露にする。

 ──階段を上がる音がして、寝室の扉が開いてアカツキが入ってくると、弥生は服装を正し、ルスカは変わらず赤ん坊をあやしていた。

「どうかしましたか?」

 一瞬自分に二人の視線が集まったと、違和感を感じたアカツキが尋ねるものの、二人は「何もない」と互いの顔を見合わせて、そして笑う。
「ふむ……」と、アカツキは、何か察して汲んできた水を置き、それ以上追及せずにいたのであった。


◇◇◇


 弥生の体調を気遣い、その日は大きなベッドで四人並んで眠りにつく。
最近、ルスカは別室で一人で眠ることが多くなっていた。
しかし、この日は、夜泣きのことも考えて四人で眠る。
弥生とアカツキのみならず、ルスカも夜泣きで目が覚めると、交代で赤ん坊を懸命にあやす。
母親として、これ程助かることはないだろう。
ただでさえ、授乳の度に起きる必要があるのである。

「ほらほら、泣くな。よーし、よし」

 ベッドの上に座り赤ん坊を腕で抱きながら、体を小刻みに揺らすルスカ。
すると、赤ん坊は突然、その小さな、小さな手でルスカの耳を掴む。
偶然ではあろうが、その仕草がルスカにとってはとても愛しく、抱き抱える腕に力が入る。

 ただ、ルスカには寝不足なのか、舟を漕ぎ出す。そして赤ん坊を抱き抱えたまま、コテンと横になる。
ところが、不思議と赤ん坊の夜泣きは、それ以降無くなり、授乳の為に弥生が起きるのみ。
再びルスカの腕に抱えられると、スヤスヤと寝息を立てて、次の授乳まで大人しく眠る赤ん坊であった。

 まだ日も明けて間もない頃、既に起きていたアカツキは、目を細めていた。
ただ、これは慈愛の目ではなく、呆れ果てた目だ。

 一階で、朝御飯の用意をしていたアカツキの元へ、アイシャが朝っぱらからやって来たのである。
リビングで、授乳をしていた弥生と共に、懸命にあやすアイシャの姿を見ていた。

「いやぁ、可愛いですね」

 アイシャはそう言うと、チラリとテーブルに並ぶ焼きたてのパンに視線を移す。

「どちらに似てますかねぇ」

 チラッ

「鼻はヤヨイーさん、かな」

 チラッ

「口元はアカツキさんでしょうか」

 チラッ

「それにしても、美味しそうですね」
「アイシャさん、本音漏れてます」

 何度も何度もテーブルの上の焼きたてのパンに目を移すアイシャに呆れて、アカツキは、一つ取ってアイシャへと渡した。

ほーいえばそう言えばはまえは名前は?」
「取り敢えず、口の中のものを処理してから喋ってください」

 アイシャは頬張った口を急いで処理して喉に通すと、慌てて胸を叩く。

「名前です、名前。決めたのですか?」
「まだですね」

 そう言うと、アカツキは弥生と視線を合わせてアイコンタクトで互いに確認する。
命名に関して、二人は事前に話し合っていたのだ。
ルスカに頼もう──と。

 ルスカは、弥生に子供が出来てから色々と気を遣うようになっていた。
寝室を別にしたりと、なるべくアカツキと弥生を二人きりにするために。
しかし、アカツキと弥生にとってルスカは家族で、寂しい想いをさせていたのではないかと考えていた。

 そこで、二人は自分の子供の名前をルスカに付けさせて、この子の姉代わりとして家族である自覚を持ってもらおうと。

 その時ちょうどルスカが二階から眠い目を擦りながら、降りてくる。
アカツキは、早速ルスカに命名をお願いするのであった。

「ワシが、この子の?」
「はい。ルスカにお願いしたいのです」

 良いのだろうかと、弥生を見るルスカだが、弥生は黙って頷くのみ。
今まで名前など考えた経験などなく、ルスカは頭を悩ませる。

「そうじゃの……フウカってのは、どうじゃろうか」
「フウカ……ですか。随分と私達のいた世界での名前に近いですね」
「フウカ……フウちゃん。うん、いい。いいよ、ルスカちゃん」
「以前の転移者にフウという娘が居てな。それくらいしか思い付かんのじゃ。その……ワシがじゃろ。それで……フウカに」

 弥生はルスカを側に呼び「ありがとう」と抱きしめると、弥生、ルスカ、そしてフウカの三人を包み込むようにアカツキが抱きしめる。

 そして、一人蚊帳の外のアイシャは、ポツンと寂しそうにテーブルの上のパンを食べ始めた。
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