211 / 249
第三章 ローレライの負の遺産編
九話 弥生、大公婦人と出逢う
しおりを挟む
ワズ大公は、自らの軍の一部を率いてアルステル領に到着すると、その惨状を目にして絶句する。
一方的な虐殺に近い。
馬渕との争いで起きた被害の方がマシだと思わせるくらいに。
アスモデスによる蹂躙、改造魔族の進軍、ただ一般人にはなるべく被害が出ないように手を回してきた。
ところが、今回は女も子供も容赦なく殺されている。
その多くが背後から……。
「これは……惨いな。逃げ惑う後ろから一撃とか」
連れて来た兵士の中には、死体というよりその死体に向けられた悪意により気分が悪くなるものが現れる始末。
「ワズ大公、この後どうしますか?」
「ふむ。一部をグルメールに戻して国王に伝えなければな。残りはフウカを追う」
「フウカちゃんというより、ヤヨイーさんですけどね」
ワズ大公は、国王にアルステル領の復興を任せて自分はフウカの後を追いかけるのであった。
自分の領地であるファーマーの街も同じように襲われてはたまらないという大義名分を掲げて。
◇◇◇
一方、弥生達はファーマーの街へと無事にたどり着く。ルスカに壊された壁門は、すっかり直されており、初めて来た時のように高額に入場料も取られることはなかった。
ノスタルジックになる暇もなく、弥生達は、まずこの街のギルドへと向かった。
現在ファーマーのギルドマスターは、ハイネルという男である。
以前、このファーマーで出会ったCランクパーティー“茨の道”のリーダーだった男である。
アカツキ達と協力してBランクへ上がったあと、引退したのち、転々と研鑽を積み重ね、このファーマーのギルドマスターとして戻って来ていた。
「お久しぶりです、ハイネルさん」
「おお、ヤヨイー殿、それにカホ殿にナック殿まで」
「“殿”は止めてください。以前みたいに普通でいいですよ」
「ははは。すまない、癖になってしまったのだ」
弥生達とハイネルは談笑を交わす。
「それで、どうしてここへ?」
弥生達は、山エルフの住み処に向かう途中、アルステル領での惨劇を話す。
ハイネルの顔色はみるみる変わっていくのも仕方のないことであった。
「教えていただき感謝します。こちらも警戒しておくので。それで希望のエルラン山脈への案内ですけど、前にいたパーティーの一人が山に詳しいからそいつに頼んでおきます。山に入る準備なども必要なので、数日時間はいただきますが」
子連れの女性二人にナック一人で険しい山に入るほど無謀ではない。
ハイネルに案内人と警護をお願いした弥生達であった。
「そうそう。良ければワズ大公のご婦人にもお会いになられたらどうですか?」
「大丈夫かしら。わたし達、息子さんのラーズ公を、直接ではないにしろ死に追いやったのに……」
「ははは。それこそ取り越し苦労ですよ。婦人はそんなに、器の小さい人ではありませんよ。だいたい、それなら私がここのギルマスになっているのもおかしいでしょ」
ハイネルは軽く笑い飛ばして見せると、婦人はこの街の一番奥、元ラーズ公の屋敷に居るという。
弥生は、ハイネルからてっきり紹介状などもらえるものかと、待っていたが全くその気配はなく、自分達が行って会えるか不安だと伝えた。
それこそ再びハイネルは、笑い飛ばしていらない心配だと。
「ルスカ様の関係者だと言えば通してもらえますよ」、と。
弥生達は、一抹な不安を抱えたまま、その足でファーマーの街の一番奥へ。
当時より綺麗に建て替えられた建物は、門の作りも立派で、その前には三人の兵士が駐在しており、近づいてきた弥生達に警戒を露にする。
「おい、止まれ!」
一人の兵士が呼び止めて駆け寄ってくる。他の二人の兵士はガッチリと門を守り緊張感漂う。
「この屋敷に何の──はっ、そ、その子はまさか!?」
弥生の腕に抱かれたフウカに目をやると、兵士は慌てて仲間の元に。
ゴゴゴと、門が突然開き始めると兵士は一列に並ぶ。
「ようこそ、フウカ御一行様!」
一斉に敬礼をして緊張感が一転歓迎ムードへと変わる。
屋敷の中へと案内され、弥生達はある一室の前で足を止めた。
「失礼します。フウカ様をお連れしました」
扉をノックしたあと、兵士の手によって扉が開かれると、そこには一人掛け用の木製の椅子に座った初老の女性が。
白髪混じりでありながら綺麗に整えられた黒い髪、背筋もピンと伸びており年を感じさせない品のある女性。
「初めまして。ワズ大公婦人。わたしは弥生と言います。で、この子がフウカです」
「まぁ、その子が!? 良かったら抱かせて頂いても? 弥生さん」
「はい。どうぞ」
フウカを抱くと切れ長の目がもっと細くなる。それとは違い弥生は、とある疑念が浮かんだ。自分の事を“弥生”と呼んだのだ。“ヤヨイー”ではなく。
「どうかしたの? やよちゃん」
「う、うん。ちょっと……。あの、ワズ大公婦人、宜しければお名前聞かせて頂いても?」
「あ、そうね。わたくしったら……。改めて初めまして。わたくしは、チヨ。そうね、あなた達には嶋村千代子と名乗った方がしっくりくるかしら」
その名前を聞いたカホも弥生も驚いた。何よりワズ大公に「もっと早く教えておけ」と言いたかった。
「えっ……に、日本人!?」
「やっぱり……」
つまり、目の前にいる婦人は、転移者なのである。
一方的な虐殺に近い。
馬渕との争いで起きた被害の方がマシだと思わせるくらいに。
アスモデスによる蹂躙、改造魔族の進軍、ただ一般人にはなるべく被害が出ないように手を回してきた。
ところが、今回は女も子供も容赦なく殺されている。
その多くが背後から……。
「これは……惨いな。逃げ惑う後ろから一撃とか」
連れて来た兵士の中には、死体というよりその死体に向けられた悪意により気分が悪くなるものが現れる始末。
「ワズ大公、この後どうしますか?」
「ふむ。一部をグルメールに戻して国王に伝えなければな。残りはフウカを追う」
「フウカちゃんというより、ヤヨイーさんですけどね」
ワズ大公は、国王にアルステル領の復興を任せて自分はフウカの後を追いかけるのであった。
自分の領地であるファーマーの街も同じように襲われてはたまらないという大義名分を掲げて。
◇◇◇
一方、弥生達はファーマーの街へと無事にたどり着く。ルスカに壊された壁門は、すっかり直されており、初めて来た時のように高額に入場料も取られることはなかった。
ノスタルジックになる暇もなく、弥生達は、まずこの街のギルドへと向かった。
現在ファーマーのギルドマスターは、ハイネルという男である。
以前、このファーマーで出会ったCランクパーティー“茨の道”のリーダーだった男である。
アカツキ達と協力してBランクへ上がったあと、引退したのち、転々と研鑽を積み重ね、このファーマーのギルドマスターとして戻って来ていた。
「お久しぶりです、ハイネルさん」
「おお、ヤヨイー殿、それにカホ殿にナック殿まで」
「“殿”は止めてください。以前みたいに普通でいいですよ」
「ははは。すまない、癖になってしまったのだ」
弥生達とハイネルは談笑を交わす。
「それで、どうしてここへ?」
弥生達は、山エルフの住み処に向かう途中、アルステル領での惨劇を話す。
ハイネルの顔色はみるみる変わっていくのも仕方のないことであった。
「教えていただき感謝します。こちらも警戒しておくので。それで希望のエルラン山脈への案内ですけど、前にいたパーティーの一人が山に詳しいからそいつに頼んでおきます。山に入る準備なども必要なので、数日時間はいただきますが」
子連れの女性二人にナック一人で険しい山に入るほど無謀ではない。
ハイネルに案内人と警護をお願いした弥生達であった。
「そうそう。良ければワズ大公のご婦人にもお会いになられたらどうですか?」
「大丈夫かしら。わたし達、息子さんのラーズ公を、直接ではないにしろ死に追いやったのに……」
「ははは。それこそ取り越し苦労ですよ。婦人はそんなに、器の小さい人ではありませんよ。だいたい、それなら私がここのギルマスになっているのもおかしいでしょ」
ハイネルは軽く笑い飛ばして見せると、婦人はこの街の一番奥、元ラーズ公の屋敷に居るという。
弥生は、ハイネルからてっきり紹介状などもらえるものかと、待っていたが全くその気配はなく、自分達が行って会えるか不安だと伝えた。
それこそ再びハイネルは、笑い飛ばしていらない心配だと。
「ルスカ様の関係者だと言えば通してもらえますよ」、と。
弥生達は、一抹な不安を抱えたまま、その足でファーマーの街の一番奥へ。
当時より綺麗に建て替えられた建物は、門の作りも立派で、その前には三人の兵士が駐在しており、近づいてきた弥生達に警戒を露にする。
「おい、止まれ!」
一人の兵士が呼び止めて駆け寄ってくる。他の二人の兵士はガッチリと門を守り緊張感漂う。
「この屋敷に何の──はっ、そ、その子はまさか!?」
弥生の腕に抱かれたフウカに目をやると、兵士は慌てて仲間の元に。
ゴゴゴと、門が突然開き始めると兵士は一列に並ぶ。
「ようこそ、フウカ御一行様!」
一斉に敬礼をして緊張感が一転歓迎ムードへと変わる。
屋敷の中へと案内され、弥生達はある一室の前で足を止めた。
「失礼します。フウカ様をお連れしました」
扉をノックしたあと、兵士の手によって扉が開かれると、そこには一人掛け用の木製の椅子に座った初老の女性が。
白髪混じりでありながら綺麗に整えられた黒い髪、背筋もピンと伸びており年を感じさせない品のある女性。
「初めまして。ワズ大公婦人。わたしは弥生と言います。で、この子がフウカです」
「まぁ、その子が!? 良かったら抱かせて頂いても? 弥生さん」
「はい。どうぞ」
フウカを抱くと切れ長の目がもっと細くなる。それとは違い弥生は、とある疑念が浮かんだ。自分の事を“弥生”と呼んだのだ。“ヤヨイー”ではなく。
「どうかしたの? やよちゃん」
「う、うん。ちょっと……。あの、ワズ大公婦人、宜しければお名前聞かせて頂いても?」
「あ、そうね。わたくしったら……。改めて初めまして。わたくしは、チヨ。そうね、あなた達には嶋村千代子と名乗った方がしっくりくるかしら」
その名前を聞いたカホも弥生も驚いた。何よりワズ大公に「もっと早く教えておけ」と言いたかった。
「えっ……に、日本人!?」
「やっぱり……」
つまり、目の前にいる婦人は、転移者なのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。
森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。
一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。
これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる