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いばら姫と騎士
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マクウェル様とは、その誕生日の日だけの付き合いかと思っていたのだが、暫くの間レオグル様の実家であるルーラント公爵家のカントリーハウスに滞在するらしく、このキリクスの邸とは近い為、時間があればこの邸を訪れて来た。
最初こそは緊張もしていたが、こんな無愛想な私にもマクウェル様は嫌な顔をする事もなく、いつも私にも笑顔を向けてくれた。そして、来る時は、いつも美味しいお菓子を持って来てくれるのだ。
「今日のお菓子は、私のおすすめなんだ。」
そう言って、もらったお菓子は本当に美味しかった。
「本当に…美味しいです。あの…いつもありがとうございます。」
ー今迄に食べた事がないなぁ…ひょっとして、隣国のお菓子かなぁ?ー
と、小首を傾げながら考えていると
「やっと…シルフィーが笑った。」
「え?」
そのマクウェル様の言葉に驚いて、そのお菓子からマクウェル様へと視線を移すと、マクウェル様は少し顔を赤くして私の方に視線を向けて微笑んでいた。
トクン…
その笑顔に、胸が少しざわめいた。
「そんなに…笑ってましたか?」
自分で言うのもなんだけど、私は相変わらず表情豊かではない。長い付き合いのあるお祖父様やお祖母様、それに、私が推しのアヤメさんは、私の僅かな変化に気付いてくれるけど…。たった数回会っただけのマクウェル様が気付く筈は無いだろう。
「んー…他の人には分からないかもしれないけど。まだたった数日しか一緒に過ごしてはいないけど…でも、シルフィーの事をよく見ていると…何となく分かるよ。」
「……」
「信じてない?それなら…前回持って来たお菓子のうち、少し硬めの物があったよね?アレ、シルフィーはイマイチだったでしょう?」
「っ!?」
マクウェル様がクスクスと笑う。
そう。今、マクウェル様が言った事は、当たっていたのだ。
「アレを食べた時のシルフィーの顔が…困った様な顔だったから。正直、笑うのを我慢するのが大変だったんだ。」
我慢するのが大変だった─と言いながら、今私の目の前で遠慮なく笑ってますけどね!?と、ちょっぴり恥ずかしくなり
「お…思っていたより硬くて…驚いただけです!」
と言い返すと、マクウェル様は少しキョトンとした後、今度は優しく目を細めて
「今日は、色んなシルフィーを見られて…嬉しいな。」
と、更に優しく微笑む。
トクン…トクン…
ーこんな私に…“嬉しい”なんてー
胸が痛くなって、胸元の服をギュウッと握りしめる。
ーこんな私でも……駄目よ…無理だわー
「シルフィー?どうしたの?」
ハッとして、マクウェル様に視線を戻すと、心配そうに私の顔を覗いてくるマクウェル様が目の前に居た。
「「─っ!!」」
お互い、至近距離で目が合い、瞬時にガバッと音が出る勢いで顔を逸した。
「ご…ごめん!」
「いえっ…大丈夫です!」
きっと、今の私は…顔が真っ赤になっている…よね?それに、胸も更に痛い程バクバクしている。
お互いが黙り込んで、部屋が静まり返っている。それが数秒なのか数分なのか…その沈黙を破ったのはマクウェル様だった。
「えっと…今日は昼から街の方に下りるから、今日は早目に帰らないといけないんだ。それで…今日はゆっくりできないから、明日も来て良い?」
ーその訊き方はズルイと思うー
「明日も…待っていますね。」
「っ!ありがとう!」
マクウェル様は笑顔で私にお礼を言うと、そのままこの邸を後にした。
そうしてやって来たのは、邸内にある図書室。
迷いなく、その目的の本の場所迄歩みを進めて、その本を取り出し壁際にある椅子に腰を下ろした。
『いばら姫と騎士』
お兄様が私に買ってくれた絵本だ。
とある国に、それはそれは美しい王女が居た。それ故に、毎日の様にアプローチを掛ける者が押し寄せ、毎日の様に多くの釣書が送られて来た。
しかし、あまりにも美し過ぎて、とある魔女の嫉妬によって、体中にいばらで縛られたような傷が付く呪いを掛けられ、顔は無事ではあったが、体中にその傷痕が残ってしまったのだ。
それからは、今迄の事が嘘のように、その王女の周りには人が居なくなった。王女自身は、その状況をただただ静かに受け入れた。
王女は独りになった
『いいえ、私は、その傷痕さえ愛しいと思うのです。』
そう言って、その王女に寄り添って来たのは、いつも王女を見守っていた近衛騎士だった。
最初は自分の醜さに、王女はその近衛騎士を拒絶したが、毎日のように愛を囁く近衛騎士に、最後には王女が涙を流しながら、その愛を受け入れる。すると、王女にあった傷痕が全て消え、2人は更に幸せになった──
ー現実では有り得ないー
お兄様は、私を元気付ける為にこの絵本をくれたんだろう。でも、私にとっては、更に辛くなるモノでしかなかった。
ー傷痕が愛しいなんて…本当に夢物語だー
いずれは、誰かと結婚をして幸せになれたら─と。
でも、ちゃんと分かっている。
傷物令嬢なんて…誰も欲しいなんて思わない。
それでも───
恋をするだけなら…許されるだろうか?
マクウェル様を思い浮かべながら、私はその絵本をそっと撫でた。
最初こそは緊張もしていたが、こんな無愛想な私にもマクウェル様は嫌な顔をする事もなく、いつも私にも笑顔を向けてくれた。そして、来る時は、いつも美味しいお菓子を持って来てくれるのだ。
「今日のお菓子は、私のおすすめなんだ。」
そう言って、もらったお菓子は本当に美味しかった。
「本当に…美味しいです。あの…いつもありがとうございます。」
ー今迄に食べた事がないなぁ…ひょっとして、隣国のお菓子かなぁ?ー
と、小首を傾げながら考えていると
「やっと…シルフィーが笑った。」
「え?」
そのマクウェル様の言葉に驚いて、そのお菓子からマクウェル様へと視線を移すと、マクウェル様は少し顔を赤くして私の方に視線を向けて微笑んでいた。
トクン…
その笑顔に、胸が少しざわめいた。
「そんなに…笑ってましたか?」
自分で言うのもなんだけど、私は相変わらず表情豊かではない。長い付き合いのあるお祖父様やお祖母様、それに、私が推しのアヤメさんは、私の僅かな変化に気付いてくれるけど…。たった数回会っただけのマクウェル様が気付く筈は無いだろう。
「んー…他の人には分からないかもしれないけど。まだたった数日しか一緒に過ごしてはいないけど…でも、シルフィーの事をよく見ていると…何となく分かるよ。」
「……」
「信じてない?それなら…前回持って来たお菓子のうち、少し硬めの物があったよね?アレ、シルフィーはイマイチだったでしょう?」
「っ!?」
マクウェル様がクスクスと笑う。
そう。今、マクウェル様が言った事は、当たっていたのだ。
「アレを食べた時のシルフィーの顔が…困った様な顔だったから。正直、笑うのを我慢するのが大変だったんだ。」
我慢するのが大変だった─と言いながら、今私の目の前で遠慮なく笑ってますけどね!?と、ちょっぴり恥ずかしくなり
「お…思っていたより硬くて…驚いただけです!」
と言い返すと、マクウェル様は少しキョトンとした後、今度は優しく目を細めて
「今日は、色んなシルフィーを見られて…嬉しいな。」
と、更に優しく微笑む。
トクン…トクン…
ーこんな私に…“嬉しい”なんてー
胸が痛くなって、胸元の服をギュウッと握りしめる。
ーこんな私でも……駄目よ…無理だわー
「シルフィー?どうしたの?」
ハッとして、マクウェル様に視線を戻すと、心配そうに私の顔を覗いてくるマクウェル様が目の前に居た。
「「─っ!!」」
お互い、至近距離で目が合い、瞬時にガバッと音が出る勢いで顔を逸した。
「ご…ごめん!」
「いえっ…大丈夫です!」
きっと、今の私は…顔が真っ赤になっている…よね?それに、胸も更に痛い程バクバクしている。
お互いが黙り込んで、部屋が静まり返っている。それが数秒なのか数分なのか…その沈黙を破ったのはマクウェル様だった。
「えっと…今日は昼から街の方に下りるから、今日は早目に帰らないといけないんだ。それで…今日はゆっくりできないから、明日も来て良い?」
ーその訊き方はズルイと思うー
「明日も…待っていますね。」
「っ!ありがとう!」
マクウェル様は笑顔で私にお礼を言うと、そのままこの邸を後にした。
そうしてやって来たのは、邸内にある図書室。
迷いなく、その目的の本の場所迄歩みを進めて、その本を取り出し壁際にある椅子に腰を下ろした。
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お兄様が私に買ってくれた絵本だ。
とある国に、それはそれは美しい王女が居た。それ故に、毎日の様にアプローチを掛ける者が押し寄せ、毎日の様に多くの釣書が送られて来た。
しかし、あまりにも美し過ぎて、とある魔女の嫉妬によって、体中にいばらで縛られたような傷が付く呪いを掛けられ、顔は無事ではあったが、体中にその傷痕が残ってしまったのだ。
それからは、今迄の事が嘘のように、その王女の周りには人が居なくなった。王女自身は、その状況をただただ静かに受け入れた。
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そう言って、その王女に寄り添って来たのは、いつも王女を見守っていた近衛騎士だった。
最初は自分の醜さに、王女はその近衛騎士を拒絶したが、毎日のように愛を囁く近衛騎士に、最後には王女が涙を流しながら、その愛を受け入れる。すると、王女にあった傷痕が全て消え、2人は更に幸せになった──
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ー傷痕が愛しいなんて…本当に夢物語だー
いずれは、誰かと結婚をして幸せになれたら─と。
でも、ちゃんと分かっている。
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マクウェル様を思い浮かべながら、私はその絵本をそっと撫でた。
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