25 / 203
第二章ー浄化の旅と帰還ー
魔獣③
誰かに後ろから抱き抱えられたと同時に、浮遊感を感じた。
そろそろと目を開けると、さっきまで私が居た所にフェンリルが立っていた。
ー取り敢えず…助かった?ー
チラリと、私のお腹に回された腕を見る。そのまま私を抱き抱えている人を見ると…
エディオル=カルザイン様だった。
「っ!?」
驚き過ぎて、カルザイン様を見つめたまま固まってしまった。
カルザイン様は、左腕で私を抱き抱え、右手には剣を握っている。視線はずっとフェンリルに向けたままだ。心なし息が少し荒く、じんわりと汗をかいている。
ー急いでここに戻って来た?ー
カルザイン様は、視線を動かす事無く
「…大丈夫か?」
と訊いて来た。
「は…い。だ…大丈夫です…。ありがとう…ございます…。」
「動けるか?」
「えっと…どう…でしょう?」
今は支えてもらってるけど…まだ足は震えたままだ。
「…では、このまま、もう少し辛抱してくれ。」
そう言うと、カルザイン様はフェンリルに視線を向けたまま、更に力を入れて私を抱き込んだ。そのフェンリルも、私とカルザイン様の方を見たまま視線を外さない。そのまま、お互いが牽制しながら、騎士達もフェンリルも動かない。チリチリと肌を刺す様な緊張感が漂っている。ピクッとフェンリルの耳が何かに反応した次の瞬間ー
フェンリルの足下に大きな魔法陣が展開した。それは一気に光を溢れさせ、一瞬にしてフェンリルを包み込んだ。更に、先程の物より小さい魔法陣が五つ展開され、フェンリルの方へと吸い付いて行く。最初に展開された魔法陣が更に輝き、その輝きが一気に弾けた。光がなくなった後に残ったのは…
光の檻に閉じ込められたフェンリルだった。そのフェンリルの首と両手足には光の枷が嵌め込まれている。そのフェンリルからは殺気と怒りが消え、臥せた状態でおとなしくなっていた。
「間に合ったか?」
そう言いながら駆け付けて来たのは、ダルシニアン様だった。
「あぁ、クレイル助かったよ。」
「それなら良かった…。あれ?ハル殿?」
「今の魔法陣は…ダルシニアン様が?」
「ん?そうだよ?フェンリルは手強いから、やっつけるなんて無理だから、取り敢えず拘束する事にしたんだ。それでも、なかなかうまくいかなくて…森から逃げられてしまったんだ。何とか、ここで止められて良かったよ。」
「あ…あのっ…聖女様達は?騎士様達も…大丈夫なんですか?」
「あぁ、皆大丈夫だよ。聖女様達も、フェンリルが森から逃げた後、ハル殿の事を心配していたけど、フェンリルが暴れたせいで穢れが増えたから、今はまだ浄化をされてて、まだ戻って来れないんだ。大怪我をした騎士もいないよ。」
「…良かった…です…。」
ふにゃっと笑って、泣くのを堪える。
「「………」」
ダルシニアン様とカルザイン様が、少し固まる。
「?」
どうした?と思っていると、先にダルシニアン様が我を取り戻したように
「ふぅー…。で?エディオルは、いつまでそうしているつもりだい?」
ビクッとカルザイン様が反応して、サッと私から腕を離した─って!?離された瞬間、もともと足に力が入っていなかった私は、その場にへたり込んでしまった。
「ハル殿!?大丈夫!?」
「す…すみません…その…足に力が入らなくて…こんな大きな…魔獣なんて…私の世界には…居なくて…」
そもそも、フェンリルなんて神話に出て来るだけの生き物だ。それが、この世界では本当に存在する。本当に…ここは日本じゃない…地球じゃ…ないんだー。
ここに来て、初めて怖いと思った。この3年…分かっていたようで、分かっていなかったんだ。
ー還りたい!ー
震える手をギュッと握り締める。
「……」
「はぁー…」
誰かが少し動いた気配がしたのと同時に、誰かが軽く息を吐いた。
「ハル殿、ごめんね。ちょっと…我慢してね?」
「何を──っ!?ひゃあっ!?」
ーえぇぇーっ!?ダルシニアン様に、お姫様抱っこされてます!ど…どうしたら良いですか!?ー
「立てないんでしょう?取り敢えず、ハル殿の部屋迄送るから、少しの間我慢してくれるかな?」
「いえいえ!我慢…じゃなくてですね?ここに放っておいてくれて…だっ…大丈夫です!それに、私…重いですから!お願いします!」
ダルシニアン様は、キョトンとして私を見た後
「あははっ…ハル殿、ちょっと焦り過ぎ…落ち着いて?…ふっ…。」
ー何故嗤われるんですか!?えーっ!?ひょっとして、お姫様抱っこは乙女ゲームのあるあるなんですか!?お姉さん!今すぐ情報をください!ー
「ごめんごめん。ハル殿の反応が面しろっ…可愛かったから。兎に角、このフェンリルをなんとかしないといけないから、このままここにハル殿を放置しとくのは…無理だから。歩けないんだったら、おとなしく運ばれてくれるかい?」
ー今、『面白い』って言い掛けたよね?ー
*今日は、もう1話投稿予定です*
そろそろと目を開けると、さっきまで私が居た所にフェンリルが立っていた。
ー取り敢えず…助かった?ー
チラリと、私のお腹に回された腕を見る。そのまま私を抱き抱えている人を見ると…
エディオル=カルザイン様だった。
「っ!?」
驚き過ぎて、カルザイン様を見つめたまま固まってしまった。
カルザイン様は、左腕で私を抱き抱え、右手には剣を握っている。視線はずっとフェンリルに向けたままだ。心なし息が少し荒く、じんわりと汗をかいている。
ー急いでここに戻って来た?ー
カルザイン様は、視線を動かす事無く
「…大丈夫か?」
と訊いて来た。
「は…い。だ…大丈夫です…。ありがとう…ございます…。」
「動けるか?」
「えっと…どう…でしょう?」
今は支えてもらってるけど…まだ足は震えたままだ。
「…では、このまま、もう少し辛抱してくれ。」
そう言うと、カルザイン様はフェンリルに視線を向けたまま、更に力を入れて私を抱き込んだ。そのフェンリルも、私とカルザイン様の方を見たまま視線を外さない。そのまま、お互いが牽制しながら、騎士達もフェンリルも動かない。チリチリと肌を刺す様な緊張感が漂っている。ピクッとフェンリルの耳が何かに反応した次の瞬間ー
フェンリルの足下に大きな魔法陣が展開した。それは一気に光を溢れさせ、一瞬にしてフェンリルを包み込んだ。更に、先程の物より小さい魔法陣が五つ展開され、フェンリルの方へと吸い付いて行く。最初に展開された魔法陣が更に輝き、その輝きが一気に弾けた。光がなくなった後に残ったのは…
光の檻に閉じ込められたフェンリルだった。そのフェンリルの首と両手足には光の枷が嵌め込まれている。そのフェンリルからは殺気と怒りが消え、臥せた状態でおとなしくなっていた。
「間に合ったか?」
そう言いながら駆け付けて来たのは、ダルシニアン様だった。
「あぁ、クレイル助かったよ。」
「それなら良かった…。あれ?ハル殿?」
「今の魔法陣は…ダルシニアン様が?」
「ん?そうだよ?フェンリルは手強いから、やっつけるなんて無理だから、取り敢えず拘束する事にしたんだ。それでも、なかなかうまくいかなくて…森から逃げられてしまったんだ。何とか、ここで止められて良かったよ。」
「あ…あのっ…聖女様達は?騎士様達も…大丈夫なんですか?」
「あぁ、皆大丈夫だよ。聖女様達も、フェンリルが森から逃げた後、ハル殿の事を心配していたけど、フェンリルが暴れたせいで穢れが増えたから、今はまだ浄化をされてて、まだ戻って来れないんだ。大怪我をした騎士もいないよ。」
「…良かった…です…。」
ふにゃっと笑って、泣くのを堪える。
「「………」」
ダルシニアン様とカルザイン様が、少し固まる。
「?」
どうした?と思っていると、先にダルシニアン様が我を取り戻したように
「ふぅー…。で?エディオルは、いつまでそうしているつもりだい?」
ビクッとカルザイン様が反応して、サッと私から腕を離した─って!?離された瞬間、もともと足に力が入っていなかった私は、その場にへたり込んでしまった。
「ハル殿!?大丈夫!?」
「す…すみません…その…足に力が入らなくて…こんな大きな…魔獣なんて…私の世界には…居なくて…」
そもそも、フェンリルなんて神話に出て来るだけの生き物だ。それが、この世界では本当に存在する。本当に…ここは日本じゃない…地球じゃ…ないんだー。
ここに来て、初めて怖いと思った。この3年…分かっていたようで、分かっていなかったんだ。
ー還りたい!ー
震える手をギュッと握り締める。
「……」
「はぁー…」
誰かが少し動いた気配がしたのと同時に、誰かが軽く息を吐いた。
「ハル殿、ごめんね。ちょっと…我慢してね?」
「何を──っ!?ひゃあっ!?」
ーえぇぇーっ!?ダルシニアン様に、お姫様抱っこされてます!ど…どうしたら良いですか!?ー
「立てないんでしょう?取り敢えず、ハル殿の部屋迄送るから、少しの間我慢してくれるかな?」
「いえいえ!我慢…じゃなくてですね?ここに放っておいてくれて…だっ…大丈夫です!それに、私…重いですから!お願いします!」
ダルシニアン様は、キョトンとして私を見た後
「あははっ…ハル殿、ちょっと焦り過ぎ…落ち着いて?…ふっ…。」
ー何故嗤われるんですか!?えーっ!?ひょっとして、お姫様抱っこは乙女ゲームのあるあるなんですか!?お姉さん!今すぐ情報をください!ー
「ごめんごめん。ハル殿の反応が面しろっ…可愛かったから。兎に角、このフェンリルをなんとかしないといけないから、このままここにハル殿を放置しとくのは…無理だから。歩けないんだったら、おとなしく運ばれてくれるかい?」
ー今、『面白い』って言い掛けたよね?ー
*今日は、もう1話投稿予定です*
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。