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第五章ー聖女と魔法使いとー
優しい笑顔
しおりを挟む黒いモヤについて調べる為に、早速王様に謁見した次の日から王城にやって来た。勿論、王様の許可をもらったので、フェンリルのレフコースも一緒である。
パルヴァン家の馬車で王城迄やって来て、城門の検問所で登城許可証を提示すると
「あぁ!あなたがあのパルヴァンの薬師殿ですか!?確かに、見た目も天──あ、失礼しました。兎に角、第一騎士団の同期が泣きながら感謝してました。」
「泣きながら…感謝…??」
『主、多分、昨日の訓練の事ではないか?』
ーあー!アレか!え?泣いて?相当だったのか…ー
「あー…えっと…お大事に?とお伝え下さい。」
ー昨日の今日だよ?情報伝達早くない?ー
何とも言えない気持ちいいで居ると
「ハル殿」
城の方から呼び掛けられ、振り向くと
「カルザイン様!?」
城の方から、カルザイン様が私の方に向かって歩いて来るのが見えたので、門番の人にペコリと頭を下げて城門を潜り抜けた。
「カルザイン様、おはようございます。えっと…今から何処かへ行かれるんですか?」
「いや─。ハル殿を迎えに来た。」
「─へっ?」
ー迎えに来たー
って、なんだっけ?自然と首が傾いでいく。
「ん?このままランバルトの執務室迄行くが…大丈夫か?」
少し困った顔をしているけど、優しい声で尋ねられる。
「あ、大丈夫です!すみません!まさか…お迎えがあるとは思ってなかったので、ビックリしてしまって。」
「なら…良かった。」
フワリと、カルザイン様は更に優しく笑う。
昨日も思ったけど、カルザイン様って、本当に優しく笑う人だよね。ちょっと…ドキドキしてしまう…。
「─あ、カルザイン様、執務室に行く前に…少し時間はありますか?なければ…帰りでも良いんですけど…。」
「約束の時間より早いから、今でも大丈夫だが、ゆっくりであれば、帰りの方が良いかな?」
ーうーん…謝罪をするつもりなら、ゆっくり時間があった方が良いかなぁ?ー
「それでは…帰りに、少し時間をいただけますか?」
「あぁ、分かった。」
カルザイン様はまた優しく笑うと、私の歩調に合わせて歩きだした。
「あ、今日は、そのピアスをされてるんですね。」
王太子様の執務室に入り、王太子様を視てみると、今日は黒いモヤはなかった。チラリと耳を見ると、あのピアスを着けていたのだ。
「昨日、ハル殿に言われただろう?何処に置いたのか、いつから着けてないのか…分からなかったんだが、あのお茶を飲んだら頭の中がスッキリして…思い出したんだ。それで、今日は久し振りに着けたよ。」
ーうん、今のところ、発動はしていないー
「あー、この魔石…ひょっとして、ハル殿のだったのか?」
王太子様が、自身の左耳に着けているピアスに触れながら、私に尋ねてきた。
「そう─ですね。」
あの時ー繋いでいた手が離れた時、ミヤさんが必死に私に手を伸ばしてくれて…でも届かなくて…バラバラになってしまった、私のブレスレットの魔石。まるで自分の様だと…思ったっけ…。
ポンポン
ーえ?ー
少し、ほんの少しマイナスな気持ちに沈み掛けていた私の背中を、私の横に居たカルザイン様が優しく叩く。
“大丈夫”
と、言われているような…優しい目を向けられる。そんなカルザイン様の仕草さに、心が温かくなる。
「ふふっ…ありがとうございます。」
カルザイン様にお礼を言った後、王太子様に向き直る。
「そのピアス、毎日着ける事はできますか?耳じゃなくても、ポケットに入れておくだけでも良いんですけど…。」
「この魔石、やっぱり何かの魔力が込められているのか?誰が込めたんだ?」
ー防御の、魔法を私が込めましたー
なんて、絶対に言わない。
『貴族の令嬢様は、堂々たる無言の笑顔で、相手を黙らせるらしいよ?いざと言う時には便利だけど、ハルちゃんには…無理かなぁ?』
フジさんが言ってたなぁ…
背筋を伸ばし、王太子様を見据えたまま、無言でニッコリと微笑んでみる。
「…分かった。毎日…肌身離さず持っておく。」
「ありがとうございます。」
すると、横に居たカルザイン様が
「ひょっとして、私は毎日このピアスを着けているから…影響を受けてないのか?」
はい、カルザイン様の方に向かってニッコリと笑っておく。
「──くっ…」
ニッコリ笑ったら、軽く呻かれて視線を逸らされてしまった。
ーえーっと…視線を逸らされる程…私の顔が酷かったのかなぁ?ー
私がやっても、ご令嬢みたいに上手くいかないって事かなぁ?…やっぱりコレは、綺麗な人がするから効果があるのかもしれない。
『主…ソレ…きっと違うが…我が言っても仕方無いから言わぬ…』
最近、レフコースが時々私に憐れみ?の視線を向ける事がある。
ー何故だ!?まぁ…そんなレフコースも可愛いから許す!ー
「んんっ…。あー…兎に角、このピアスの事はおいといて…ハル殿、今日は私の話を聞きに来たのだろう?」
と、王太子様がこの場を仕切り直した。
「はい、そうでした。王太子様が特に影響が酷かったと聞いたので。記憶が曖昧なのかもしれませんが、ご自身でおかしくなったと思い始めた頃からのお話を、聞かせてもらえますか?」
「分かった。」
王太子様は、私に椅子に座るように言い、侍女にお茶を用意させ、カルザイン様と私以外の人を退室させた後、ゆっくりと話し始めた。
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