魔法使いの恋

みん

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壱拾参*シリウス=マーレン*

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久し振りに会ったヴィオラ嬢は、幼さは残っているものの、以前とは違い凛とした姿勢でいて、とても綺麗だな─と素直に思った。それとは反対に、以前と変わらず、こんな私にも笑顔を向けてくれている事も素直に嬉しい事だ。

ー女性の成長は早いものだなー

少し寂しく思ってしまうのは、ヴィオラ嬢を勝手に妹の様に思っていたからだろうか?

「マーレン様、お久し振りです。魔力のコントロールは、うまくいったようですね。」

「カルザイン夫人。6年前は、本当にありがとうございました。お陰様で、魔力が無意識に働く事もなくなり、身体が軽くなって良い調子を保てる事ができるようになりました。」

「それは良かったです。」

ニッコリ微笑むカルザイン夫人も、相変わらずこんな私にも態度を変える事はなかった。

ーあれ?カルザイン夫人…6年前と変わってなくないか?一体いくつなんだ?ー

本当に二児の母親なのか?ヴィオラ嬢の姉ではないのか?と思う程に若いなぁ──何て思っていると

「ハルに何か?」

と、掛けてきた声は優しいのに、その全く笑っていない目が……目だけで殺されるのでは?と思う程の殺気を帯びた目を向けているカルザイン殿。この人もまた、イケメン具合が更に増してないか?

ーそう言えば、カルザイン夫妻はラブラブで、カルザイン殿は夫人を溺愛しているんだったなー

「いえ。カルザイン夫人と、ヴィオラ嬢がとても似ているな─と思っただけです。」

「──くっ………本当に、エディオルも…ブレないよな…くくっ…。」

と、内心焦っている私の後ろから現れたのはリュウ殿で、カルザイン殿の殺気を気にする事なく笑っていて、カルザイン夫人本人はキョトンとしているだけだった。




再会の宴は盛り上がった。ある意味、騎士団はお酒大好きの集団で、パルヴァンからお土産にと持って来てくれたお酒が、これまた美味しかった。リュウ殿は普段はアルコール類は一切飲まないのだが、そのお酒だけは飲んでいて「──懐かしいな…」と、ポツリと呟いた時の顔は、なんだか泣いているようにも見えた。すると、カルザイン夫人が「チートも、たまには役に立つでしょう?」と、穏やかに笑い、それにはカルザイン殿もゼン殿も困った様に笑っていた。




「マーレン様、隣に座っても…良いですか?」

宴が始まってから暫く経ち、皆が更に盛り上がり、その様子を少し離れた席から眺めていると、ヴィオラ嬢がフルーツを持ってやって来た。

「勿論、私の隣で良ければどうぞ。」

そう言うと、ヴィオラ嬢はフワリと微笑んで「ありがとうございます」と言いながら、私の横の椅子に腰を下ろした。その笑顔には、少しだけドキッとさせられたが───








それからお互い、少しずつ、この6年の間の話をした。どうやら、ヴィオラ嬢は、学園を卒業した後は、幼馴染みでもあるサクラ王女の侍女兼護衛に就く事になったようだ。

「それじゃあ、その為にカルザイン殿から剣の指導を?」

「それも理由の一つですね。」

“カルザイン”と“パルヴァン”は、ウォーランド王国では“武”の象徴であり、その名は国外に迄知れ渡っている。その為、ヴィオラ嬢の見た目が小動物であろうが、剣を習う事に関して、全く違和感は無かった。寧ろ、カルザイン夫人だけが異色では?と思っていた。それが、まさかの魔法使いだ。本当に、人は見かけによらないモノだな─と思う。

「あのー…マーレン様。私からの手紙は…迷惑ではなかったですか?」

「いや、迷惑ではない。寧ろ…半年毎の楽しみになっていたから。私の方こそ、また伺いに─と言いながら、この6年の間一度も行けなくて…申し訳無かった。」

「そんな事…謝らないで下さい。軍の立て直しが大変だったと、リュウさんからも聞いてましたから。」

“リュウさんから”

「?」

何故か、その言葉が引っ掛かる。

「ヴィオラ嬢は、今回はサクラ王女の侍女として来ているのか?それとも、パルヴァンとして?」

「今回はサクラ…様の侍女として来ているので、今日から1週間、こちらでお世話になります。」

そう。非公式のパルヴァンとして来ているなら、明日には帰国してしまうのだが、立太子の式に参加する王女の侍女としてなら1週間、この国に滞在すると言う事になる。因みに、式は4日後にあり、ウォーランドからの賓客は、他国よりも2日程早く来てもらっているのは、色々と今迄のお礼をする為だ。

「そうか。なら…時間があれば─だが、6年前のお礼を兼ねて、何か美味しいモノでも食べに行かないか?」

「えっ!?良いんですか!?」

「時間があれば─で、確約はできないけど……」

「それは、分かってます。えっと……時間ができたら、絶対!誘って下さいね!」

断られると思っていたのに…まさかの笑顔の承諾と念押しには、本当に驚いた。私の勘違いかもしれないが、ヴィオラ嬢は本当に嬉しそうに笑っているように見える。そして、その笑顔は私の心をほんのりと温かくしてくれる。「楽しみにしてますね!」と言った後、彼女は母親の方へと戻って行った。







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