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第2章ー魔道士ー
予想外の展開
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アドリーヌの記憶には、一つだけ穴がある。
婚約者だった彼の名前が……全く思い出せない事。
貴族名鑑を見れば思い出すかな?と思っていたけど…。数ある侯爵の家名を目にしても、ピンと来る名前はなかった。
彼は、廃嫡された後、隣国の女公爵の元に婿入りする予定だったけど、私を殺めてしまった事で、それはなくなっただろう。
「ふぅー……」
兎に角、彼の事は置いといて、100年経っても貴族の家名や爵位は殆ど変わっていないようた。アドリーヌだった頃の私も記憶力は良く、貴族の名前や関係性はバッチリ覚えていた。後は、学園が始まってから、生徒達の顔と家名を一致させていけば良い。
逆に……子爵、男爵の数は少し多くなるし、前世でもあまり関わる事がなかったから、知らない家名の方が多く、覚えるのも大変かもしれない。
ーあ、そう言えば…聖女の名前をまだ聞いてないなぁー
“子爵”が載っているページを探し、あるページで手が止まる。
“──ルードモント子爵”
ドクン─と、また心臓が音を立てた。
婚約者だった彼の名前は覚えていないのに、彼女の名前は覚えている。その、口にすらしたくない名前。
“聖女の生家”
家名が残っていて、そう記載されていると言うコトは─お腹の子は、第二王子の子だったと言う事か…。そして、第二王子と共に…幸せに過ごしたのか……。
ー結局は……アドリーヌだけがー
「ナディア嬢?」
「───っ!?」
重たくて暗い感情に陥りかけた時、声を掛けられてハッとする。
「あ……ルシエント様…?」
私の座っている椅子の横の椅子に座り、私の顔を覗き込んでいるルシエント様が居た。
「あれ?公務は………」
「公務はもう終わったんだ。ナディア嬢が、その本に夢中だったようで、全く気付いてくれなかったから…」
「え?あ、すみません!」
どうやら、この図書館に来てから3時間程経っていたらしい。その間に、ルシエント様は公務を終わらせ、また図書館に居る私の所に戻って来たけど、私がその事に全く気付く事なく……5分程経っていたようだ。
「本当にすみません!!」
「そんなに謝らなくていいよ。君は、やるべき事をやってただけなんだからね。で、今日はここまでにして、今から君の王都での住居に案内するよ。」
「あ、はい。宜しくお願いします!」
一体、どんな所で生活をするのか…。
基本、未婚の女性が戸建てに1人で暮らす事はない。女性だけのアパートメントで暮らす事が、平民の未婚女性の生活スタイルだ。
リゼットは、王城就任後、最低2年は王城の魔道士棟の寮生活をしなければいけないが、その後は同じアパートメントに住めれば良いね─と、話していた。
そう。私は、てっきり……王都にあるアパートメントで生活をする─と思っていたのだ。それ以外は…全く考えて…いなかったのに。
何故か、ルシエント様と私が乗った馬車は、家紋が付いた大きな門を潜り抜けた。
「オスニエル様、おかえりなさいませ」
「ただいま。ゼルフィー、彼女がナディア嬢だ。」
「ナディア様、お待ちしておりました。お疲れではございませんか?」
「あ…いえ、あまり疲れてはいませんが……えっと?」
門にあった家紋通りなら、ここはルシエント伯爵邸だ。そして、この“ゼルフィー”と呼ばれた男性は、服装や口調からして、この邸の家令だと思われる。その家令が、私を待っていた─と言う。恐ろしい仮定が頭に浮かんだけど、1人慌てて脳内で否定するが──
「オスニエル様。ナディア様に、オスニエル邸で過していただく事を、説明していないのですか?」
「あ、そうだね。スッカリ忘れてたよ」
ははっ─と笑うルシエント様と、そのルシエント様を見ながらため息を吐くゼルフィーさん。その2人を、私は引き攣った顔で見ている事しかできなかった。
「───と言う訳で、君にはルシエント邸の客室で過ごしてもらおうと思っている。」
「すみません。何の説明にもなっていません!」
「そこは、流されてくれないんだね?」
「いや、流されなきゃいけない理由が分かりませんし、ありませんから!」
「ははっ─やっぱり君は、バッサリで気持ちいいね。」
「…………」
ーえ?もういっその事、殴っちゃう?ー
「事前に説明しなかった事は…申し訳なかった。ただ、本当に、考え無しで決めた訳じゃないんだ。」
「……では、取り敢えず……どうしてなのか─聞かせて下さい。」
「先ずは────」
一番の理由は、ルシエント様本人も学園で講師を務めるのは初めてで、どうなるか分からない。その為、常に助手である私とは連携を取れるようにしておいた方が良いと思ったから。それに、相手は子供と言っても貴族。対する私は平民。平民であっても、バックに“ルシエント伯爵家”がついている─と言う事を明確にしておく為。それで少しでも、平民と侮られたりする事も減るだろうと。
「それに、私が助手にスカウトしておいて、君が外で何かされたりしたら…居た堪れないからね。」
兎に角、今更「嫌だ」と言ったところで、すぐに住む所が見付かる訳もないし、今すぐ払えるお金も…限られている。
「暮らしてみて、どうしてもルシエント邸での生活が苦だったら、その時は考える─って事でどうだい?」
と言われ、それしかないか─と、私はその提案を受け入れた。
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(⁎˃ ꇴ ˂⁎)ෆ
婚約者だった彼の名前が……全く思い出せない事。
貴族名鑑を見れば思い出すかな?と思っていたけど…。数ある侯爵の家名を目にしても、ピンと来る名前はなかった。
彼は、廃嫡された後、隣国の女公爵の元に婿入りする予定だったけど、私を殺めてしまった事で、それはなくなっただろう。
「ふぅー……」
兎に角、彼の事は置いといて、100年経っても貴族の家名や爵位は殆ど変わっていないようた。アドリーヌだった頃の私も記憶力は良く、貴族の名前や関係性はバッチリ覚えていた。後は、学園が始まってから、生徒達の顔と家名を一致させていけば良い。
逆に……子爵、男爵の数は少し多くなるし、前世でもあまり関わる事がなかったから、知らない家名の方が多く、覚えるのも大変かもしれない。
ーあ、そう言えば…聖女の名前をまだ聞いてないなぁー
“子爵”が載っているページを探し、あるページで手が止まる。
“──ルードモント子爵”
ドクン─と、また心臓が音を立てた。
婚約者だった彼の名前は覚えていないのに、彼女の名前は覚えている。その、口にすらしたくない名前。
“聖女の生家”
家名が残っていて、そう記載されていると言うコトは─お腹の子は、第二王子の子だったと言う事か…。そして、第二王子と共に…幸せに過ごしたのか……。
ー結局は……アドリーヌだけがー
「ナディア嬢?」
「───っ!?」
重たくて暗い感情に陥りかけた時、声を掛けられてハッとする。
「あ……ルシエント様…?」
私の座っている椅子の横の椅子に座り、私の顔を覗き込んでいるルシエント様が居た。
「あれ?公務は………」
「公務はもう終わったんだ。ナディア嬢が、その本に夢中だったようで、全く気付いてくれなかったから…」
「え?あ、すみません!」
どうやら、この図書館に来てから3時間程経っていたらしい。その間に、ルシエント様は公務を終わらせ、また図書館に居る私の所に戻って来たけど、私がその事に全く気付く事なく……5分程経っていたようだ。
「本当にすみません!!」
「そんなに謝らなくていいよ。君は、やるべき事をやってただけなんだからね。で、今日はここまでにして、今から君の王都での住居に案内するよ。」
「あ、はい。宜しくお願いします!」
一体、どんな所で生活をするのか…。
基本、未婚の女性が戸建てに1人で暮らす事はない。女性だけのアパートメントで暮らす事が、平民の未婚女性の生活スタイルだ。
リゼットは、王城就任後、最低2年は王城の魔道士棟の寮生活をしなければいけないが、その後は同じアパートメントに住めれば良いね─と、話していた。
そう。私は、てっきり……王都にあるアパートメントで生活をする─と思っていたのだ。それ以外は…全く考えて…いなかったのに。
何故か、ルシエント様と私が乗った馬車は、家紋が付いた大きな門を潜り抜けた。
「オスニエル様、おかえりなさいませ」
「ただいま。ゼルフィー、彼女がナディア嬢だ。」
「ナディア様、お待ちしておりました。お疲れではございませんか?」
「あ…いえ、あまり疲れてはいませんが……えっと?」
門にあった家紋通りなら、ここはルシエント伯爵邸だ。そして、この“ゼルフィー”と呼ばれた男性は、服装や口調からして、この邸の家令だと思われる。その家令が、私を待っていた─と言う。恐ろしい仮定が頭に浮かんだけど、1人慌てて脳内で否定するが──
「オスニエル様。ナディア様に、オスニエル邸で過していただく事を、説明していないのですか?」
「あ、そうだね。スッカリ忘れてたよ」
ははっ─と笑うルシエント様と、そのルシエント様を見ながらため息を吐くゼルフィーさん。その2人を、私は引き攣った顔で見ている事しかできなかった。
「───と言う訳で、君にはルシエント邸の客室で過ごしてもらおうと思っている。」
「すみません。何の説明にもなっていません!」
「そこは、流されてくれないんだね?」
「いや、流されなきゃいけない理由が分かりませんし、ありませんから!」
「ははっ─やっぱり君は、バッサリで気持ちいいね。」
「…………」
ーえ?もういっその事、殴っちゃう?ー
「事前に説明しなかった事は…申し訳なかった。ただ、本当に、考え無しで決めた訳じゃないんだ。」
「……では、取り敢えず……どうしてなのか─聞かせて下さい。」
「先ずは────」
一番の理由は、ルシエント様本人も学園で講師を務めるのは初めてで、どうなるか分からない。その為、常に助手である私とは連携を取れるようにしておいた方が良いと思ったから。それに、相手は子供と言っても貴族。対する私は平民。平民であっても、バックに“ルシエント伯爵家”がついている─と言う事を明確にしておく為。それで少しでも、平民と侮られたりする事も減るだろうと。
「それに、私が助手にスカウトしておいて、君が外で何かされたりしたら…居た堪れないからね。」
兎に角、今更「嫌だ」と言ったところで、すぐに住む所が見付かる訳もないし、今すぐ払えるお金も…限られている。
「暮らしてみて、どうしてもルシエント邸での生活が苦だったら、その時は考える─って事でどうだい?」
と言われ、それしかないか─と、私はその提案を受け入れた。
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