貧乏令嬢は氷の侯爵の恋愛妄想が聞こえる~何故私がヒロイン役なのでしょうか~

白峰暁

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4.アルジェント様の考えが大体わかった

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 ギフトで家を建て直すという希望が絶たれた私は、ベッドの中でうずくまり、そのまま眠った。

 目覚めた後、私はのそりとベッドを這い出し、本棚の中のギフトに関わる本を開いた。


 この中には、歴史上確認されたギフトの能力と、その顛末が書いてある。
 その中に、【心を読めるギフト】というものがあった。


『他人の読心能力を得たその人間は、最初のうちは貴族間での交渉を有利に運んでいった。だが、ある時に心が読めることが周囲にバレてしまい、気味悪がられて誰にも近寄られなくなった。それは家族も例外では無かった』

「……私の能力を他の人に話すのは、やめよう」

【心を読めるギフト】の顛末を読んだ私は、そう決意した。





「お父様、おはようございます」
「おお、ノエル。体調は大丈夫か?心配したぞ」

 私が寝室からリビングまで歩いて行くと、父親ホワンは既に食卓についていた。
 テーブルの上には、父親が採った野菜で作ったサラダが所狭しと置いてある。
 それに加えて、キッチンには野菜を煮込んだスープ鍋があった。どうやら私を心配して作ってくれたらしい。


 暖かいスープを飲みながら、私は父親と話す。
「体調はもう大丈夫。それで、あの……オルビス家が昨日私たちのところへ来たのって」
「ああ。私はリエット家の金をちょっと、ちょーっとばかし色々なところから借りていて、そのうちのひとつがオルビス家だったのだが。私が返済計画をミスってしまって、今後はオルビス家が債権を一本化した上で、我が家の財産を管理するということになってしまって……」
「やっぱり、そういう話だったんだ……」

 私はため息をついた。


 父親が言うに、オルビス家には孤児院やリエットの家を売却するということは要求されていないらしい。
 だが、リエット家の人間の労働とその利益はオルビス家への借金返済へ使うべし、という方針のようだ。
 要するに、父親も私もオルビス家の命令に従って働かないといけないのだ。


「詳細は追って連絡するとオルビス侯爵は話していた。次にうちに来るときは、我々がどう動くことになるか決まるだろう」



 その後、父親は出掛ける用事があるからと慌ただしく外へ出て行った。



 +++


 とりあえず、オルビス家が来るまではこれまでと同じ日々を送るようにしよう。
 という訳で、私はいつものように孤児院の掃除をしていた。

 一人で掃除をしていると、今まで気付かなかった考えが浮かぶことがある。今回の場合はアルジェントに関することだった。


(今までギフト関連であれこれ悩んでて、そこまで思い至らなかったけど。私はアルジェント様の心の声を一部聞けて、その声は私について恋愛の妄想をしていた……、ということは、アルジェント様は私のことが好き、なの? なっ…、なんで?)


 能力で心の声を聞ける対象がアルジェントしかいないというのも不思議だが、こちらの方がもっと不思議だ。


 アルジェント自身は社交界で人気になれる人物だろう。容姿端麗で、家柄も問題ない。そんな人が自分を選ぶ理由は何も思い付かなかった。


(だって私の家はお金が無くて、それはアルジェント様も知ってるはずで……、いや、ちょっと待って。もしかしてアルジェント様はお金が無い人ほど可憐に思う、みたいな性癖持ちなのでは……)


 家として勢いのある貴族が、珍しい趣味を持ち合わせているのはよくあることらしい。余裕がある貴族の方が様々な趣味に手を出せるからだ。

 男性の好みとして、『頭が悪そうな女性の方がいい』とか、『喋るのが苦手な女性の方がいい』とか、そういう好みもあるらしいことは知っている。
 その派生として、『借金で困っている女性がいい』という好みがあってもおかしくは無いのかもしれない。

 なんだか闇の深い性癖だから、あんまり深掘りしたくはないけど……。





「ショーンのばか!もう知らない!」
「おいおい、何でそんなに怒るんだよー」


 考え込んでいるうちに、何やら子どもたちが揉めている気配がする。
 私は仲裁の為に部屋に行った。


 部屋にいたのは男児ショーンと女児のミリアだ。二人は仲良しだと思っていたが、何やらミリアはひどく立腹しているみたいである。ミリアの足元にはばらばらになった花飾りが落ちている。
 私は二人に確認した。



「ミリア、どうしたの?……ショーン、何かしたの?」
「僕はミリアには何もしてないよ。急にミリアが前にあげたプレゼントを壊しだしたんだよ」
「ぐすっ。……だ、だって。ショーンは、他の子にも花飾りをあげてたでしょ」
「えっ」
「町にいた綺麗な子に花あげてるの見た!しかも私と同じ花飾りをあげてた!なんなの!?『きみにこの花を贈りたいと思ったんだ』って言ったのはなんだったの!?きらい!きらい!!」


 怒りと悲しみをぶちまけるミリアを前にして、私は少々気が遠くなった。
 うちの孤児院の中で痴情のもつれが起きつつあるようだ。


 とりあえずミリアを落ち着かせた後、ショーンにも個別に話を聞いた。



「ショーン、ミリアの言っていたことは本当なの?」
「うーん、まあ、そうだね」
「そ、そうなんだ……。ショーン、そういう風に誰にでもいい事を言うのはダメよ。そういうのは、『浮気』って言って、相手をとても悲しませることで……」
「えー、そう?でも僕、ただただ色んな女の子に花を渡したかっただけだよ?花を貰って喜ぶ子はみんなかわいいし。孤児院の先生は『人の喜ぶことをするように』って言ってたよ?なんで沢山の人が喜ぶことをしたらダメって言われるの?」

「…………」


 ショーンの言葉を聞いて、私は少し悩む。何やら難しい問題に発展してきたぞ。
 私は咳払いをして、ショーンに向き合う。


「……ショーン。あなたはミリアと過ごすとき、仲むつまじくしていた……、もっと言えば、距離が近かった。いい?一般的に、近い距離で接する人は、『自分に好意を持っているのかもしれない』と思われることが多いの。

 ショーンがミリアのことはどうとも思っていなくて、誰に対してもお花をあげたいと思っているのなら、誰に対しても一定の距離感を持って接することをおすすめするわ。そうすれば、『この人、私のことが好きなんだ』って勘違いされるようなことは減るだろうから」
「うーん……そうなんだ。あ、もしかして、『花が似合う、きれい、すごくかわいい』とか、そういうことも言わない方がいい?」
「『きれい』とか『すごくかわいい』とかは言わない方が無難でしょうね」
「そっかあ。この間町で会ったお兄さんは、『俺はどんな女性であってもきれい、かわいいとアタックし続ける。俺にとってはありとあらゆる女性がタイプだからな』なんて言ってたんだけどな」
「ふ、ふーん、お兄さんはそんなことを……。あのねショーン、いいやり方があるわ。仮に沢山の人に『きれい』とか『かわいい』とか思ったとしてもよ、それは頭の中だけの想像に留めるのよ。そういうことは大事な人だけに言うほうがいいわ」
「そうなんだね」


「……ところで、ショーンは本当にミリアのことはなんとも思っていないの?町で会った女の子と同じくらいの好意しか無いの?」
「ん~……。いや。ミリアにプレゼントを壊されたのは悲しかったな……」
「じゃあ、仲直りした方がいいわね。さっきミリアの様子を見たけど、怒ってしまったことを悲しんでいたようだから。今なら話し合うことが出来るわ」
「うん!」



 ショーンはミリアのいる部屋へと歩いて行った。
 少々骨が折れたけど、彼らは大丈夫そうだ。


 話を終えて、私はため息をつく。


 …………。


「ん?」


 私は、ふとあることに考えが及ぶ。


 先程、ショーンは『ありとあらゆる女性がタイプ』だと宣う男性に会ったことがあると言っていたけど……。
 もしかして、アルジェントもそうなのではないか?


『女性ならばどんなタイプだろうと好きになってしまう』という人もいるという話は聞いたことがある。
 私は何故か自分に対する妄想しかキャッチ出来ないだけで、アルジェントはありとあらゆる女性に対して内心で熱をあげているんじゃないだろうか。

 おそらく、アルジェントは私のことが特別に好きというわけではないのだろう。
 他の女性に対しても同じかそれ以上の熱量で、妄想にふけっているはずだ。
 そしてアルジェントが現実的にパートナーとして選ぶ相手は、私ではない。もっと釣り合う女性になるだろう。


 アルジェントの立場でそれを表に出してしまうと、問題になってしまうだろうけど……。

 考えてみれば、アルジェントは別に態度に出した訳ではない。
 心の中で諸々の妄想をしていただけだ。



 アルジェントと会って以降、私は妙なギフトを貰ってしまったと悲嘆にくれていたけど、思えばこの件で可哀想なのは私ではない。アルジェントのほうだ。

 心の中では何を考えていようと咎められないはずなのに、考えが他人に漏れているというのは恐ろしい状況だろう。



(……うん。大体、今後の方針が決まったわね。私が今後アルジェント様と会うとしても、心の声には一切反応しないこと。そうすれば、私も彼も平和でいられるはず……)


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