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32.エピローグ②
しおりを挟むもう少しで学園の休みが明けるある日、家に私宛の手紙が届いた。
その筆跡で差出人が誰なのかはすぐに把握した。
アルジェントからの手紙だった。
アルジェントからの手紙には、ナデール山でギフトが暴走しかけたことについての謝罪と、私に助けられたことの礼がしたためられている。
その上で、二人で会って話をしたいと書かれていた。
私は、約束の時間に指定された集合場所――街の近くのカフェに一人出向いた。
このカフェはテラス席があり、人に話を聞かれないようなつくりになっている。だからここを集合場所としたのだろう。
そこの席に見知った顔がいる。
「アルジェント様」
「ノエル。久しぶりだな」
アルジェントがそこにいた。
++++
今は冬の寒さが厳しい時期だが、魔法の力で外の席であっても暖かい。席のディスプレイも相まって過ごしやすい場所だ。
――だが、私は内心震えていた。
アルジェントの無事が気になって、再会したいと心から思っていた一方で、会うのが怖いと思っていた面もあるのだ。
(アルジェント様に私のギフトの力について話した時、彼は消えてしまいたいって言っていた……。
当然よね。自分の考えていることが筒抜けなんて、その相手から距離を取りたいって誰だって思うはず……)
こうして席を設けてもらったのは、アルジェントが義理深いからだろうと思う。
人づてに話をしてもらっても良かったのに、面と向かって説明をした方が良いと判断したのだろう。
(それか――アルジェント様は、そもそもあの時の記憶が曖昧になっているのかもしれない。
私がギフトについて話したことを忘れてしまったから、このように会って貰えるのかもしれない。
でも、何らかの理由をつけて彼から距離を取った方がいいでしょうね……)
自分のギフトが危険予知をするものだと精霊に教えて貰って以来、私はギフトの力を抑える薬を飲まなくなった。また何か危機が迫った時に困ると思ったからだ。
だが、その分アルジェントの心の声がまた筒抜けになることがあるかもしれない。
今は何も聞こえてこないが、また聞こえるようになる前に彼と距離を置くべき――私はそう考えていた。
私と相対したアルジェントは、まずナデール山での一件について説明をした。
「ある程度は家の執事からも聞いているだろうが……改めて説明させてほしい。
俺は気を失った君を保護して、近くにいたヘルムートを捕まえた。その後は現地に来た国の調査隊に任せて、俺は国の研究施設に保護された。
ギフトの働きについてはまだわかっていないことが沢山ある。事故に至るまでの原因究明をしないといけないからだ。暫く調査をされて、今は一旦解放された。今後定期的に研究が行われるが、暫くは普通に生活をして貰っても問題ないと言われている。」
「……調査をされたのは、アルジェント様だけなのですか?」
私は、彼の話の途中で質問した。
国の調査隊からすれば、一人でナデール山に出向いた私は怪しい存在だと思われてもおかしくない。あそこは通常入ることが出来ない場所だからだ。
私が国から召集されてもおかしくない――そう考えていたが、まだその連絡が来ないことが気になっていた。
アルジェントは少し困ったような顔をして、私の質問に答える。
「ああ。国からは、その場にいた者……つまり、君についても調査をしたいと言われている」
私はアルジェントの言葉に頷いた。
そこまでは私の予想通りだ。
「だが、少し待って貰っている。君が意識不明になっていたから、療養した方がいいと主張した。それに……国に詳しく説明したくないなら、それなりの説明をするだけで終わると思う。君が出向く必要はない」
続けられた言葉に、私は首を傾げた。
「ない、とは……国の調査でそんなことが可能なのですか?」
「あの時に災害が起きかけた直接的な要因は、ヘルムートが俺の魔力を急激に上昇させたことと、俺のギフトの力がもともと高かったからだ。君はたまたまあそこに散歩に来ていただけで、何をしなかったと言っても通るはずだ」
「と……通りますかね? 通らないような気がしますが……」
私が調査員だったら絶対に調べる。あんな場所、女学生が一人で行くには怪しすぎるからだ。
あの場にいた中で重要なのはヘルムート先生とアルジェントだという理論自体はわかるけど……。
そんなことを考えているうちに、私はあることを思いつく。
「アルジェント様。もしかして、私を庇ってくれたのですか?」
「……」
「私がずっとギフトの力を隠していたから、他の人にも話さなくて済むように、国の人間に質問されても話さないようにした……そうなのではないですか?」
アルジェントは、私の仮説を聞いて息をついた。
「……ノエルに目を覚ましてもらった後、俺の中から取り込んでしまった精霊が出てきた。その中に君を案内した精霊もいた」
「!」
「その精霊に教えて貰った。ノエルのギフトの力と、今まで君がギフトの内容を勘違いしていて、ずっと隠していたことを……。
本当の力は違うとわかった今でも、ギフトの力を隠したいと思っているかもしれないと思った。だから他の人間にはノエルの力のことは話していない」
彼の答えを聞いて、私は内心震える。
……一応、あの時に何があったかはわかった。
わかったが、つまりは……。
「アルジェント様……では、あの、ナデール山で私が言ったことは……」
「ああ。全て覚えている」
(そうなんだ……)
動揺する私をよそに、アルジェントは何故か落ち着いているように見える。
……何故だろう。
今日は彼の心の声は聞こえてこない。もう私に聞かれることは無いように対策したから、気にしていない――そういうことなんだろうか。
とりあえず、今は話を進めよう――と、私は努めて平静を装った。
そんな私を前に、アルジェントは口を開く。
「ノエル。今の君には俺の心の声は聞こえないだろう? あの時、ナデール山で災害になる直前に魔力を放出したのに加えて、国に協力してもらって余剰魔力を吸い上げて貰っている。だからノエルの危険予知の力は発動しないだろう」
「……はい。今は何も聞こえません」
「良かった。……すまないな、ノエル。今までその力に悩まされたこともあっただろうが、きっともう大丈夫だ」
そして、アルジェントが追加の説明をした。
今回の事件によって、国がギフトの魔力上昇の調査を更に強化することにしたため、災害が発生するような事態になる可能性は低いだろう――とのことだ。
「だから、もう大丈夫。……山でノエルを危険に晒してしまったことはどんなに詫びても詫びきれないが、せめて今後は平穏に過ごして欲しい……そう思う」
「平穏……?」
「ああ。もうギフトの力が発動することは無いだろう。だから……」
「――待って下さい」
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