告発のメヌエット ~ 貴族社会に挑む母と娘の物語 ~

竹笛パンダ

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偽りの舞台

第90話 舞台(1)

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 そして舞台は整った。
 今日の学院祭のために練習を重ねたアリス。
 コレット・コレクションのお披露目のため、尽力してくれたグランとアニー。
 そしてこの機会を確実に成長につなげてくれたお父様やトーマス、エリック。

 多くの人の力が集まりこの舞台があるのだと、私は感謝の気持ちでいっぱいになった。
 
 この機会こそがミハイルやカザック子爵、オルフェ侯爵へと続く復讐の始まりであり、カミルの無念を晴らす道筋でもあった。
 しかしそれを悟られてはならない。
 アイリス皇女の夢の舞台でもあるのだ。

「おはようございます、コレット夫人。
 そろそろいいかしら、舞台袖に集まってくださる?」

「ええ、もちろんですとも。
 アリスも連れて行きますね。」
 
 私は舞台袖に集まっている関係者に挨拶をした。

「おはようございます、今日はよろしくお願いいたします。
 この子が娘のアリスです。」

「まぁ、ジョージ君が言っていたお弟子さんって、コレット夫人のお嬢様だったのね。
 今日は気楽に弾いてちょうだい、コンサートではないから大丈夫よ。」
 
 アイリス皇女はやさしく声をかけていた。

 神殿騎士風の衣装を身に着けたジョージ先生が遅れて入ってきた。
 その姿に私たちの間に小さなどよめきが起きた。

「おはようございます、どうですか?
 コレットさん。」

「先生、かっこいいですよ。
 ねぇ、お母様。」
 
 私たちの会話を聞いても、アイリス皇女は無言でジョージ先生を見つめているだけだった。

「では、アリスちゃん、準備はよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫です。」

「それじゃ、開場しましょう。
 お客様を迎え入れるわよ。」
 
「今度は皇女様の番ですよ。」
 てきぱきと指示を出すアイリス皇女を、衣裳部屋へ誘導した。

  ステージのピアノの前では、アリスがやや緊張した表情で目を閉じて、手を組んでいた。

「お父様、聞いていてね。
 今日がデビューなの。
 どうか見守っていてくださいね。」
 
 そう小声でつぶやいて、きらきら星変奏曲の演奏を始めた。
 
 会場にいた学院生は少女が弾くきらきら星に、可愛らしい演出と受け止め、和やかな雰囲気で見守っていた。
 演奏が進むにつれて技巧的なパートに入ると多彩な演奏に引き込まれていった。

「子供が弾いているんじゃなかったか?」

 誰もが目を疑うような光景だった。
 その後バッハのメヌエットを少しテンポアップして楽しい曲調で演奏し、最後にモーツアルトのピアノソナタK545を演奏した。

 この曲は最後までつかみどころのない「猫」を表現した、楽しい仕上がりになっていた。
 パーティーの参加者はアリスのピアノの演奏のとりこになり、観衆へと変わっていった。
 
 演奏が終わるとアリスは両手を裾に添えて、深く、丁寧にお辞儀をした。
 一瞬の静寂の後、開場には歓声と拍手が沸き上がっていた。

  
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