竜騎士と秩序の天秤

竹笛パンダ

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竜騎士と秩序の天秤

かあさまのさいご

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 それから母様は、城の南東の大きな庭園に来ていた。

「ああ、美しい。
 我ものこのようなところで最期を迎えられるとしたら、これも褒美なのだろうな。」

 城の西側の離れではある異変が起きていた。
「ぎゃ~!」との喚き声とともに、第二王妃の顔や体に死の呪いが刻み込まれたのだ。

「おのれ~、何者か。
 我に呪いを施すとは。」

 そう言って第二王妃は外に走り出した。
 もちろん子どもたちの呪いが解かれ、我が身に降りかかったことは承知しているので、呪いを解いた術者を始末し、再び呪いをかけようと息巻いていた。

 二人が出会ったのは南東の庭園。

 第二王妃の闇を纏った、ただならぬ気配に気づいた母様はドラゴンの姿で応戦していた。

「ホーリーブレス」

 母様のブレスが第二王妃を捕らえた。
 第二王妃はその場に倒れ込んだ。
 ドラゴンになった母様が、ゆっくりと、大きな足音を立てて第二王妃に近づいて行った。

「お前の闇の力は消し去った。
 もはや何もできまい。」

「このままでは、私は殺されてしまう。
 せめて一矢報いてやろう……。」

 第二王妃は恐怖に歪みながら、指輪に魔力を込めた。
 すると、指輪から放たれた石化の魔法が、母様を包んだ。

 静かに、しかし確かにその姿は石へと変わり、最後に残ったのは、王と子供たちを守るように広げられた、大きな翼を持ったドラゴンの石像だった。
 第二王妃は石化の対象があまりにも大きくなったため、急速に魔力が枯渇し倒れこんでいた。
 そこへ王様が来て、衛兵たちに命じて第二王妃は西の塔へ幽閉された。
 最後に映っていたのは、若き王が石に変わったサニアの姿を前に、悲しみに暮れ、落胆する王の後ろ姿だった。

 水鏡の雫のメッセージはここでおしまい。
 
 アルスが涙を浮かべて、
「あの南東に庭園にあるドラゴンの石像は、サニアお母様への感謝のために建てられたと聞いていたが、サニアお母様ご本人だったとは。」

「そうね、帰ったらお花を供えましょう。
 それからラヴィと仲良くすることは、お母様の願いだったのね。」

 サポニスは涙を浮かべ、カイルとネルフは人目も気にすることなく泣いていた。

「先代様は、最期は自らの意思で竜人となり、この子どもたちを救い、竜の血盟でこの森とお嬢様を守るとは、何とも先代らしい。」

「これで仇敵ははっきりしやしたぜ、お嬢。」

「なりません、カイル。
 先代からの申しつけ通り、この森からの出撃は認めません。
 それは秩序の天秤を大きく傾けてしまうことになるでしょう。」

「でもよ、このままってわけにはいかないよな。」
 とネルフが私に話しかけた。

「あの……第二王妃と皇子は魔導帝国に帰還命令が出て、国に帰っていきました。」
 とアルスがサポニスに伝えると、
「では、魔導帝国がこちらに仕掛けてこない限りは静観するとしましょう。
 我々には若くて力のあるドラゴンがおりますので、そうそう手出しはしないでしょうから。」
 
 魔導王国への対応は、一同の同意で議決された。

「ねぇ、どうしてみんな『サニアお母様』って呼ぶの?
 私の母様だよ。」

「それはね、お父様が最期は王妃として送り、国葬にしたからなんだよ。」

「そうなんだ。
 でもお母様は王様のことを『坊』って呼んでた。」

「王家では子供が生まれると、竜の森のドラゴンに加護を与えてもらうためにここに来ていたんだよ。
 だからサニアお母様はお父様のことを知っていたみたい。」

「おしめをして泣いていた相手と結婚なんてね。」

「そう、だから第三王妃サニアお母様になったんだよ。
 僕たちは夢で出会って、それきりだけどね。
 こんなお話があったなんて知らなかったよ。」

 お姉ちゃんは、父王を思い出して、少し笑って言った。

「今でもサニア様に感謝する竜人祭が行われているのよ。」

「ふーん。」

「みんな頭に角やしっぽ、羽をつけて、白い綺麗な衣装をまとい、仮装を楽しむのよ。
 そしてね、その日に愛の告白をするとうまくいくって。」

「へぇ~素敵なお話になったんだね。」

「それってお父様のせいだよね。
 出会ってすぐに妃にしちゃったんだから、それほど美しかったって。
 肖像画、見たでしょ?」

「うん、母様笑っていたね。」

「その姿も、竜人だったでしょ。
 あの絵がお披露目されたときは、大騒ぎだったんだよ。」

「え、どうして?」

「よくわからないけど、『尊い』って。」

「サニアお母様はね、僕たちを呪いから救って、国を助けた恩人であり、そのために『儚く散った王妃様』という伝承になったんだよ。」

 それで、王都のお祭りになっちゃったんだね。

「ねぇラヴィ、いつかあなたも竜人祭に出てみない?
 ここに本当の竜人がいますよって。
 きっと神様みたいになるわよ。」

「え? そ、そんなのやだよ!」

「でも、お母様の伝説を受け継ぐのは、あなたなのよ?
 今度はラヴィが『尊い』って言われるかもね。」

 お姉ちゃんはいたずらっぽく笑った。

「次はお嬢様とわたくしが王城へ招かれている件ですな。」

「私は行きたいわ。母様に会って、ご挨拶しなくちゃ。」

「そうですな。先代様が眠っておられるのなら、我らも行くべきでしょう。」

「しかしよう、魔導帝国ってのが留守を狙って来やしないかい?」

「そうですね。それでは我々二人で赴き、用事が済み次第飛んで帰るとしましょう。」

「え、サポニス飛べるの?」

「はい、杖を浮かせて飛ばしておりますので、その上に乗れば、ですがね。」

「でなければ先代と空中戦の特訓なんてできませんから。」

 もしかして、この中で一番強いのはサポニスなのでは?
 と誰もが思ってしまった。

「出立は明後日。我々も森の恵みを持参すると致しましょう。」

 それから3人は仲良く森を探検したり、マジックアイテムの材料となる森のキノコや木の実を集めたり、晩御飯の鹿狩りに同行して楽しく過ごした。

 その日の夜はチコおばちゃんとナギおじさま、それからお姉ちゃん、アルスと一緒に鹿肉の煮込みを食べた。
 アルスはナギおじさまから剣の扱いを熱心に学び、お姉ちゃんはおやつの作り方をチコおばちゃんに教わっていた。
 今度侍女たちと作ってみるらしい。
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