2 / 48
前編 猫馬鹿狛犬編
2話 夏祭りの誘いと、狛犬、にぎやかな街へ
しおりを挟む今日も駆けていく猫の姿を見送り、狛犬は「こらこら」と声をかける自分に苦笑した。
(まるで猫の親のようだ。いや、兄だ、妹を見守る兄のようだ。)
「それじゃあ、あっしは、買い物にでも出かけましょうかね。
かわいこちゃんのために」
もちろん目的は、猫のおやつ。
三毛猫ミーは近所の猫おばさんの家で朝夕の世話になっている地域猫だが、それでもおやつは格別な喜びだろう。
もはや、生粋の猫馬鹿。ミーが大喜びする顔を想像しては、狛犬はうっとりと目尻を下げる。
狛犬は、ひょいっとカンカン帽を頭に乗せた。
そのしぐさが案外さまになり、彼を小粋な夏男に見せた。
帽子をかぶっても、日差しはまぶしくきつかった。
それでも、狛犬は思うのだ。
緑陰からのぞく、真っ青な空、白い雲は美しいと。
今日彼は、神社下ののどかな町ではなく、中心街のにぎやかな通りを目指す。
まずは石段を降りてすぐ、電信柱の張り紙に目が留まった。
それは、児珠神社の夏祭りを知らせる手描きのポスターだった。
開催は8月下旬。夜空に揺らめくオレンジ色のちょうちんに、浴衣の人々。
(ああ、あれは町中の人、すべてが集まるのではないか?いやそれ以上の賑わいだ。)
ピーヒャラと祭りばやしを思い浮かべるだけで、つい狛犬時代のしっぽが揺れてしまう。
夏の最後を飾るあの祭り。祭りが終わればもう秋だ。
「そう、そう、あの屋台」
どこにいても漂ってくる、香ばしいイカを焼く匂い。
「あの子、イカ焼き好きだろうなぁ。たまらないでござんすね、こりゃ。」
***
腹のあたりをさすりながら、狛犬はご機嫌につぶやく。
「あ、あっし、ちゃんとお金も持ってますよ。ほら、この腹巻の中にがま口入れてますって」
(神様からお借りしたと言うか、番犬のお駄賃ってとこでやんすかね!)
それにしてもと、狛犬はしみじみと汗をぬぐった。
神社周辺はすでに歩きなれ、コンビニエンスという商店も知っている。
あれはいい、なんでもある、夢の雑貨屋だ。
しかし、猫の食べ物となるとその店の品ぞろえはよくない。
狛犬が思うに、なにかこうもっと、七輪でこんがり焼いたサンマがいいのではないか?
いややはり、イカ焼きか?
そんなことを思いながら、歩き続けた。
このあたりならば、いまだ、物珍しくはあるが、大きく迷うことはない。
しかし、しばらく歩くと、足取りが鈍くなる。
見上げるような高さのビルが並び、街はひどく騒がしい。ここ数十年で姿を変えた、新しい「町」の空気だ。
そして、人々の衣服もまた奇妙でやんす!
短いズボンにノースリーブの男女が横をすれ違った。女などへそを出している。
(まさか!肌着一枚で町中を歩いているでやんすか!?は、はしたないにもほどがあるでやんす!)
しかし、この暑さだ。汗を拭いながら、狛犬は思う。
(いや、待てよ…。ひょっとして、これが新しい作法か?涼しそうに見えるでやんすね…)
「そのうち、あっしも試してみたいでやんす」
時間があれば、洋品店にも寄ってみようと思う狛犬なのであった。
狛犬は何度も立ち止まり、ひどく心細げにきょろきょろとあたりを見回すようになった。
歩く姿も長身をかがめ、いつもより一回り小さく見えるほどだ。
道を尋ねようとも、道行く人々は、誰も彼もが小さな四角い板を覗き込んでいるため声をかけづらい。
カンカン帽の下、拭う暇もないほど、汗が落ちる。
どのくらい歩いただろうか、ふと、顔を上げると、「風流本町商店街」のアーチ看板が目に入った。
狛犬の下駄がカランコロンと、懐かしい石畳に心地よく響く。道幅は狭く、軒先に日除けテントを広げた店々が並ぶ。
活気に満ちた、どこか温かい人々の息遣いが、狛犬の心を和ませた。
所狭しと商品が並べられた寿金物店。
やかんや鍋が天井からも吊り下がっている。
その隣は喫茶店だった。古びたドアの先に、『喫茶店エコー』と書かれた看板が見える。
熱い日差しから逃れるように、狛犬の足は自然とそちらへ向かった。
そして彼の好奇心が、ただ純粋にその扉を開かせることになる。
2
あなたにおすすめの小説
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
