あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

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前編 猫馬鹿狛犬編

2話 夏祭りの誘いと、狛犬、にぎやかな街へ

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今日も駆けていく猫の姿を見送り、狛犬は「こらこら」と声をかける自分に苦笑した。
(まるで猫の親のようだ。いや、兄だ、妹を見守る兄のようだ。)

「それじゃあ、あっしは、買い物にでも出かけましょうかね。
かわいこちゃんのために」

もちろん目的は、猫のおやつ。
三毛猫ミーは近所の猫おばさんの家で朝夕の世話になっている地域猫だが、それでもおやつは格別な喜びだろう。

もはや、生粋の猫馬鹿。ミーが大喜びする顔を想像しては、狛犬はうっとりと目尻を下げる。

狛犬は、ひょいっとカンカン帽を頭に乗せた。
そのしぐさが案外さまになり、彼を小粋な夏男に見せた。

帽子をかぶっても、日差しはまぶしくきつかった。
それでも、狛犬は思うのだ。

緑陰からのぞく、真っ青な空、白い雲は美しいと。


今日彼は、神社下ののどかな町ではなく、中心街のにぎやかな通りを目指す。


まずは石段を降りてすぐ、電信柱の張り紙に目が留まった。
それは、児珠神社の夏祭りを知らせる手描きのポスターだった。
開催は8月下旬。夜空に揺らめくオレンジ色のちょうちんに、浴衣の人々。
(ああ、あれは町中の人、すべてが集まるのではないか?いやそれ以上の賑わいだ。)

ピーヒャラと祭りばやしを思い浮かべるだけで、つい狛犬時代のしっぽが揺れてしまう。

夏の最後を飾るあの祭り。祭りが終わればもう秋だ。
「そう、そう、あの屋台」
どこにいても漂ってくる、香ばしいイカを焼く匂い。
「あの子、イカ焼き好きだろうなぁ。たまらないでござんすね、こりゃ。」

***

腹のあたりをさすりながら、狛犬はご機嫌につぶやく。
「あ、あっし、ちゃんとお金も持ってますよ。ほら、この腹巻の中にがま口入れてますって」
(神様からお借りしたと言うか、番犬のお駄賃ってとこでやんすかね!)
それにしてもと、狛犬はしみじみと汗をぬぐった。

神社周辺はすでに歩きなれ、コンビニエンスという商店も知っている。
あれはいい、なんでもある、夢の雑貨屋だ。

しかし、猫の食べ物となるとその店の品ぞろえはよくない。
狛犬が思うに、なにかこうもっと、七輪でこんがり焼いたサンマがいいのではないか?
いややはり、イカ焼きか?

そんなことを思いながら、歩き続けた。
このあたりならば、いまだ、物珍しくはあるが、大きく迷うことはない。

しかし、しばらく歩くと、足取りが鈍くなる。
見上げるような高さのビルが並び、街はひどく騒がしい。ここ数十年で姿を変えた、新しい「町」の空気だ。

そして、人々の衣服もまた奇妙でやんす!
短いズボンにノースリーブの男女が横をすれ違った。女などへそを出している。
(まさか!肌着一枚で町中を歩いているでやんすか!?は、はしたないにもほどがあるでやんす!)
しかし、この暑さだ。汗を拭いながら、狛犬は思う。
(いや、待てよ…。ひょっとして、これが新しい作法か?涼しそうに見えるでやんすね…)

「そのうち、あっしも試してみたいでやんす」
時間があれば、洋品店にも寄ってみようと思う狛犬なのであった。

狛犬は何度も立ち止まり、ひどく心細げにきょろきょろとあたりを見回すようになった。
歩く姿も長身をかがめ、いつもより一回り小さく見えるほどだ。

道を尋ねようとも、道行く人々は、誰も彼もが小さな四角い板を覗き込んでいるため声をかけづらい。

カンカン帽の下、拭う暇もないほど、汗が落ちる。

どのくらい歩いただろうか、ふと、顔を上げると、「風流本町商店街」のアーチ看板が目に入った。
狛犬の下駄がカランコロンと、懐かしい石畳に心地よく響く。道幅は狭く、軒先に日除けテントを広げた店々が並ぶ。

活気に満ちた、どこか温かい人々の息遣いが、狛犬の心を和ませた。
所狭しと商品が並べられた寿金物店。
やかんや鍋が天井からも吊り下がっている。
 
その隣は喫茶店だった。古びたドアの先に、『喫茶店エコー』と書かれた看板が見える。
熱い日差しから逃れるように、狛犬の足は自然とそちらへ向かった。
 
そして彼の好奇心が、ただ純粋にその扉を開かせることになる。
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